若狭ネット

福井と関西を結び脱原発をめざす市民ネットワーク

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06月

長期エネルギー需給見通し(案)への意見募集に3つの意見を提出しました

 

長期エネルギー需給見通し(案)への意見募集に3つの意見を提出しました。
(意見募集は7月1日締切です)

—-<意見1>————————————————————————————–
「世界最高水準の規制基準」に適合した原発でもM6.5の直下地震に耐えられない!原発再稼働を中止せよ!
「横ずれ断層によるM6.5の直下地震が起こると、1340ガルの極めて強い地震動が原発を襲う」ことが原子力安全基盤機構JNESの解析(2004年度報告)で明らかにされており、この地震動には国内のほとんどすべての原発が耐えられない。具体的に言えば、炉心溶融事故に至るギリギリの地震動の大きさを示すクリフエッジは、川内1・2号で1004ガルと1020ガル、高浜3・4号で973ガル、大飯3・4号で1260ガル、伊方3号で855ガルにすぎず、1340ガルの地震動はこれらのクリフエッジをはるかに超える。「世界最高水準の規制基準」に適合した川内1・2号や高浜3・4号はM6.5の直下地震に耐えられず、炉心溶融事故が避けられない。現在審査書(案)が出されている伊方3号や審査中の大飯3・4号も同様であり、M6.5の直下地震に耐えられない。つまり、原子力規制委員会の規制基準では、確かに活断層の長さや連動の可能性については従来の原子力ムラの常識を覆して地震学界の評価法を採用することになったが、地震動評価法については、これまで通りに地震動を過小評価する手法を用いている。原子力安全基盤機構JNESは2014年3月に原子力規制庁へ統合されたため、JNESの解析結果は原子力規制庁の解析結果でもある。そして、原子力規制庁はこのJNESの解析結果について、十分良く承知した上で、2015年1月16日の市民団体との話し合いの場で、「専門家を入れて断層モデルの妥当性について検討すべきだ」と認めている。しかし、その後、検討する姿勢を見せていない。このままJNESの断層モデルの妥当性を検討せず、M6.5の直下地震で1340ガルの地震動が原発を襲うこと、この地震動はクリフエッジを超えるため炉心溶融事故が避けられないこと、これらの事実を十分認識しながら、無視し続けるとすれば、原子力規制委員会・原子力規制庁が「無作為の瑕疵」を犯すことになる。にもかかわらず、原発を再稼働させ、2030年に20~22%もの比率を確保するというのは、フクシマ事故を教訓としない暴挙である。
—-<意見2>————————————————————————————–
原発再稼働のために再生可能エネルギーを抑制している!再生エネの「接続可能量」を撤回せよ!
再生可能エネルギーについて「最大限の導入拡大と国民負担の抑制を両立させる」としているが、原発を「最大限導入」させるために再生可能エネルギーを抑制しており、再生可能エネルギーの普及拡大を抑制することでコスト低減を困難にしている。
再生可能エネルギーの「接続可能量」は3・11震災以前に稼働していた全原発から福島第一原発6基と福島第二原発4基を除く44基(最近廃炉になった5基および直下に活断層があり廃炉に瀕する敦賀2号等も含まれる)に建設中の3基を加えた47基が震災前30年の平均設備利用率で稼働すると想定し、30日間の出力抑制を仮定して「接続可能量」を各電力会社ごとに算出したものである。昼間最低負荷に占める原発の比率は四国電力63.5%、北海道電力56.9%、九州電力55.7%と高く、これ以外でも、北陸電力48.3%、中国電力36.4%、東北電力29.7%にもなる。再生可能エネルギーの接続拒否が北海道電力や九州電力で大きな問題になったが、原発を動かさなければ「接続可能量」は2倍以上になり、接続拒否問題は解決する。この接続可能量を超えて接続することは可能だが、無補償で無制限の出力制限が課されるため、事実上の接続拒否に等しい。これは、「原発の最大限の導入拡大」のために再生可能エネルギーを「最大限抑制」するものに他ならない。
固定買取価格は、日本では40円/kWhから始まったが、ドイツなど欧米では日本の2倍の80円/kWhから始まった。そして、再生可能エネルギーが急速に普及するに従ってコストが系統的に低下し、現在では20円/kWhを割り込んでいる。後発の日本はこの先例に学びながらコスト低減に取り組むことができる上、柔軟性の高い電力システムの開発やスマートグリッドなどのデマンドサイドの高度な管理手法を組み合わせれば、再生可能エネルギーの一層急速な普及とコスト低下を図ることができる。それを不可能にしているものこそ、再生可能エネルギーの「接続可能量」の低い設定である。原発の再稼働を断念し、2030年に20~22%の原発比率を撤回すべきである。そして、「接続可能量」を撤回し、再生可能エネルギー比率を40%以上へ引き上げるべきである。
—-<意見3>————————————————————————————–
発送電分離を早め、送電網を公的管理に移せ!原発優遇の電気料金制度を撤廃し、新たな優遇策を導入するな!
再生可能エネルギーを最大限に普及させるためには、送電網の所有権を分離すべきだが、法的分離の場合でも電力会社による影響をできる限り小さくするため、その管理運営を全国統一の送電網として公的管理に移し、中立性の徹底を図るべきである。再生可能エネルギーの出力変動は送電網が広がれば広がるほど平均化されるので、地域的・時間的な出力変動の影響を緩和することができるし、電力システムの柔軟性を最大限に生かすことができる。電力会社の都合に合わせた地域間電力融通枠の確保などは一切認めず、全国統一の送配電網として管理すべきである。送電網や配電網の整備も公的管理運営機関が主導的に行い、その費用は全国規模で回収すべきである。そうすれば、北海道と東北の連係線など高価な送電網の整備も地域負担を減らすことができる。また、揚水発電所などの管理運営も送配電網の公的管理者に任せるべきである。こうして、再生可能エネルギーの優先接続、優先給電、優先融通を実施して、2030年に40%以上の目標を掲げ、再生可能エネルギーを最大限に拡大すべきである。
託送料金の透明性を図り、原発に係る不透明なコスト転嫁を全廃すべきである。たとえば、福島第一原発重大事故の賠償金等9兆円の交付国債(厳密には、9兆円から招来の東電株売却益を除いた額)を電気料金で回収する仕組みは撤廃すべきであり、そのためには東電を破産処理して、東電役員・株主・金融機関の責任を明確にし、全資産を売却し、それでも不足する額は原発を推進してきた国の責任で税金から負担すべきである。そうでなければ、電力全面自由化後は、税金の代わりに託送料金を介して電気料金で回収されることになり、再生可能エネルギー発電事業者の電気料金に原発事故賠償費が含まれるという奇妙なことが起こる。また、廃炉後の原発施設の残存簿価や廃炉費積立不足金が10年間で電気料金から回収する仕組みが導入されているが、電力自由化後は託送料金に算入されようとしており、これも撤廃すべきである。でなければ、再生可能エネルギー事業者の電気料金に原発の廃炉関連費が含まれることになる。さらに、原発に基準価格を導入して安全対策工事費・廃炉費・再処理費などが確実に回収される制度を導入して原発事業者に有利な電気料金制度を導入しようとしているが、これもやめるべきである。要するに、電力自由化の下では原発は生き残れないのであるから、無理に原発優遇策を講じるのをやめ、原発の再稼働を断念し、原発ゼロとすべきである。

