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02月

東京電力福島第一原子力発電所において放射性同位元素を取り扱うに当たっての事業所境界の実効線量の算定に関する原子力規制委員会告示の一部改正案に対する意見募集の結果が公表されました

第53回原子力規制委員会(2021.2.3)で、 「東京電力福島第一原子力発電所において放射性同位元素を取り扱うに当たっての事業所境界の実効線量の算定に関する原子力規制委員会告示の一部改正案に対する意見募集の結果」が公表されました。私が出していた3つの意見への回答が記載されていましたが、下記のようにひどいものです。

【本告示改正の趣旨について】

放射性同位元素等の規制に関する法律(以下「RI法」という。)に基づく工場又は事業所の境界における線量の制限や核原料物質、核燃料物質及び原子炉の規制に関する法律(以下「炉規法」という。)に基づく周辺監視区域の外側における線量の制限は、放射線施設や原子力施設のそれぞれの規制ごとに、許可対象施設自らに起因する放射線による影響を遮へい及び離隔距離によって一定水準以下とすることを目的として設定されており、他の許可対象施設の事故に由来する放射線による線量を含めることを求めていません。 一方、東京電力福島第一原子力発電所(以下「1F」という。)については、1F事故時の放出により沈着した放射性物質が広域に広がっており、周辺監視区域を線量限度に基づき設定することが困難であることから、炉規法に基づく保安又は特定核燃料物質の防護につき特別の措置を要する施設(特定原子力施設)に係る実施計画により管理されています。 このように管理されている1Fの敷地内においては、今後、RI法に基づく放射線施設(以下「分析研究施設」という。)の許可申請が予定されていますが、上述のとおり、RI法においては、許可対象施設自らに起因する放射線による線量を算定すれば足りることから、本告示改正において、その考え方を維持することを入念的に規定するものです。

(コメント)同じ福島第一原発敷地内にありながら、燃料デブリ等分析用に新たに設置する分析研究施設は、炉基法の許可対象ではなく、RI法の許可対象だから、炉基法対象の施設は無視して、RI法対象の分析研究施設による線量だけを規制すればよいというのは。「周辺監視区域の外側における線量の制限」で公衆被ばく線量限度1mSv/年を担保するという法令の趣旨を曲解しています。これでは公衆被ばく線量限度1mSv/年を担保できません。

【現在の1Fが違法状態にあるとの御意見について】

1Fについては、炉規法等に基づき、周辺監視区域を設定し当該区域に対する立入制限等の措置を講ずることが求められますが、1F事故時の放出により沈着した放射性物質が広域に広がっており、周辺監視区域を線量限度に基づき設定することが困難な状況です。 このように、施設の状況に応じた適切な方法により管理を行うことが必要であるため、炉規法第64条の2第1項に基づき特定原子力施設に指定し、炉規法第64条の2第2項に基づき措置を講ずべき事項として、廃炉作業に伴い追加的に敷地内から放出される線量による影響を可能な限り低減するために「特に施設内に保管されている発災以降発生した瓦礫や汚染水等による敷地境界における実効線量(施設全体からの放射性物質の追加的放出を含む実効線量の評価値)を、平成25年3月までに1mSv/年未満とすること。」を求めています。 これを受けて原子力規制委員会が認可した東京電力提出の実施計画においては液体廃棄物を排出する際の放射性物質の濃度を一定以下で管理する等の措置をとることとなっています。また、平成28年3月以降当該実効線量は1mSv/年を下回っています。 このように、1Fでは炉規法に基づく適切な管理が行われています。

(コメント)炉規法第64条の2第1項は、福島第一原発を「特定原子力施設」に指定できるとし、炉規法第64条の2第2項は、措置を講ずべき事項及び期限を示して「実施計画」の提出を求めるというだけであり、特定原子力施設に指定された福島第一原発が満たすべき法令はこれらの規定に基づいて、次の3法令によって別に定めてあります。

(1)「東京電力株式会社福島第一原子力発電所原子炉施設についての核原料物質、核燃料物質及び原子炉の規制に関する法律の特例に関する政令」(2013年政令第53号)

(2)「東京電力株式会社福島第一原子力発電所原子炉施設の保安及び特定核燃料物質の防護に関する規則」(2013年原子力規制委員会規則第2号)

(3)「特定原子力施設への指定に際し東京電力株式会社福島第一原子力発電所に対して求める措置を講ずべき事項について」(2012年11月7日原子力規制委員会決定)のⅡ-11 の3法令です。

