原子力規制委員会は2016年10月5日の第35回本会議で「関西電力株式会社美浜発電所の発電用原子炉設置変更許可申請書(3号発電用原子炉施設の変更)に関する審査書」を確定させ、パブコメへの回答=「審査書(案)に対する御意見への考え方」を承認しました。しかし、その回答は出された意見を正面から受け止めず、審査ガイド違反を糊塗する内容であり、容認できません。ここでは、私が提出した4つの意見への回答について、その主な内容に限って批判しておきます。
–<整理番号901E145:意見1(16-18ページ)>———
【御意見の概要】
「C断層」と「大陸棚外縁~B~野坂断層」では震源断層が傾斜して交叉しており、地下震源断層長さは地表断層長さとは異なっているため、松田式で地震規模を算定する際には地下震源断層の平均長さを用いるべきである。また、それを踏まえて、「大陸棚外縁~B~野坂断層」に耐専式を適用して地震動評価を行うべきではないか。
【御意見への考え方】
「応答スペクトルに基づく地震動評価」に用いる断層長さについては、申請者が、文献調査のほか、変動地形学的調査、地表地質調査、海上音波探査等による詳細な調査を行い、活断層長さを適切に評価し、C断層や大陸棚外縁断層~B断層~野坂断層においては地表で断層が認められない部分も含めて設定していることを審査で確認しています。Noda et al.(2002)による地震動評価のために必要な地震規模(マグニチュード)については、地表地震断層の長さと地震規模との関係の経験式である松田式を用いて算定していることを審査で確認しています。
また、「応答スペクトルに基づく地震動評価」における距離減衰式については、申請者が、その適用条件、適用範囲を検討用地震ごとに検討を行い、適切に選定していることを審査で確認しています。C断層については、Noda et al.(2002)の方法の適用性について、極近距離からの乖離に着目して吟味し、乖離が小さいため、当該方法により評価を実施していますが、大陸棚外縁~B~野坂断層については、極近距離から大きく乖離しており、当該方法の適用範囲外であるため、他の距離減衰式を用いて地震動評価を行っていることを審査で確認しています。
なお、申請者が、Noda et al.(2002)の方法におけるパラメータの設定に当たっては、不確かさを考慮していること、Noda et al.(2002)の方法における内陸地殻内地震の補正係数は適用しないものとしていることを審査で確認しています。
【考え方への批判】
原子力規制委員会・規制庁は「地表地震断層の長さと地震規模との関係の経験式である松田式」と記していますが、1995年兵庫県南部地震の後に、旧原子力安全委員会で松田式は「地表地震断層の長さ」とではなく「地下に広がる震源断層の長さ」と地震規模との関係式として地震データに適合することが確認され、発案者である松田時彦による新松田式を採用する必要はないとの結論を出しています。これによれば、地表における地震断層や活断層の長さではなく、地下の震源断層の平均長さを用いるべきです。これが意見の核心であるにもかかわらず、無視しようとしているのです。
また、「Noda et al.(2002)の方法におけるパラメータの設定に当たっては、不確かさを考慮している」と記していますが、意見4にも記載したとおり、新潟中越沖地震の教訓から震源特性を1.5倍にする、すなわち、「内陸補正係数を適用しない」のは不確実さの一つ(正確には認識論的不確実さの考慮)にすぎず、人間には制御できない自然現象の偶然変動=偶然的不確実さを全く考慮しようとしていません。しかも、意見4で指摘したとおり、最新の知見では、認識論的不確実さから区別される偶然的不確実さは「平均+標準偏差」で「平均の1.75倍」に相当します。意見1ではあくまで平均像としての地震動の過小評価を指摘しており、認識論的不確実さや偶然的不確実さはその次に検討すべき問題なのです。