原子力規制委員会へ緊急時被ばく限度引き上げ反対の意見を提出しました

原子力規制委員会は、原発重大事故に備えて緊急時被ばく限度の250mSvへの引き上げを策動しており、厚生労働省へ働きかけて電離則や運用指針を改定させ、原子力規制委員会も管轄内の規則を改定しようとしています。その規則改正案が今、パブリックコメントの最中ですので、下記の3つの意見を提出しました。

規制基準を満たしても破局的な原発重大事故を防げないため、労働者に「健康を犠牲にして破滅的事態を防げ」というのはひどすぎます。そんな原発の再稼働は認めるべきではありません。川内原発をはじめ、原子炉設置許可(再稼働認可)を即刻取り消すべきです。

——<意見1>—————————————————————————————————

原子力規制委員会は、規制基準を満たしても重大事故は起こりうるため、それに備えて緊急時被ばく限度を250mSvへ引き上げるとしているが、「公益との比較考量」により正当化されれば、この限度を超えることすら容認する運用姿勢がうかがえる。すなわち、原子力規制庁が第8回原子力規制委員会(2015.5.20)で示した資料「緊急作業時の被ばくに関する規制の改正及びそれに伴う意見募集の実施について(案)」によれば、「法令上は限度と規定するが、限度超過時の対応に関しては、(1)従事者のリスクと公益との比較考量より不要な被ばく(=正当化原則に当てはまらない)、或いは(2)不適切な防護措置による限度超過、と認められた場合には、法令に基づき所要の措置を行う運用とする(緊急作業時の被ばく線量のあり方に関する、国際的な考え方での参考レベルを考慮)。」(p.5)とある。これでは、事実上、原子力事業者が「公益との比較考量で正当化される」と判断すれば、重大事故発生時の緊急作業で労働者に無制限の被ばくを強要することさえ可能になってしまう。

実際、原発重大事故の進展過程でベント作業などが必要になった場合などでは、この250mSvの限度を超える事態すら起こりうる。事前のいかなる想定をも超えて進展するのが原発重大事故の本質的性格である。原子力規制委員会は、「規制基準を満たしていても重大事故は起こりえるし、どのように事態が発展するのか計り知れないから、それに対応できるように緊急時被ばく限度を250mSvへ引き上げる」というのだが、250mSvを超えない範囲で破滅的事態への事故の推移を防ぐことができるという保証はない。だからこそ、運用姿勢として「正当化されない限度超え被ばく」は認めないが、「正当化されうる限度超え被ばく」は許容する方針を採っているのではないか。

もし、そうではないというのであれば、「100mSvでは破滅的事態への進展を防ぐことができず、250mSvであれば防ぐことができる」という科学的・技術的な根拠を示すべきである。そうでなければ、250mSvへの被ばく限度引き上げによって、事実上、無制限の被ばくを許容することになってしまうのは目に見えている。

