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高浜3・4号パブコメへの回答(「考え方」)に示された重要な一歩

原子力規制委員会は2月12日に高浜3・4号の審査書を決定し、設置変更許可を出しました。しかし、同時に示された「パブコメへの意見への考え方」は、やはりずさんなものであり、真摯な批判には到底耐えられません。しかし、その中にも、私たちとの3回の交渉の結果、重要な一歩が記された内容も含まれていました。ここでは、原子力規制委員会・規制庁の「考え方」への批判を「コメント」として掲載します。パブコメに提出した「意見」はその一部が「ご意見の概要」として短く引用されています。

Ⅲ-1.1 基準地震動(第4条関係)【震源を特定せず策定する地震動評価について】

<ご意見の概要>
➢原子力安全基盤機構(2005)は、「M6.5の横ずれ断層が直下で動けば、Vs=2600m/sの地震基盤表面上で1340ガルの地震動が生じる」ことを断層モデルで解析しており、これを「震源を特定せず策定する地震動」として評価すべきである。「震源を特定せず策定する地震動」の評価対象を、「得られた地震観測記録」に限るとする科学的根拠はない。

<考え方>
➢震源を特定せず策定する地震動については、震源と活断層を関連付けることが困難な過去の内陸地殻内の地震について得られた震源近傍における観測記録を収集・検討し、原子力発電所の敷地の地盤物性に応じた応答スペクトルを設定して策定することを要求しています。評価に当たっては、観測記録を収集し評価することを要求しています。旧独立行政法人原子力安全基盤機構が試算した地震動は、地震動評価の際に参照する基準地震動の超過確率が、どの程度の大きさの超過確率になるか確認する目的でパラメータを設定して評価した結果であり、試算した地震動をそのまま震源を特定せず策定する地震動として用いるために試算したものではないことから、検討の対象にしていません。

コメント)川内1・2号の審査書パブコメへの回答(「考え方」)では、「旧JNESが試算した地震動は、地震動評価の際に参照する基準地震動の超過確率が、どの程度の大きさの超過確率になるか確認する目的で、厳しいパラメータを設定して評価した結果であり、試算した地震動をそのまま震源を特定せず策定する地震動として用いるために試算したものでないことから、今回の評価では検討の対象にしていません。」となっており、「厳しい」という文言が消えました。これは、原子力規制庁が2015年1月16日の私たちとの交渉で、北海道留萌支庁南部地震の地震動とJNESによる縦ずれ断層の地震動評価(最大値)が良くあっていることを認め、「JNESの断層モデルは厳しい条件を設定した現実離れした地震動評価ではなく、厳しいというのは言い過ぎであり、訂正すべきだ」という指摘に同意した結果なのです。つまり、JNESの断層モデルによる地震動評価は現実の地震動を反映した評価になっていることを認めざるを得なくなった結果なのです。原子力規制庁は、1月16日交渉時にはさらに踏み込んで、「実際の発電所の評価などに適用すべきかどうか、地震のモデルとしての再現性という点で妥当かどうかを専門家も含めて改めて検討する必要がある。」と発言していたのです。ところが、これについては何も触れていません。改めて検討すべきです。

Ⅲ-1.1 基準地震動(第4条関係)

ご意見の概要
➢「FO-A~FO-B~熊川断層」に関する応答スペクトルに基づく地震動評価をNoda et al.(2002)の方法、いわゆる「耐専スペクトル」で行っているが、耐専スペクトルには、内陸地殻内における震源近傍及び近距離での最新の地震観測記録が反映されていない。少なくとも、最近20年間に観測された地震観測記録を耐専スペクトルに反映させた上で、耐専スペクトルを適用し直すべき。

考え方
平成21年に旧原子力安全委員会で行われた「応答スペクトルに基づく地震動評価」に関する専門家との意見交換会において、耐専スペクトルの適用性の検討が行われ、それまでの国内外の震源近傍の観測記録による適用性が報告されています。
 これを踏まえ申請者は、FO-A~FO-B~熊川断層による地震の応答スペクトルに基づく地震動評価において、地震規模、震源距離等から、Noda et al.(2002)の方法を適用しています。

