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09月

美浜3号の審査書(案)への意見を4通提出しました

美浜3号の審査書(案)への意見を4通提出しました。

美浜3号の場合には断層が傾斜して交叉しているため、単純な入倉式批判は通用しません。簡単に補足しておきます。

美浜3号の場合は「C断層」と「大陸棚外縁~B~野坂断層」が基準地震動を規定する主な断層ですが、「C断層」は震源断層が外側へ傾斜して交叉するため断層面積が広がっており、「大陸棚外縁」部分は逆に内側へ傾斜して交叉するため断層面積が狭くなっています。松田式では地表断層長さではなく地下の震源断層の長さをとるように旧原子力安全委員会で確認されていますが、関西電力や原子力規制委員会・規制庁は地表断層長さを用いています。
地下の震源断層平均長さを用いると、「C断層」では18kmから20.6kmへ長くなり、地震規模もM6.9からM7.0へ増えます。「大陸棚外縁~B~野坂断層」では逆に49kmから40.4kmへ短くなり、M7.7からM7.5へ小さくなります。

地震動評価は、「C断層」では断層モデルで最大993ガルに対し、耐専スペクトルは約670ガルで、耐専スペクトルの方が小さく、スペクトル全体でも明らかに差があります。断層長さを変えてM7.0にすると、耐専スペクトルが約720ガルになって断層モデルに近づき、スペクトル全体の差が縮小します。
「大陸棚外縁~B~野坂断層」では、断層モデルで最大815ガルですが、耐専スペクトルは「極近距離からの乖離が大きい」との理由で「適用外」にされ、採用されていません。ところが、断層長さを変えてM7.5にすると約900ガル(元のM7.7では約1100ガル)になり、極近距離との乖離がC断層と同程度に小さくなるため採用しない理由がなくなります。耐専スペクトルとして900ガルを採用させ、断層モデルでレシピ(イ)を採用させると応力降下量が1.6倍になって、1200ガル程度に上がりますが、スペクトル全体では耐専スペクトルとの差は小さいと思われます。(C断層ではレシピ(ア)と(イ)で大差はありません)

—–<意見1>————————————————–
(16-18ページ)
「C断層」と「大陸棚外縁~B~野坂断層」では震源断層が傾斜して交叉しており、地下平均断層長さは地表断層長さとは異なっており、松田式で地震規模を算定する際には地下震源断層の平均長さを用いるべきである。これは、旧原子力安全委員会での審議結果を受けてそのように改訂されたものであり、これに従うべきである。
また、入倉式では地震規模が過小評価される傾向があるため、とりわけ「大陸棚外縁~B~野坂断層」では地震調査研究推進本部のレシピ(イ)を用いるべきであり、そうすれば、国内地震観測記録に基づく耐専スペクトルと同等の地震動評価結果になる。
以下、具体的に述べる。
(1)美浜3号の「C断層」では、断層が60度傾斜し外側へ広がる形で交叉しているため、地表断層長さより地下震源断層の平均断層長さの方が大きい。耐専スペクトルの方が断層モデルよりやや小さくなっている。このため、耐専スペクトルのほうが断層モデルによる地震動評価結果より小さくなっている。
これは耐専スペクトルの地震規模を求める際に地下震源断層の平均断層長さを用いていないからであり、地表断層長さ18kmからは松田式でM6.9となるが、地下震源断層の平均断層長さ20.6kmを用いればM7.0になる。
したがって、耐専スペクトルをM6.9からM7.0へやや大きくすべきであり、そうすれば、両者がほぼ一致する。
この場合には、断層が外側へ傾斜して断層面積は大きくなっているため入倉式でもほぼM7.0になり、地震調査研究推進本部(推本)のレシピ(ア)と(イ)でほとんど結果は変わらない。
(2)「大陸棚外縁~B~野坂断層」では「大陸棚外縁断層」の部分が60度傾斜し内側に交叉しているため、地表断層長さより地下震源断層の平均断層長さのほうが小さい。
耐専スペクトルはC断層と同様に地下震源断層の平均長さを用いるべきであり、そうすればM7.7(断層長さ49km)からM7.5(同40.4km)と小さくなり、C断層と同等に極近距離からの乖離が小さくなるため、これを「適用外」にする根拠はなくなる。
これを適用すれば900ガル程度の耐専スペクトルになり、Ss-1を現在の750ガルから900ガル以上へ引上げる必要がある。断層モデルでは、入倉式では地震規模がM7.4に留まり、また、Δσa=12.2MPaにすぎないため1.5倍にしても18.3MPaに留まり、20MPaを超えない。
これは「1.5Δσaもしくは20MPaとする」方針に違反している。
推本のレシピ(イ)によれば、地震規模をM7.5として、Δσ=3.5MPa、Δσa=19.5MPa(Sa/S=0.22と設定)となり、1.6倍になる。そうすれば、耐専スペクトルと断層モデルの地震動評価結果はほぼ同等になる。
このように、地震動評価結果は国内地震観測記録に基づく耐専スペクトルと断層モデルがほぼ一致するのが当然であり、大差が出ているのがおかしいのである。美浜3号では、C断層で耐専スペクトルを採用し、「大陸棚外縁~B~野坂断層」で適用外にしているが、上述のように断層長さを正しく取り直せば適用外にする理由はなく、これを採用し、Ss-1を900ガル以上へ、断層モデルによる地震動評価結果を1.6倍へ引上げるべきである。