このような高線量被ばくを労働者に強要しなければ成立たない原発の再稼働は認めるべきではなく、そのような事態を万が一にでも防ぐことができないと原子力規制委員会が判断しているのであれば、「緊急時被ばく限度を250mSvへ引き上げるという小手先の対応で破滅的事態への進展を防ぐことができる」という非科学的幻想を国民にばらまくのではなく、原子炉設置許可(再稼働認可)を取り消すのが、本来、原子力規制委員会としてやるべき仕事であろう。

——<意見2>—————————————————————————————————

原子力規制庁が第8回原子力規制委員会(2015.5.20)で示した資料「緊急作業時の被ばくに関する規制の改正及びそれに伴う意見募集の実施について(案)」によれば、「確定的影響を回避でき必要な作業を迅速に行える値として250mSv」(p.4)と、250mSvが急性放射線障害すなわち確定的影響を回避できる閾値であるかのように扱われている。しかし、原子力規制委員会の依拠しているICRPによっても「150mSvで精子数の減少」という確定的影響が生じることは明白であり、広島・長崎の原爆被爆者や入市被爆者においても250mSv以下で急性症状が発生している例も見られる。現在の特定高線量作業従事者に対する100mSvの被ばく限度内においてさえ、短期間に被ばくすれば、確定的影響が回避できるかどうかは疑わしいのが実態である。250mSvで確定的影響を回避できるとする科学的根拠を明示すべきである。それができない限り、労働者の緊急時被ばく限度を100mSvから250mSvへ引き上げるのは、いかに志願する者に限定されるとはいえ、労働者の健康に生きる権利を侵害するものであり、憲法違反である。

また、緊急時と通常時の線量を区別して管理し、「全就労期間中(18才から50年間を想定)に受ける総実効線量、いわゆる生涯被ばく線量は、両線量を合算して1000mSvを超えない範囲とする。」(同上p.6)としているが、これは極端な高線量・大量被ばくを労働者に強要し、急性放射線障害とがん・白血病のリスクは極めて高くなり、他のどの職業と比べての特段に高い労働災害リスク(年間)を強要することになる。原子力規制委員会は放射線被曝のリスクについてはICRPを根拠としているが、ICRPは低線量を分散被曝する通常被曝と高線量を集中被曝する緊急被曝とでDDREF(線量・線量率効果係数)を変えており、緊急被ばく線量を通常被曝線量と単純に合算してリスク評価するのはICRPに則しても問題である。緊急被ばく線量のDDREFをICRPのように2とするのであれば、緊急時被ばくの250mSvは通常被ばく線量では500mSvに相当すると見なさねばならない。そうすれば、緊急作業で250mSvを被ばくした者は通常被ばく限度の観点から25年間は被ばく労働から排除されるべきである。いずれにせよ、労働者に一層の被曝を強要し、急性放射線障害や晩発性障害のリスクを他の労働現場よりはるかに高めるような規則改正は行うべきではない。

 ——<意見3>—————————————————————————————————

緊急被ばく限度の100mSvから250mSvへの引き上げは自動的に原子力事業者の判断で行われることになっているが、これは「迅速さ」を理由にした原子力規制委員会の責任放棄であり、また、規制基準の重大な欠陥を示すものにほかならない。

原子力規制庁が第8回原子力規制委員会(2015.5.20)で示した資料「緊急作業時の被ばくに関する規制の改正及びそれに伴う意見募集の実施について(案)」によれば、「始期について、現在設定されている100mSv の被ばく限度においては、従来どおり、事業者の判断とする。その上で、原子力事業所の敷地境界や管理区域の外に放射性物質の漏えいが確認、あるいはその蓋然性が高い場合(原災法10条通報事象の一部及び同法15条対象事象に該当)、迅速に行動を開始できるよう対象となる事象の通報により自動的に250mSv に限度を引上げ。」(p.2)とある。原子力事業者から「通報」を受けてから政府や原子力規制委員会が事態を把握して原子力緊急事態宣言を発令し、緊急被ばく限度を引き上げる余裕もないという事態とは一体どのような事態を想定しているのか。

仮に、原子力事業者の判断が間違っていて破滅的事態への進展のおそれがない場合でも、「通報」さえあれば、労働者に緊急時被ばく限度までの被ばくが強要されることになる。それが後で間違っていたと分かっても、原子力事業者の責任が問われることはなく、原子力規制委員会が責任を問われることもない。これでは、極めて無責任に労働者の緊急時被ばく限度が引き上げられることを意味し、法的な無責任状態が生じ、労働者保護の観点からも、また、憲法に保証された健康に生きる権利が無責任に侵害されるという観点からも、重大な問題である。

また、規制基準を満たしても、かくも急速に事故が進展して破滅的事態へ進展するパスが残されていると原子力規制委員会が判断しているとすれば、そのような基準自体に欠陥があると言わざるを得ない。そのような規制基準を満たしていても重大事故を防ぐことはおろか、破滅的事態へあっという間に進展してしまうと判断しているのであれば、そのような原子炉の設置許可(再稼働認可)は行うべきではない。即刻、川内原発をはじめ、これまでの原子炉設置許可を取り消すべきである。