<提出した意見1(16-18ページ)>
「C断層」と「大陸棚外縁~B~野坂断層」では震源断層が傾斜して交叉しており、地下平均断層長さは地表断層長さとは異なっており、松田式で地震規模を算定する際には地下震源断層の平均長さを用いるべきである。これは、旧原子力安全委員会での審議結果を受けてそのように改訂されたものであり、これに従うべきである。
また、入倉式では地震規模が過小評価される傾向があるため、とりわけ「大陸棚外縁~B~野坂断層」では地震調査研究推進本部のレシピ(イ)を用いるべきであり、そうすれば、国内地震観測記録に基づく耐専スペクトルと同等の地震動評価結果になる。
以下、具体的に述べる。
(1)美浜3号の「C断層」では、断層が60度傾斜し外側へ広がる形で交叉しているため、地表断層長さより地下震源断層の平均断層長さの方が大きい。耐専スペクトルの方が断層モデルよりやや小さくなっている。このため、耐専スペクトルのほうが断層モデルによる地震動評価結果より小さくなっている。
これは耐専スペクトルの地震規模を求める際に地下震源断層の平均断層長さを用いていないからであり、地表断層長さ18kmからは松田式でM6.9となるが、地下震源断層の平均断層長さ20.6kmを用いればM7.0になる。
したがって、耐専スペクトルをM6.9からM7.0へやや大きくすべきであり、そうすれば、両者がほぼ一致する。
この場合には、断層が外側へ傾斜して断層面積は大きくなっているため入倉式でもほぼM7.0になり、地震調査研究推進本部(推本)のレシピ(ア)と(イ)でほとんど結果は変わらない。
(2)「大陸棚外縁~B~野坂断層」では「大陸棚外縁断層」の部分が60度傾斜し内側に交叉しているため、地表断層長さより地下震源断層の平均断層長さのほうが小さい。
耐専スペクトルはC断層と同様に地下震源断層の平均長さを用いるべきであり、そうすればM7.7(断層長さ49km)からM7.5(同40.4km)と小さくなり、C断層と同等に極近距離からの乖離が小さくなるため、これを「適用外」にする根拠はなくなる。これを適用すれば900ガル程度の耐専スペクトルになり、Ss-1を現在の750ガルから900ガル以上へ引上げる必要がある。断層モデルでは、入倉式では地震規模がM7.4に留まり、また、Δσa=12.2MPaにすぎないため1.5倍にしても18.3MPaに留まり、20MPaを超えない。これは「1.5Δσaもしくは20MPaとする」方針に違反している。
推本のレシピ(イ)によれば、地震規模をM7.5として、Δσ=3.5MPa、Δσa=19.5MPa(Sa/S=0.22と設定)となり、1.6倍になる。そうすれば、耐専スペクトルと断層モデルの地震動評価結果はほぼ同等になる。
このように、地震動評価結果は国内地震観測記録に基づく耐専スペクトルと断層モデルがほぼ一致するのが当然であり、大差が出ているのがおかしいのである。美浜3号では、C断層で耐専スペクトルを採用し、「大陸棚外縁~B~野坂断層」で適用外にしているが、上述のように断層長さを正しく取り直せば適用外にする理由はなく、これを採用し、Ss-1を900ガル以上へ、断層モデルによる地震動評価結果を1.6倍へ引上げるべきである。
–<整理番号901E139:意見2(18-20ページ)>———
【御意見の概要】
原子力安全基盤機構(2005)は、「M6.5 の横ずれ断層が直下で動けば、Vs=2600m/s の地震基盤表面上で1340 ガルの地震動が生じる」ことを断層モデルで解析しており、これを「震源を特定せず策定する地震動」として評価すべきである。「震源を特定せず策定する地震動」の評価対象を、「得られた地震観測記録」に限るとする科学的根拠はない。
【御意見への考え方】
震源を特定せず策定する地震動については、震源と活断層を関連付けることが困難な過去の内陸地殻内の地震について得られた震源近傍における観測記録を収集・検討し、原子力発電所の敷地の地盤物性に応じた応答スペクトルを設定して策定することを要求しています。
