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08月

川内原発1・2号運転差止訴訟(本訴)裁判体(鹿児島地裁民事1部の合議体)へ意見書を提出しました

川内原発1・2号運転差止訴訟(本訴)裁判体(鹿児島地裁民事1部の合議体)へ意見書を提出しました。(pdfはこちら)

福岡高裁宮崎支部の仮処分決定が見逃した重大な事実および2016年熊本地震と島崎氏の問題提起で暴かれた適合性審査の過誤・欠落
2016年8月10日 大阪府立大学名誉教授 長沢啓行

1 はじめに
2 福岡高裁決定における誤認定
 2.1 求められる安全性のレベル
 2.1.1 人格権侵害は万が一にも容認できない
  2.1.2 人格権侵害が容認される安全性のレベル
  2.1.3 十二分の余裕と見落としの可能性に配慮
 2.2 審査基準と適合性判断の評価
 2.3 基準地震動における不確かさ考慮
 2.4 偶然的不確定性は低減できない
  2.4.1 福岡高裁決定の誤った事実認定
3 暴かれた「入倉式による過小評価」と「原子力規制委員会の動揺」
 3.1 島崎邦彦氏の問題提起
 3.2 2016年6月10日改訂の新レシピ
 3.3 原子力規制庁による「改ざんレシピ」
 3.4 大飯3·4号の基準地震動への影響
 3.5 高浜3·4号の基準地震動への影響
 3.6 川内1・2号の基準地震動への影響
 3.7 修正レシピを使わない規制庁の理由
4 2016年熊本地震の教訓
5 結言

1 はじめに

2016年4月6日の福岡高裁決定は川内1·2号の運転差止仮処分に係る即時抗告を棄却した.
しかし,その直後から4ヶ月間に起きた出来事は,福岡高裁決定が誤った事実認定に基づいていることを誰の目にも分かる形で明らかにした.
決定が4ヶ月遅ければ,真逆の結論が出されていたに違いない.
この意見書では,その全貌を明らかにする.
福岡高裁決定から8日後の4月14日,2016年熊本地震が同決定に警告を発した.
(a)熊本地震の前震であるM6.5の地震で1,000ガル超(はぎとり波換算)の地震動が起きた可能性があり,原子力安全基盤機構JNESによる1,340ガルの地震動解析を裏付けている.
(b)益城観測点の地下地震観測記録のはぎとり波概算(2倍)が川内1·2号の周期約0.2秒付近で基準地震動を超えた.
(c)地震動評価手法の一つである耐専スペクトルが0.1秒以上の周期帯で大幅な過小評価になっている.5月23日の原子力規制庁と市民団体との話合いでは,これらが具体的に示され,原子力規制庁は事実として認めながら,「現時点では即対応すべきとは考えていない.」「現時点で,詳細はぎとり波解析をやるというところまで知見収集も至っていない.」と逃げ,新しい知見を積極的に取り入れる気概を示さなかった.
また,同話合いでは,福岡高裁で私が「審査の根本的な過誤,欠落」として示し福岡高裁決定が無視したこと,すなわち,「アスペリティ平均応力降下量を15.9MPaから25.1MPaに引上げても短周期側の地震動評価は変わらないという九州電力の説明は根本的に誤っている」ことを原子力規制庁が遂に認めた.
前原子力規制委員長代理の島崎邦彦氏の問題提起を受けた6月16日原子力規制委員会との面会に始まり,7月13日規制委本会議での「基準地震動を見直さないとの決定」,翌日の島崎氏による抗議の手紙,19日の2回目の会見,20日規制委本会議での「決定の白紙」化,7月27日規制委本会議での再「決定」という一連のドタバタ劇が国民の面前で演じられた.
地震調査研究推進本部が6月10日に改訂した断層モデルの新レシピは,電力会社の行ってきた応力降下量設定法の誤りを正し,島崎氏による問題提起を後押しした.
結果として,次のことが明らかになった.
(1)島崎邦彦氏の問題提起と6月10日改訂の新レシピによれば,入倉式を用いた地震動評価は過小評価であり,地震調査研究推進本部による松田式を用いた修正レシピで地震動を見直せば,耐専スペクトルの1/2程度だった断層モデルによる地震動評価が耐専スペクトルに近づき,両者で差がなくなる.
(2)その結果,大飯原発では,断層モデルによる地震動評価結果が,修正レシピで1.5倍強へ引き上げられ,1,260ガルのクリフエッジを超える可能性が高く,再稼働できなくなる.
川内原発では,修正レシピを断層幅の拡大に限定して適用すれば,約25kmの市来断層帯市来区間の地震動評価結果は約1.6倍になり,一部の周期帯で基準地震動Ss-1を超えるため,基準地震動の見直しが避けられない.
(3)原子力規制庁は推本のレシピを改ざんし,関西電力の地震動評価法とは異なる方法で,「関西電力の6割にしかならない『入倉式による地震動評価結果』」を示し,「武村式ではその1.8倍になるが,関西電力の基準地震動を超えない」という結果を規制委に示した.
しかし,規制委員の誰もその情報操作に気付かず,「決定白紙」化のドタバタ劇を演じた末に「基準地震動見直しは必要ない」と再び結論づけた.
まさに,「世界最高水準の規制基準による適合性審査」が,結論ありきの情報操作を行う規制庁とそれを見抜けない規制委員とで担われていること,入倉式による地震動過小評価と修正レシピによる地震動評価の有効性が示されたにもかかわらず,それを採用しようとしないことが白日の下にさらされた.
この意見書では,まず,福岡高裁決定の内容に則して,重畳された事実誤認を紐解き,福岡高裁の審尋の場で私が強調した「平均像からの標準偏差一つ分のバラツキが平均の2倍になる偶然的不確実さを考慮すべきこと」を裏付ける最新の知見を紹介する.
続いて,島崎氏による問題提起と新レシピが意味するところを整理し,原子力規制庁による情報操作を暴き出し,それを見抜けずに右往左往する原子力規制委員会の体たらくを明らかにする.
最後に,2016年熊本地震の警告を踏まえて川内1·2号の運転を即刻停止し,基準地震動を根本的に見直すべきことを事実に基づき主張する.