厚生労働省に「緊急時被ばく限度引き上げ反対」の意見を出しました

厚生労働省は原子力規制委員会からの提言を受けて、放射線作業従事者の緊急被ばく限度を250mSvへ引き上げようとしており、5月15日から6月14日まで電離則改正案への意見を募集しています。6月9日の市民16団体との交渉でそのひどい実態暴かれましたので、その結果に基づき、下記の3つの意見を厚生労働省へ提出しました。
厚生労働省は、これまで、労働安全衛生法の労働災害防止の目的に反する今回の緊急時被ばく限度の大幅引き上げに慎重姿勢を見せてきましたが、今回の交渉では「重篤な急性放射線障害」または「永久に続く急性放射線障害」が起こらなければ「急性放射線障害が起きても良い」という観点を前面に打ち出してきたのです。これでは、放射線作業従事者の健康は守れません。
そもそも、このような緊急時被ばく限度引き上げが必要になったのは、原発を再稼働させるからであり、たとえ規制基準を満たしていても、原発を動かせば重大事故の発生を防げないという原子力規制委員会の判断に基づいているからです。労働者の犠牲の上に重大事故に備えようという発想は断じて許せません。
原発の再稼働を中止し、緊急時被ばく基準限度引き上げをやめるべきです。
事態は切迫しています。緊急時被ばく限度引き上げ反対の全国署名に、皆さんもご協力ください!全国署名の署名用紙と呼びかけはこちら

—-<意見1>——————————————————————————————————

労働安全衛生法の目的は第一条記載の「労働災害の防止」および「職場における労働者の安全と健康を確保するとともに、快適な職場環境の形成を促進する」ことであり、「労働災害」とは第二条に「労働者が負傷し、疾病にかかり、又は死亡する」ことと定義されている。つまり、死亡に至らない「負傷や疾病」のレベルが「重篤」であるとか「永久に続く」とかの限定はなく、治療によって機能が一定程度回復するような負傷や疾病についても、その発生を防止することが法の目的とされている。今回の電離則改正案では、250mSvまでの特例緊急被ばく限度が導入されようとしているが、労働基準局労働者健康対策室長補佐による6月9日の市民団体への回答によれば、250mSvの根拠は「急性放射線障害」(または「確定的放射線障害」)の防止ではなく、「重篤な急性放射線障害」または「永久的に続く急性放射線障害」の防止だということである。250mSv以下でも、たとえば、150mSvの被曝で精子数が減少することがICRPでも認められており、広島・長崎の被爆者の間でも250mSv以下の被曝で急性症状が見られている。これらの急性放射線障害はたとえ一定期間後に回復されたとしても、その後に、その被曝に起因した健康破壊の発生が否定できない以上、防止するのが労働安全衛生法の趣旨である。これは長期にわたる継続的健康管理では回復できない。にもかかわらず、「重篤または永久に続く急性放射線障害」以外の急性放射線障害が許容されるというのは、労働災害防止という目的に反する。たとえ重篤でなく一時的であっても、急性放射線障害の発生は防止すべきであり、250mSvへ引き上げるのはもってのほかである。また、がん・白血病には放射線被曝に閾値はなく、公衆被ばく限度の250倍にも相当する250mSvを短期間に集中して浴びると、他の労働現場における労働災害の年発生リスクを大きく超えることになる。このような緊急被ばく限度の導入は労働安全衛生法に違反しており、導入すべきではない。

—-<意見2>——————————————————————————————————

指針改正案では、生涯線量を1Svとし、18才から68才までの50年間の被曝労働で1Svを超えない範囲であれば、「5年間100mSv以下かつ年50mSv以下」の線量限度を超えて被曝しても許容しようとしている。現在の特定高線量作業従事者に対する7日間100mSvの緊急被曝限度もこの範囲内である。100mSvを250mSvに引き上げれば、通常の被曝労働に対する5年間100mSvの限度を超えるため、これをなし崩し的に緩和しようとしているが、250mSvを被曝した労働者には少なくとも11年間は被曝労働に従事させるべきではないし、68才までのいかなる5年間においても100mSvを超えることは許されるべきではない。もし、これを緩和するのであれば、「5年間100mSv以下かつ年50mSv以下」の通常の被ばく限度を導入した法の根拠そのものを下位の指針で掘り崩すことになる。それは、法体系として許されることではない。また、厚生労働省は放射線被曝のリスクについてはICRPを根拠としているが、ICRPは低線量を分散被曝する通常被曝と高線量を集中被曝する緊急被曝とでDDREF(線量・線量率効果係数)変えており、緊急被曝線量を通常被曝線量と単純に合算してリスク評価するのはICRPに則しても問題である。緊急被曝線量のDDREFをICRPのように2とするのであれば、250mSvは通常被曝線量では500mSvに相当すると見なさねばならない。そうすれば、緊急作業で250mSvを被曝した者は通常被曝限度の観点から25年間は被曝労働から排除されるべきである。いずれにせよ、指針改正案のように、味噌も糞も一緒くたにして労働者に一層の被曝を強要し、急性放射線障害や晩発性障害のリスクを他の労働現場よりはるかに高めるような改正は行うべきではない。