評価に当たっては、観測記録を収集し評価することを要求しています。旧独立行政法人原子力安全基盤機構が試算した地震動は、地震動評価の際に参照する基準地震動の超過確率が、どの程度の大きさになるか確認する目的でパラメータを設定して評価した結果であり、試算した地震動をそのまま震源を特定せず策定する地震動として用いるためのものではないことから、検討の対象にしていません。
【考え方への批判】
「基準地震動及び耐震設計方針に係る審査ガイド」(2013.6)の「2 基本方針」には「(3)「震源を特定せず策定する地震動」は、震源と活断層を関連づけることが困難な過去の内陸地殻内の地震について得られた震源近傍における観測記録を収集し、これらを基に各種の不確かさを考慮して、敷地の地盤物性に応じた応答スペクトルを設定して策定されていること。」と記されているにもかかわらず、意図的に下線部を省略していまう。地震計の設置不足による地震観測記録の不確かさ、破壊開始点が変わったときの不確かさなどは地震観測記録だけでは考慮できないため、再現モデルや地震観測記録に適合したJNESの断層モデル等による地震動解析結果を採用すべきです。それをやらないのであれば、一体どのようにして「各種の不確かさを考慮」するのか、その方法を示すべきです。
<提出した意見2(18-20ページ)>
原子力安全基盤機構JNESによる「M6.5の地震動解析結果」は2004年北海道留萌支庁南部地震および2016年熊本地震の2つの地震観測記録によってその正しさが裏付けられており、JNESによる1,340ガルの地震動を「震源を特定せず策定する地震動」に採用すべきである。
原子力安全基盤機構JNESは「震源を特定しにくい地震による地震動の検討に関する報告書(平成16 年度)」(2005.6)の中で、国内地震データに合わせて独自の断層モデルを構築し、震源近傍の地震動評価を行っている。
その結果、横ずれ断層によるM6.5の地震において、震源近傍の地震基盤(せん断波速度Vs=2600m/s)表面で1,340.4ガルの地震動になるとしている。この地震動解析結果が単なる解析ではなく、実際の地震観測記録によっても裏付けられる。
第1に、2004年北海道留萌支庁南部地震M6.1の地震動とJNESによる縦ずれ断層M6.0ないしM6.5の地震動評価(最大値)が良くあっている。これは原子力規制庁も認めているところである。
第2に、2016年熊本地震の益城観測点での地下地震観測記録はぎとり解析概算約470ガル(南北237ガルを約2倍にしたもの、新潟県中越沖地震での柏崎刈羽原発サービスホールのはぎとり解析では約1.7倍だったが、1.7倍でも400ガルになる)はJNESの解析結果(加速度分布図上の位置と値)とよく合っている。これも原子力規制庁が認めるところである。
ただし、原子力規制庁ははぎとり解析を行う予定はないとしているが、はぎとり解析を行ってこれを正確に確認し、基準地震動策定に生かすべきである。そうすれば、「震源を特定せず策定する地震動」にJNESの1,340ガルの地震動を採用すべきであることがより明確になる。
美浜3号のクリフエッジは1,320ガル(関西電力による第一次評価結果2011.12)であり、JNESの1,340ガルの地震動はこれ以上である。美浜3号の基準地震動にJNESの1,340ガルの地震動を採用すれば、美浜3号の再稼働など認められないはずである。
–<整理番号901E164:意見3(16-21ページ)>———
【御意見の概要】
実際に地震が発生する前には、断層幅は詳細調査でもわからないため、断層幅等から地震モーメント等を求めるレシピ(ア)よりも、地表の断層長さ等から地震モーメント等を求めるレシピ(イ)を採用すべき。
【御意見の概要】