しかし、(1)には、原子炉等規制法の一部を適用除外できるとあるものの、敷地境界線量(周辺監視区域外の線量)が1mSv/年を超えてよいとの条文はありません。

(2)には、特定原子力施設についても「周辺監視区域」は「実用炉規則第2条第2項第6号の周辺監視区域」をそのまま適用することとしています。すなわち、「周辺監視区域」とは、管理区域の周辺の区域であって、当該区域の外側のいかなる場所においてもその場所における線量が原子力規制委員会の定める線量限度を超えるおそれのないものをいう(実用発電用原子炉の設置、運転等に関する規則第2条第2項第6号)。また、「実用炉規則第2条第2項第6号の原子力規制委員会の定める線量限度」は「実効線量については、1年間につき1mSv」と明記されています(「核原料物質又は核燃料物質の製錬の事業に関する規則等の規定に基づく線量限度等を定める告示」(2015年8月31日原子力規制委員会告示第8号)第2条第1項第1号)。

(3)では、放射性物質の放出抑制等による敷地周辺の放射線防護等の要件が次のように定められています。

○「特定原子力施設から大気、海等の環境中へ放出される放射性物質の適切な抑制対策を実施することにより、敷地周辺の線量を達成できる限り低減すること。」

○「特に施設内に保管されている発災以降発生した瓦礫や汚染水等による敷地境界における実効線量(施設全体からの放射性物質の追加的放出を含む実効線量の評価値)を、平成25年3月までに1mSv/年未満とすること。」

しかし、これらは(2)で規定された「敷地境界線量1mSv/年」の要件とは別に定められた特記事項にすぎず、これを満たすから(2)の要件を満たさなくてもよいということにはなりません。むしろ、違法状態を一日でも早く解消するための特別な措置であり、まずは「特に施設内に保管されている発災以降発生した瓦礫や汚染水等による敷地境界における実効線量」の引き下げを求めたものにすぎず、この線量が「平成28年3月以降当該実効線量は1mSv/年を下回っています」というのであれば、それで終わるのではなく、それに続いて段階的に(2)を遵守できるようになるまで規制を強めていくことが求められているのです。そうでなければ、(2)の要件は無意味になります。法令遵守を求めるべき原子力規制委員会が、自ら進んで(2)の要件を放棄してどうするんでしょう!

<参考:炉基法第64条の2の規定>

第六十四条の二 原子力規制委員会は、原子力事業者等がその設置した製錬施設、加工施設、試験研究用等原子炉施設、発電用原子炉施設、使用済燃料貯蔵施設、再処理施設、廃棄物埋設施設若しくは廃棄物管理施設又は使用施設において前条第一項の措置(同条第三項の規定による命令を受けて措置を講じた場合の当該措置を含む。)を講じた場合であつて、核燃料物質若しくは核燃料物質によつて汚染された物若しくは原子炉による災害を防止するため、又は特定核燃料物質を防護するため、当該設置した施設の状況に応じた適切な方法により当該施設の管理を行うことが特に必要であると認めるときは、当該施設を、保安又は特定核燃料物質の防護につき特別の措置を要する施設(以下「特定原子力施設」という。)として指定することができる。

2 原子力規制委員会は、特定原子力施設を指定したときは、当該特定原子力施設に係る原子力事業者等(次条において「特定原子力事業者等」という。)に対し、直ちに、措置を講ずべき事項及び期限を示して、当該特定原子力施設に関する保安又は特定核燃料物質の防護のための措置を実施するための計画(以下「実施計画」という。)の提出を求めるものとする。

【分析研究施設の設置に伴う追加的放出を懸念する御意見について】

原子力規制委員会は、1Fの廃炉作業を円滑に進める観点から、その廃炉作業の一環として、放射性同位元素を取り扱う分析とそのための施設を設置することについて、炉規法に基づき特定原子力施設に係る実施計画の変更を認可しています。1Fの敷地境界における線量については、措置を講ずべき事項による制限(1mSv/年未満)を満たすよう、特定原子力施設に係る実施計画に基づき管理することを求めてまいります。

(コメント)上記(2)の要件が、一時的な特別措置に過ぎない「措置を講ずべき事項による制限」にすり替えられています。炉基法で定められた実施計画で分析研究施設の設置を認めながら、その線量管理は炉基法に規定されたものではなくRI法に定められたものだけを満たせばよいというのは、炉基法に基づく(2)の要件を放棄するものです。RI法の要件と炉基法に基づく(2)の要件が同時に満たされるものでなければ、法令が担保すべき「公衆の被ばく線量限度1mSv/年」は守られなくなります。

原子力規制庁も、「福島第一原発敷地内においては、自然放射線以外の同発電所事故により放出された放射性物質から発生する放射線により、事業所境界の実効線量が数量告示で定める線量限度(実効線量が3 月間につき250マイクロシーベルト)を超えている状況にある。」(「東京電力福島第一原子力発電所において放射性同位元素を取り扱うに当たっての事業所境界の実効線量の算定に関する原子力規制委員会告示の一部改正案及び意見募集の実施について」,2020年11月11日原子力規制庁)と認めているのですから、この違法状態を解消すべく「措置」を緩和するのではなく、(2)の要件満足に向けて一層強化していくのが本来の規制委員会の役割であるはずです。原子力規制委員会はいつから原子力「緩和」委員会に変質したのでしょうか?