—-<意見3>——————————————————————————————————

緊急被曝限度の250mSvへの引き上げは、原発再稼働に伴う重大事故発生に備えたものである。原発重大事故が発生した状況では、原子炉は制御下になく、労働現場の放射線環境も制御されておらず、労働安全衛生法の対象とする労働現場には相当しない。現在の特定高線量作業従事者に対する7日間100mSvの緊急被曝限度も「年50mSv」の制限を超えているとは言え「5年間で100mSv」の通常被曝労働の範囲内である。ところが、250mSvへの緊急被ばく限度引き上げは通常被ばく限度のいずれをも超えてしまう。労働安全衛生法の下位にある電離則で、通常被曝労働に対する被ばく限度を大幅に超えるような緊急被ばく限度を定めるのは労働安全衛生法違反であり、このような改正はすべきでない。また、このような高線量被曝が必要になるのは原発を再稼働させるからであり、原発を再稼働させなければ労働者を危険にさらすことはない。厚生労働省は、原発重大事故の発生を万が一にも防ぐことができず重大事故に備えて緊急被ばく限度を引き上げなければならないような作業現場での労働は原則禁止すべきであり、少なくとも、労働安全衛生法の目的を達成する観点から、このような緊急被ばく限度の引き上げのための省令改正案を撤回すべきである。

 

伊方3号機審査書(案)に対する意見を5通提出しました

伊方3号機審査書(案)に対する意見を下記の通り5通提出しました。
中央構造線断層帯480kmを基本震源モデルとしており、一見すると、極めて大きな地震動を評価しているかのように見えますが、応力降下量の設定法に根本的な過小評価があります。また、入倉らの断層モデルのレシピにおける地震規模の過小評価は、壇らのモデルやFujii-Matsu’uraのモデルで明らかになっており、原子力規制委員会はこれを知りつつ、高浜や大飯で入倉モデルを用いて地震動を過小評価していることになります。
少し難しい内容ですが、参考になれば幸いです。詳しくは、伊方裁判へ提出した私の意見書に書いておりますのでそちらも(下記からダウンロードして)ご参照下さい。
http://wakasa-net.sakura.ne.jp/news/Ikata-ikensho.pdf
http://wakasa-net.sakura.ne.jp/news/Ikata-bessatu.pdf