断層モデルによる地震動評価結果が、耐専スペクトルのそれに比べ過小になっている場合には、レシピ(イ)を用いて地震動評価をやり直すべき。
【御意見への考え方】
大飯発電所の地震動について、島﨑元委員長代理の指摘を踏まえ、原子力規制委員会の指示に基づき、原子力規制庁が、地震モーメントを入倉・三宅式とは別の式である武村(1998)の式に置き換え、他を関西電力と同じ条件で試算しようと試みました。しかし、アスペリティの総面積が震源断層の総面積より大きくなり、アスペリティは震源断層の一部であるべきこととの矛盾が発生するなど、地震動評価のための科学的に適切な震源モデルを作成することができず、地震動への影響を議論できる結果を得られませんでした。また、震源断層の詳細な調査結果を用いてレシピにおける入倉・三宅式を用いる方法以外の方法によって基準地震動を作成するというアプローチについては、どのように保守性を確保していくかに関し、妥当な方法が現時点で明らかになっているとは言えず、規制において要求又は推奨すべきアプローチとして位置付けるまでの科学的・技術的な熟度には至っていないと考えています。地震動の計算方法高度化については、まずは、地震調査研究推進本部のような場で議論されるべきであり、そこでの検討結果も含め、新たな知見が得られれば、原子力発電所の規制にどのように取り入れるかについて、原子力規制委員会として適切に判断していきます。
【考え方への批判】
2005年に公表された推本のレシピ(ア)では実際の地震観測記録に合わないことから2008年にレシピ(イ)が追加され、推本のレシピは事実上これに置き換わったのです。2016年熊本地震でも東大地震研での評価によれば、レシピ(ア)ではなくレシピ(イ)に適合することが示されています。原子力規制委員会・規制庁は「地震調査研究推進本部のような場で議論されるべきであり、そこでの検討結果も含め、新たな知見が得られれば」という悠長なことを言っていますが、レシピ(イ)が策定された経緯をよく理解し、レシピ(イ)で地震動評価をやり直すべきです。「どのように保守性を確保していくか」という議論は基本ケースとしてレシピ(イ)を用いることとは無関係であり、基本ケースがレシピ(イ)で算定されれば、それに基づいて同様の不確実さを考慮すべきです。なお、不確実さ考慮の際に最もよく効いてくる「震源特性1.5倍化」は新潟中越沖地震による200km圏内の地震観測記録と耐専スペクトルとの比較によって得られた知見であり、断層モデルとしてレシピ(ア)とレシピ(イ)のいずれを使うのかとは無関係であり、レシピ(イ)で得られた応力降下量と短周期レベルを1.5倍にすれば良いだけです。ただし、これはあくまで平均像を評価する際の議論であり、耐専スペクトルで「倍半分」のバラツキ(認識論的不確実さと偶然的不確実さの両方を含む)に相当する不確実さを断層モデルにおいても考慮すべきことは当然です。
<提出した意見3(16-21ページ)>
断層モデルが耐専スペクトルと比べてかなり小さい場合には、入倉式による断層モデルのレシピ(地震調査研究推進本部のレシピの(ア)の方法)が地震動を過小算定した結果であり、推本のレシピの(イ)の方法を用いて地震動評価をやり直し、耐専スペクトルと同等のレベルにまで地震動評価を大きくすべきである。その理由は以下の2つである。
(1)耐専スペクトルは国内地震観測記録に基づいて、その平均像を求めるものであるのに対し、断層モデルはシミュレーションに過ぎず、パラメータ次第でどのようにでも操作できるからである。
断層モデルによる地震動評価結果が耐専スペクトルよりかなり小さい場合には地震動を過小評価しているといえる。耐専スペクトルには最近の震源近傍での大きな地震観測記録が反映されていないため、耐専スペクトルそのものが震源近くで過小評価になっている可能性が高く、震源近くでは地震動を一層過小評価している可能性が高いといえる。