—–<意見2>————————————————–
(18-20ページ)
原子力安全基盤機構JNESによる「M6.5の地震動解析結果」は2004年北海道留萌支庁南部地震および2016年熊本地震の2つの地震観測記録によってその正しさが裏付けられており、JNESによる1,340ガルの地震動を「震源を特定せず策定する地震動」に採用すべきである。
原子力安全基盤機構JNESは「震源を特定しにくい地震による地震動の検討に関する報告書(平成16 年度)」(2005.6)の中で、国内地震データに合わせて独自の断層モデルを構築し、震源近傍の地震動評価を行っている。
その結果、横ずれ断層によるM6.5の地震において、震源近傍の地震基盤(せん断波速度Vs=2600m/s)表面で1,340.4ガルの地震動になるとしている。この地震動解析結果が単なる解析ではなく、実際の地震観測記録によっても裏付けられる。
第1に、2004年北海道留萌支庁南部地震M6.1の地震動とJNESによる縦ずれ断層M6.0ないしM6.5の地震動評価(最大値)が良くあっている。これは原子力規制庁も認めているところである。
第2に、2016年熊本地震の益城観測点での地下地震観測記録はぎとり解析概算約470ガル(南北237ガルを約2倍にしたもの、新潟県中越沖地震での柏崎刈羽原発サービスホールのはぎとり解析では約1.7倍だったが、1.7倍でも400ガルになる)はJNESの解析結果(加速度分布図上の位置と値)とよく合っている。これも原子力規制庁が認めるところである。
ただし、原子力規制庁ははぎとり解析を行う予定はないとしているが、はぎとり解析を行ってこれを正確に確認し、基準地震動策定に生かすべきである。そうすれば、「震源を特定せず策定する地震動」にJNESの1,340ガルの地震動を採用すべきであることがより明確になる。
美浜3号のクリフエッジは1,320ガル(関西電力による第一次評価結果2011.12)であり、JNESの1,340ガルの地震動はこれ以上である。美浜3号の基準地震動にJNESの1,340ガルの地震動を採用すれば、美浜3号の再稼働など認められないはずである。