—<意見1>—————————————————
「d. 応答スペクトルに基づく地震動評価については、敷地が敷地前面海域の断層群(中央構造線断層帯)から約8kmと断層近傍にあることから、検討ケース毎に距離や地震規模の適用性を吟味し、Noda et al.(2002)の方法等の距離減衰式を採用した。」(p.15)としているが、耐専スペクトルの適用性については、最近の震源近傍での地震観測記録との整合性、日本電気協会での耐専スペクトルの見直し作業、さらに、他原発での適用例等も踏まえて再検討し、審査をやり直すべきである。
「敷地前面海域69km北傾斜ケース」(気象庁マグニチュードM7.9,等価震源距離Xeq=20.4km)に対する耐専スペクトルが申請時の基準地震動Ss-1(570ガル)を超えたためにSs-1Hが650ガルへ引き上げられた。ところが、敷地前面海域54km鉛直基本ケース(M7.7, Xeq=14.4km)および69km鉛直基本ケース(M7.9, Xeq=15.5km)については「耐専スペクトルの検証データがない範囲であり、内陸補正をしてもその他距離減衰式と大きくかい離する」(四国電力,第156回原子力発電所の新規制基準適合性に係る審査会合資料1-1, p.15(2014.11.7))との理由で適用外にされている。これらは内陸補正をしない場合には伊方3号のクリフエッジ(855ガル)を超えるため、採用されなかった可能性がある。このような配慮をしている限り、「規制当局への国民の信頼は回復されない」と認識すべきである。
たとえば、関西電力の高浜3,4号では「FO-A-FO-B 断層(M7.4,Xeq=16.4km:傾斜角75度のケース)」および「FO-A-FO-B断層と熊川断層の連動(M7.8,Xeq=16.1km程度:傾斜角75度のケース)」について耐専スペクトル(内陸補正なし)で評価している。これらは、伊方3号における敷地前面海域54kmおよび69kmの基本ケースと極めて接近しており、伊方3号の場合に耐専スペクトルを適用できないとする理由は成立たない。四国電力は「断層モデルによる評価結果や他の距離減衰式とのかい離があまりに大きいものについては, 耐専スペクトルを適用することはできないと判断」したと主張しているが、かい離が大きいかどうかは判断の基準にならない。現に、関西電力の高浜3,4号の場合、断層モデルによる地震動評価結果は耐専スペクトルの1/2-1/3にすぎず、大きくかい離しているが、そのまま適用し、基準地震動を引き上げている(関西電力,第63回原子力発電所の新規制基準適合性に係る審査会合,資料3-2(2013.12.25))。このかい離は断層モデルにおける地震動の過小評価を示唆しているのであって、耐専スペクトルが過大評価なのではない。原子力規制委員会は高浜3,4号におけるこのような耐専スペクトルの適用について、「平成21年に旧原子力安全委員会で行われた『応答スペクトルに基づく地震動評価』に関する専門家との意見交換会において、耐専スペクトルの適用性の検討が行われ、それまでの国内外の震源近傍の観測記録による適用性が報告されています。これを踏まえ申請者は、FO-A-FO-B-熊川断層による地震の応答スペクトルに基づく地震動評価において、地震規模、震源距離等から、Noda et al.(2002)の方法を適用しています。」と高浜3,4号審査書へのパブリックコメント回答(「考え方」2015.2.12)で記している。この考え方に基づけば、伊方3号における敷地前面海域54kmや69kmの基本ケースについても耐専スペクトルを適用するのが妥当だということになる。
さらに、原子力規制委員会,規制庁は、現在の耐専スペクトルには震源近傍の地震観測記録が反映されておらず、日本電気協会で見直し作業が進行中であると認識しており、本来であれば、改訂された耐専スペクトルを適用すべきではあるが、少なくとも、敷地前面海域54kmや69kmの基本ケースに対して現在の耐専スペクトルを適用すべきである。
また、耐専スペクトルは平均像を示すだけであり、偶然変動を無視している。たとえば、どの地震に対しても距離減衰式を求める際に通常は「倍半分」以上のバラツキが見られ、耐専スペクトルの内陸地殻内地震に関する元データを評価すれば「倍半分」をはるかに超えるばらつきが見られる。後者には震源特性や伝播経路特性の違いによるバラツキが含まれるとは言え、これらを除いた偶然変動の大きさは前者の「倍半分」程度だと考えられる。したがって、耐専スペクトルに対して2倍の余裕を見込むのが保守的な評価と言え、これを考慮して基準地震動を作成し直すべきである。
—<意見2>—————————————————
「2004年北海道留萌支庁南部地震については、佐藤ほか(2013)でボーリング調査等による精度の高い地盤情報を基に基盤地震動が推定されており、これに不確かさを考慮した地震動を、震源を特定せず策定する地震動として採用した。」(p.18)とあるが、震源近傍における地震計設置不足を補う観点が欠落しており、また、地震観測記録がごく最近に限られているなど地震観測記録の時間的空間的限界を補う観点が欠落している。地震観測記録の不足をいかに補うべきかについて十分検討した上で審査をやり直すべきである。
留萌地震についていえば、最大の「不確かさ」は震源近傍に設置された地震計が少なく、また、震源を特定して策定する地震動においては検討されている破壊開始点の不確かさなどが検討されていない。この点では、(財)地域地盤環境研究所による解析結果を取り入れるべきである。同研究所は「震源を特定せず策定する地震動に関する計算業務報告書」(2011.3)の中で、北海道留萌支庁南部地震の再現モデルを構築し、断層最短距離15km 以内の仮想地表観測点での地震動を解析している。これは地震計の設置不足を補う解析と言える。この地震ではHKD020 地点の地表地震計で1,127 ガル(EW)、536 ガル(NS ) の地震動が観測されているが、他の仮想地表観測点では約1,300 ガル(EW)、約1,700 ガル(NS) の地震動が解析されている。また、震源断層をそのままにして、破壊開始点やすべり角など破壊の不確かさを補う解析も行っている。その結果、アスペリティ下端中央から破壊が始まった場合には、約2,000 ガル(EW)、約1,050 ガル(NS) の地震動が起こるとの解析結果が出されている。これらは仮想地表観測点での地震動評価結果であるため、解放基盤表面はぎとり波に換算しなければならないが、単純に比例計算すれば、川内原発の620 ガルの基準地震動Ss-2 が1.8 倍(EW)の1,100 ガルにもなりうる。これは伊方3号のクリフエッジ(855ガル)を超えている.