(2)不確実さ考慮における「短周期レベル1.5倍」と「応力降下量1.5倍(20MPaより小さい場合は20MPaとする)」は、2007年新潟県中越沖地震の震源特性が通常の地震より1.5倍大きかったという経験に基づいている。
具体的には、「震源距離200km以下で、S波速度700m/s以上の地層が存在し、第三紀以前の地質条件」という条件に合う広域観測記録(K-NET、KiK-net 地表記録)のはぎとり波の応答スペクトルが耐専スペクトル(内陸補正なし)と同等であったという事実に基づいている。つまり、断層モデルによる地震動評価が耐専スペクトルよりかなり小さい状態で応力降下量と短周期レベルを1.5倍にしても意味がない。
美浜3号の場合には、「大陸棚外縁~B~野坂断層」の耐専スペクトルが極近距離よりかなり乖離していることから「適用外」としているが、耐専スペクトルを採用し、断層モデルによる地震動評価結果が過小になっている場合には、推本のレシピ(イ)を用いで地震動評価をやり直すべきである。
このレシピ(イ)について、原子力規制庁は7月27日規制委本会議で、「どのように保守性を確保していくか(断層長さの設定(連動の考慮を含む)、各種の不確かさの取り方等)に関し、妥当な方法が現時点で明らかになっているとは言えず、規制において要求または推奨すべきアプローチとして位置付けるまでの科学・技術的な熟度には至っていないと考える」とケチを付け、その後の記者ブリーフィングでも、「(ア)の方法(推本の入倉式に基づくレシピ)は福岡県西方沖地震など大きな地震が起こるたびにシミュレーションと観測記録を比較してキチンと検証されてきたが、(イ)の方法は検証されていない。
そういう点では地震動評価として用いるにはアの方が適切だと考えている」と主張しているが、嘘をつくのはやめるべきである。
震源断層の推定法は,推本による「活断層の長期評価手法」報告書(暫定版)(2010.11.25)に則って行われており、地震動評価に際して推本のレシピの(ア)と(イ)のどちらを用いるのかとは別問題である。ただし、入倉式による(ア)のレシピを用いる場合には、事前に当該震源断層における地震観測記録が得られていない限り、入倉式に必要な「地下のすべり量分布に基づく不均質な震源断層の広がり」を算出する術はなく、「活断層評価や変動地形学等の測地データに基づく均質な震源断層の広がり」に基づく地震動評価に対しては、(イ)のほうが適切だと言える。
また、推本は2000年鳥取県西部地震や2005年福岡県西方沖地震などの大地震の地震観測記録に基づいてレシピの検証を行い、 「これらの報告を踏まえ、断層モデルの設定において、『長期評価』のマグニチュードと整合し、かつ、簡便な手順でパラメータを設定できる手法を用いて強震動評価を行い、その妥当性を検討した」のが「警固断層帯(南東部)の地震を想定した強震動評価」であり、その手法が修正レシピである。規制庁は事実関係を逆転させて捉え、大嘘をついているが、このような国民をだます主張は撤回し、レシピ(イ)を採用すべきである。
–<整理番号901E155:意見4(16-21ページ)>———
【御意見の概要】
国内の地震観測記録から得られた経験式である耐専スペクトルは平均像を示すに過ぎず、国内の地震データの分析により得られた結果及び不確かさを考慮するとその値を2倍にする必要がある。
【御意見への考え方】
地震ガイドでは、応答スペクトルに基づく地震動評価において、用いられている地震記録の地震規模、震源距離等から、適用条件、適用範囲について検討した上で、距離減衰式を適切に選定することを示しており、原子力規制委員会は、審査において、対象となる検討用地震の地震規模や震源距離がNoda et al.(2002)の適用条件、適用範囲を満足しているか否かを確認しています。また、解釈別記2は、「敷地ごとに震源を特定して策定する地震動」の策定においては、検討用地震ごとに「応答スペクトルに基づく地震動評価」及び「断層モデルを用いた手法による地震動評価」を行うとともに、敷地における地震観測記録を踏まえて、地震発生様式、地震波の伝播経路等に応じた諸特性を十分に考慮することを求めています。原子力規制委員会は、申請者が実施した応答スペクトルに基づく地震動評価は、用いる距離減衰式の特徴や適用性、地盤特性を考慮するとともに、断層傾斜角や断層長さ等の震源の不確かさも踏まえて評価していることから、解釈別記2の規定に適合していることを確認しています。