—–<意見3>————————————————–
(16-21ページ)
断層モデルが耐専スペクトルと比べてかなり小さい場合には、入倉式による断層モデルのレシピ(地震調査研究推進本部のレシピの(ア)の方法)が地震動を過小算定した結果であり、推本のレシピの(イ)の方法を用いて地震動評価をやり直し、耐専スペクトルと同等のレベルにまで地震動評価を大きくすべきである。その理由は以下の2つである。
(1)耐専スペクトルは国内地震観測記録に基づいて、その平均像を求めるものであるのに対し、断層モデルはシミュレーションに過ぎず、パラメータ次第でどのようにでも操作できるからである。
断層モデルによる地震動評価結果が耐専スペクトルよりかなり小さい場合には地震動を過小評価しているといえる。耐専スペクトルには最近の震源近傍での大きな地震観測記録が反映されていないため、耐専スペクトルそのものが震源近くで過小評価になっている可能性が高く、震源近くでは地震動を一層過小評価している可能性が高いといえる。
(2)不確実さ考慮における「短周期レベル1.5倍」と「応力降下量1.5倍(20MPaより小さい場合は20MPaとする)」は、2007年新潟県中越沖地震の震源特性が通常の地震より1.5倍大きかったという経験に基づいている。
具体的には、「震源距離200km以下で、S波速度700m/s以上の地層が存在し、第三紀以前の地質条件」という条件に合う広域観測記録(K-NET、KiK-net 地表記録)のはぎとり波の応答スペクトルが耐専スペクトル(内陸補正なし)と同等であったという事実に基づいている。つまり、断層モデルによる地震動評価が耐専スペクトルよりかなり小さい状態で応力降下量と短周期レベルを1.5倍にしても意味がない。
美浜3号の場合には、「大陸棚外縁~B~野坂断層」の耐専スペクトルが極近距離よりかなり乖離していることから「適用外」としているが、耐専スペクトルを採用し、断層モデルによる地震動評価結果が過小になっている場合には、推本のレシピ(イ)を用いで地震動評価をやり直すべきである。
このレシピ(イ)について、原子力規制庁は7月27日規制委本会議で、「どのように保守性を確保していくか(断層長さの設定(連動の考慮を含む)、各種の不確かさの取り方等)に関し、妥当な方法が現時点で明らかになっているとは言えず、規制において要求または推奨すべきアプローチとして位置付けるまでの科学・技術的な熟度には至っていないと考える」とケチを付け、
その後の記者ブリーフィングでも、「(ア)の方法(推本の入倉式に基づくレシピ)は福岡県西方沖地震など大きな地震が起こるたびにシミュレーションと観測記録を比較してキチンと検証されてきたが、(イ)の方法は検証されていない。
そういう点では地震動評価として用いるにはアの方が適切だと考えている」と主張しているが、嘘をつくのはやめるべきである。
震源断層の推定法は,推本による「活断層の長期評価手法」報告書(暫定版)(2010.11.25)に則って行われており、地震動評価に際して推本のレシピの(ア)と(イ)のどちらを用いるのかとは別問題である。ただし、入倉式による(ア)のレシピを用いる場合には、事前に当該震源断層における地震観測記録が得られていない限り、入倉式に必要な「地下のすべり量分布に基づく不均質な震源断層の広がり」を算出する術はなく、「活断層評価や変動地形学等の測地データに基づく均質な震源断層の広がり」に基づく地震動評価に対しては、(イ)のほうが適切だと言える。
また、推本は2000年鳥取県西部地震や2005年福岡県西方沖地震などの大地震の地震観測記録に基づいてレシピの検証を行い、
「これらの報告を踏まえ、断層モデルの設定において、『長期評価』のマグニチュードと整合し、かつ、簡便な手順でパラメータを設定できる手法を用いて強震動評価を行い、その妥当性を検討した」のが「警固断層帯(南東部)の地震を想定した強震動評価」であり、
その手法が修正レシピである。規制庁は事実関係を逆転させて捉え、大嘘をついているが、このような国民をだます主張は撤回し、レシピ(イ)を採用すべきである。

—–<意見4>————————————————–
(16-21ページ)
耐専スペクトルは国内地震観測記録に基づき、その平均像を求めるものであり、そのバラツキは大きく、「平均+標準偏差」は平均の2倍にもなる。地域性などの認識論的不確実さは知見を重ねることで小さくできるが、偶然的不確実さは知見を重ねても小さくできず、その大きさをより正確に推定できるだけである。
内山・翠川(2013)は、防災科学研究所のK-NETおよびKiK-netを対象に,1996~2010年のMw4.5~Mw6.0かつ震源深さ100km以浅の地震で得られた強震記録、756地震40,193データ(165内陸地殻内地震8,431データ、439プレート境界地震22,242データ、152スラブ内地震9,520データ)という膨大な量の国内地震データを分析し、
最大加速度のばらつきは「平均+標準偏差」が平均の2.34倍になること、
地震間のばらつきの43%が偶然的不確定性によるものであることを導出している。
地震内のばらつきも同様になるとすれば、たとえ、不確かさの考慮によって認識論的不確定性によるばらつきをゼロにできたとしても、低減不可能な偶然的不確定性によるばらつきは「平均+標準偏差」が平均の1.75倍になる。
認識論的不確実さをゼロにすることは至難であり、その残余を含めると「平均+標準偏差」は平均の約2倍になると言える。つまり、耐専スペクトルは平均像を示すものにすぎないため、実施の地震動のバラツキを考慮すれば、2倍にする必要があるということになる。この最新の知見を考慮して、美浜3号の耐専スペクトルについても、基準地震動を作成する際には2倍にすべきである。
断層モデルについても、統計的グリーン関数法を用いた断層モデルによる地震動評価時には、要素地震を50個ほど確率論的に作成して地震動を求め、その平均スペクトルに近いメジアンの地震波を代表波としているが、これも平均像に過ぎない。
断層モデルについても代表波の振幅を2倍にして耐専スペクトルと同様の余裕を確保すべきである。
このように、耐専スペクトルや断層モデルで2倍にしても平均+標準偏差のバラツキを考慮したに過ぎないが、美浜3号の現在の基準地震動を2倍にするだけで、美浜3号のクリフエッジ1,320ガル(関西電力によるストレステスト一次評価結果2011.12)をこえるため、再稼働できないはずである。