また、原子力安全基盤機構JNESは「震源を特定しにくい地震による地震動の検討に関する報告書(平成16 年度)」(2005.6)の中で、国内地震データに合わせて独自の断層モデルを構築し、震源近傍の地震動評価を行っている。その結果、横ずれ断層によるM6.5の地震において、震源近傍の地震基盤(せん断波速度Vs=2600m/s)表面で1,340.4ガルの地震動になるとしている。JNESは2014年3月に原子力規制庁に統合されており、原子力規制庁もこの事実を確認している。原子力規制庁は当初、「旧JNESが試算した地震動は、地震動評価の際に参照する基準地震動の超過確率が、どの程度の大きさの超過確率になるか確認する目的で、厳しいパラメータを設定して評価した結果であり、試算した地震動をそのまま震源を特定せず策定する地震動として用いるために試算したものでないことから、今回の評価では検討の対象にしていません。」(川内1・2号の審査書(案)パブコメ回答(「考え方」)、第23回原子力規制委員会資料1(2014.9.10))としていたが、2015年1月16日の市民団体との話合いの中で、北海道留萌支庁南部地震M6.1の地震動とJNESによる縦ずれ断層M6.0ないしM6.5の地震動評価(最大値)が良くあっていることを認め、「JNESの断層モデルは厳しい条件を設定した現実離れした地震動評価ではなく、厳しいというのは言い過ぎであり、訂正すべきだ」という指摘に同意している。その結果、高浜3・4号の審査書(案)パブコメ回答(「考え方」)では「厳しい」という文字が削除され、1,340.4ガルの地震動を採用しない理由がなくなった。原子力規制庁は、1月16日の話し合いの際、さらに踏み込んで、「実際の発電所の評価などに適用すべきかどうか、地震のモデルとしての再現性という点で妥当かどうかを専門家も含めて改めて検討する必要がある。」と発言していた。その1ヶ月後に出されたパブコメ回答では、この発言について何も触れていないが、原子力規制委員会はJNESの断層モデルの再現性について専門家を含めて改めて検討すべきであり、1,340.4ガルの地震動を「震源を特定せず策定する地震動」による基準地震動として取り入れるべきである。そうすれば、伊方3号炉の855ガルのクリフエッジを大きく超えており、伊方3号炉の耐震安全性は保障されていないことになる。
—<意見3>—————————————————
「本発電所敷地内で得られた地震観測記録のうち、比較的規模の大きい内陸地殻内地震により得られた地震観測記録の応答スペクトルとNoda et al.(2002)の方法により推定した応答スペクトルとの比をとって増幅特性の検討をした結果、顕著な増幅はない。」(p.11)としているが、振幅の大きな内陸地殻内地震に関する観測記録が存在し、それに基づいて増幅特性について判断したかのような印象を与えるため、記述を改めるべきである。
申請書類pp.6(3)-7-5-19~21に記載されているとおり、伊方原発敷地内地震観測記録のうち比較的振幅の大きな地震はすべて海洋プレート内地震であり、内陸地殻内地震について振幅の大きな記録は得られていない。「比較的規模の大きい内陸地殻内地震より得られた」振幅の小さな地震観測記録に基づいて振幅の大きな内陸地殻内地震に対しても「顕著な増幅はない」と断言したかのように読める。「振幅の比較的大きな内陸地殻内地震観測記録が存在しないため、そのような振幅の大きな内陸地殻内地震に対する増幅特性については判断できなかった。」と記述し直すべきである。
「本発電所敷地内で得られた地震観測記録を、地震波の到来方向別に比較検討した結果、増幅特性が異なるような傾向はない。」(p.11)としているが、この判断も、内陸地殻内地震の規模をM2程度にまで広げて検討した結果にすぎず、上記申請書類pp.6(3)-7-5-19~21でも「地震規模が小さく耐専スペクトルの適用範囲外であるため観測値と予測値との整合性が悪く断定的な評価はできない」としており、審査書案は踏み込みすぎている。少なくとも、「M2程度の地震観測記録に限ってみれば地震波の到来方向に増幅特性が異なる傾向は見られなかったが、観測地震波の地震規模が小さすぎるため断言はできない。」と記述し直すべきである。
—<意見4>—————————————————
「f. 断層モデルを用いた手法による地震動評価における震源特性パラメータのうち、地震モーメントについては、壇ほか(2011)の手法を基本として、断層面積等から求めた。断層長さ約480km及び約130kmについては、Fujii and Matsu’ura(2000)の手法、断層長さ約54kmについては、入倉・三宅(2001)の手法でも設定した。」(p.15)としているが、これらの断層モデルの間に深刻な食い違いが含まれており、断層モデルのレシピを国内地震観測記録に沿って抜本的に再構築してから適用すべきであり、審査を抜本的にやり直すべきである。
たとえば、四国電力は「480kmと130kmモデルでは,Fujii and Matsu’ura(2000)から設定した地震規模の方が保守的となっている。逆に54kmモデルでは,入倉・三宅(2001)よりも壇・他(2011)の方が保守的である。本検討では,同一の断層に対して異なる長さの地震動を評価するため,壇・他(2011)を基本とし,スケーリング則の違いを不確かさとして評価することは適切と考える。」(四国電力「伊方発電所 中央構造線断層帯 地震動評価と基準地震動の策定(コメント回答)」第138回原子力発電所の新規制基準適合性に係る審査会合,資料4,p.41(2014.9.12))としているが、これら3つの断層モデルにおける違いは回帰した地震データの違いにある。