【考え方への批判】
「敷地における地震観測記録を踏まえて、地震発生様式、地震波の伝播経路等に応じた諸特性を十分に考慮すること」、および、「用いる距離減衰式の特徴や適用性、地盤特性を考慮するとともに、断層傾斜角や断層長さ等の震源の不確かさも踏まえて評価していること」というのは認識論的不確かさの考慮にすぎません。偶然的不確かさはこれとは別であることを意見の中で詳しく説明しているにもかかわらず、全く無視しようとしています。「基準地震動及び耐震設計方針に係る審査ガイド」(2013.6)の「3.3 地震動評価」-「3.3.3 不確かさの考慮」の中でも「地震動評価においては、震源特性(震源モデル)、伝播特性(地殻・上部マントル構造)、サイト特性(深部・浅部地下構造)における各種の不確かさが含まれるため、これらの不確実さ要因を偶然的不確実さと認識論的不確実さに分類して、分析が適切になされていることを確認する。」とあるにもかかわらず、偶然的不確実さについては無視しようとしているのです。これは明らかにガイド違反だと言えます。
<提出した意見4(16-21ページ)>
耐専スペクトルは国内地震観測記録に基づき、その平均像を求めるものであり、そのバラツキは大きく、「平均+標準偏差」は平均の2倍にもなる。地域性などの認識論的不確実さは知見を重ねることで小さくできるが、偶然的不確実さは知見を重ねても小さくできず、その大きさをより正確に推定できるだけである。
内山・翠川(2013)は、防災科学研究所のK-NETおよびKiK-netを対象に,1996~2010年のMw4.5~Mw6.0かつ震源深さ100km以浅の地震で得られた強震記録、756地震40,193データ(165内陸地殻内地震8,431データ、439プレート境界地震22,242データ、152スラブ内地震9,520データ)という膨大な量の国内地震データを分析し、 最大加速度のばらつきは「平均+標準偏差」が平均の2.34倍になること、 地震間のばらつきの43%が偶然的不確定性によるものであることを導出している。
地震内のばらつきも同様になるとすれば、たとえ、不確かさの考慮によって認識論的不確定性によるばらつきをゼロにできたとしても、低減不可能な偶然的不確定性によるばらつきは「平均+標準偏差」が平均の1.75倍になる。
認識論的不確実さをゼロにすることは至難であり、その残余を含めると「平均+標準偏差」は平均の約2倍になると言える。つまり、耐専スペクトルは平均像を示すものにすぎないため、実施の地震動のバラツキを考慮すれば、2倍にする必要があるということになる。この最新の知見を考慮して、美浜3号の耐専スペクトルについても、基準地震動を作成する際には2倍にすべきである。
断層モデルについても、統計的グリーン関数法を用いた断層モデルによる地震動評価時には、要素地震を50個ほど確率論的に作成して地震動を求め、その平均スペクトルに近いメジアンの地震波を代表波としているが、これも平均像に過ぎない。断層モデルについても代表波の振幅を2倍にして耐専スペクトルと同様の余裕を確保すべきである。
このように、耐専スペクトルや断層モデルで2倍にしても平均+標準偏差のバラツキを考慮したに過ぎないが、美浜3号の現在の基準地震動を2倍にするだけで、美浜3号のクリフエッジ1,320ガル(関西電力によるストレステスト一次評価結果2011.12)をこえるため、再稼働できないはずである。