Fujii-Matsu’ura(2000)や壇ほか(2011)では、中規模の飽和断層に関する地震データは国内の地震データを用いている。具体的に言えば、武村(1998)は佐藤編著による「日本の地震断層パラメータ・ハンドブック」(1989)で体系的に整理された国内地震データのうち33の内陸地殻内地震を用いてS-M0関係式を導いており、Fujii-Matsu’ura(2000)や壇ほか(2011)も中規模地震についてはこれを用いている。ただし、長大な断層による地震データについては、Fujii-Matsu’ura(2000)はScholz(2002)の地震データを用い、壇ほか(2011)はMurotani et al.(2010)の地震データを用いている。他方、入倉・三宅(2001)は、(a) Somerville et al.(1999)による15地震(米カリフォルニア10地震、米アイダホ1地震、カナダ2地震、イラン1地震、日本1地震で、ほとんどが北米大陸の地震)、(b) Miyakoshi(2001 私信) のデータセット、および (c)Wells and Coppersmith(1994) による244地震(半数近くは米の地震、1割程度が日本の地震)の3種類の地震データを用いている。これら(a)~(c)のデータ数は多いが、M6.8程度以上の飽和断層に関するデータの大半は(c)のデータである。入倉・三宅(2001)自身が述べているように、この北米中心のデータにおける震源断層の幅は16.6kmであり、武村の用いた国内地震データの断層幅13kmより広い。断層長さと地震規模の関係式はいずれの地震データにおいても大差がないことから、主な違いは断層幅にある。つまり、同一の断層長さまたは地震規模でも、北米中心のデータでは、国内データと比べて、より広い断層幅、したがってより広い断層面積になっている。逆に言えば、同じ断層面積に対して、入倉・三宅(2001)の手法では武村(1998)の手法、したがって、Fujii-Matsu’ura(2000)や壇ほか(2011)より地震規模がかなり小さくなるのである。
四国電力および原子力規制委員会・原子力規制庁は、敷地前面海域54kmの同じ震源断層に対して地震モーメントの評価結果が、壇ほか(2011)やFujii-Matsu’ura(2000)の手法と入倉・三宅(2001)の手法とで大きく食い違うという事実を認めながら、その原因が元データの違いにあることについて触れるのを一貫して避けている。断層面積Sと地震規模Mo(地震モーメント)の関係式を導くための基礎データが違うのであるから、結果として得られるS-Mo関係式に大きな食い違いがあるのは避けられない。国内の震源断層に対する地震動評価は国内の地震データに基づいて構築された断層モデルによるべきである。でなければ、断層幅が狭く、断層面積の小さい国内の震源断層から発せられる地震動を過小評価することになる。断層モデルの抱えている、この根本問題について、原子力規制委員会・原子力規制庁として改めて十分検討すべきであり、その検討結果に基づいて、伊方3号だけでなく、川内1・2号や高浜3・4号など他の原発についても審査をやり直すべきである。
—<意見5>—————————————————
「f. 断層モデルを用いた手法による地震動評価における震源特性パラメータのうち、地震モーメントについては、壇ほか(2011)の手法を基本として、断層面積等から求めた。・・・また、壇ほか(2011)の手法では、平均応力降下量は3.4MPa、アスペリティの応力降下量は12.2MPa とした。」(pp.15-16)としているが、四国電力は壇ほか(2011)の適用法を間違っており、審査をやり直すべきである。
壇ほか(2011)の用いたS-Mo関係式Mo=ΔσSWmax/c,c=0.5+2exp(-L/Wmax) における断層平均応力降下量Δσの設定根拠はIrie et al.(2010)による断層幅Wmaxを15kmと設定して行った動力学的断層破壊シミュレーション結果である。壇ほか(2011)は、これをそのまま、国内9地震と海外の長大断層による13地震の計22の地震データに適用し、得られた22個の平均動的応力降下量の幾何平均を取って、Δσ=3.4MPaとしている。しかし、480kmモデルでは断層幅が12.7kmとかなり小さく、右横ずれ断層の367kmに限れば12.2kmと一層小さくなる。このため、本来なら断層幅をこのように狭くしてシミュレーション実験をやり直した結果を用いるべきだが、シミュレーション結果(cとL/Wmaxの関係)がそれほど変わらないと仮定して、Wmax=15km、Δσ=3.4MPaとして得られる壇ほか(2011)のS-Mo関係式Mo=3.4×15S/(0.5+2exp(-S/15/15)) にほぼ合うように、Wmax=12kmとしてΔσを求め直すと、3.4MPaから4.3MPaに大きくしなければならない。ところが、四国電力が行ったように、断層平均応力降下量を3.4MPaとしたまま、断層幅だけを12.7kmに変え、Mo=3.4×12.7S/(0.5+2exp(-S/12.7/12.7)) として地震モーメントを求めると、壇らの関係式に断層面積を代入して得られる6.25E+20Nmではなく、5.30E+20Nmと小さくなってしまう(審査書(案)では「断層面積等から求めた」とあるが、正確には「断層面積と断層幅から求めた」のである。)。断層幅とΔσの値はセットであり、断層幅だけを変えて適用する、このような適用法は明らかに間違っている。断層幅を480kmモデルの12.7km(うち367km部分は12.2km)とするのであれば、断層幅12km程度に対応させて、応力降下量も4.3MPa程度へ引き上げるべきである。このように、四国電力が壇ほか(2011)の手法を誤って適用し、応力降下量を3.4MPaと小さく設定していることについて事実関係を認め、審査をやり直すべきである。
また、壇ほか(2011)は22の地震データに適用して得られる平均動的応力降下量の平均を求める際に「幾何平均」を用いているが、「算術平均」を取るべきであり、そうすれば3.4MPaではなく、4.3MPaになる。この応力降下量が断層幅15kmに対する応力降下量だとすれば、壇ほか(2011)のS-Mo関係式はMo=4.3×15S/(0.5+2exp(-S/15/15)) になるべきである。ここから断層幅を12kmなどへ短くする場合には応力降下量をさらに大きく設定し直さなければならない。この点も含めて、審査をやり直すべきである。