コメント)原子力規制庁は、2014年7月29日および2015年1月16日の私たちとの交渉で、「耐専スペクトルは、等価震源距離が極近傍より近いところではなかなか適用が難しいということで日本電気協会のほうで見直し作業を進めているというのは、そう承知をしておりまして、まだこれは引き続き作業をやっているということのようでございます。・・・検討が進んで、新たな知見などが出てくれば、当然バックフィットなど検討していきたいと思っています。」と回答しています。最新の震源近傍における地震観測記録に基づいて耐専スペクトルが見直し中であると認識しているにもかかわらず、結果が出るまで待つという悠長な姿勢でいいのでしょうか。また、耐専スペクトルは過去の地震観測記録の平均的なレベルを示すものであり、実際の地震動は2倍にもなります。この点についても意見を出していたのですが、これは引用されず、考え方も示されていません。
ただし、重要なことが一つあります。今回の「考え方」では、2009年5月22日の意見交換会で検討された「耐専スペクトルの適用性を踏まえる」と明記されています。この意見交換会では、M7.3の鳥取県西部地震の賀祥ダム(等価震源距離6km)での地震観測記録と耐専スペクトルが良く合っていることが示され、この範囲までは耐専スペクトルを使えるとの発言もありました。ところが、「FO-A~FO-B断層と熊川断層の連動(M7.8)」について、高浜3・4号では耐専スペクトルが適用され、大飯3・4号では震源断層が近すぎるからという理由で適用外になっています。高浜3・4号の等価震源距離は基本ケースで18.0km、傾斜角75度のケースでは16.1km程度、大飯3・4号の基本ケースでは12.6km程度です。わずか4kmの差で適用外にされています。しかし、「M7.3、等価震源距離6km」で適用されたケースを妥当だとしているのですから、これを踏まえれば、大飯3・4号で耐専スペクトルを適用外とする理由が成立たなくなります。原子力規制庁はこの問題点に気付いていないようですが、一体どのように説明するのでしょうか

ご意見の概要
➢「FO-A~FO-B~熊川断層」に関する断層モデルによる評価結果は、耐専スペクトルの1/2~1/3に過ぎない。これは明らかに断層モデルによる地震動評価結果が過小評価であることを示している。断層モデルは、入倉式で地震規模を求めており、国内地震学会で通用している松田式による地震規模の半分程度に小さくなっている。さらに、応力降下量を断層モデルのレシピ通りに求めるのではなく、断層長さが63.4km と中程度であるにもかかわらず、100km以上の長大な断層に適用されるべきFujii-Matsu’ura(2000)による応力降下量を採用し、断層平均3.1MPa、アスペリティ平均14.1MPa と小さく設定している。これらの結果、断層モデルによる地震動評価結果が耐専スペクトルの1/2~1/3になっている。

考え方
➢地震ガイドにおいては、震源断層のパラメータを、活断層調査結果等に基づき、地震調査研究推進本部地震調査委員会による「震源断層を特定した地震の強震動予測手法(2009)」(以下「レシピ」という。)等の最新の研究成果を考慮して設定することを示しています。
 また、解釈別記2は、基準地震動の策定過程に伴う各種の不確かさについては、敷地における地震動評価に大きな影響を与えると考えられる支配的なパラメータについて分析した上で、必要に応じて不確かさを組み合わせるなど適切な手法を用いて考慮することを要求しています。
 申請者は、原子力規制委員会の指摘を踏まえ、FO-A断層とFO-B断層の連動ではなく、FO-A~FO-B断層と熊川断層の連動を検討用地震として選定し、レシピや入倉・三宅(2001)等に基づき震源モデル及び震源特性パラメータを基本ケースとして設定し、応答スペクトルに基づく地震動評価及び断層モデルを用いた手法による地震動評価を実施しています。その際、断層上端深さについては、原子力規制委員会の指摘を踏まえ、4kmではなく3kmとして設定しています。さらに、基本ケースに対して、地震動評価に影響が大きいと考えられるパラメータの不確かさを考慮したケースとして、短周期の地震動レベルを基本ケースの1.5倍としたケース等の地震動評価も行っています。
 規制委員会は、申請者が実施した基準地震動の評価は、不確かさを考慮して基準地震動を策定していることから、解釈別記2の規定に適合していることを確認しています。

コメント)考え方では、さまざまな不確実さを考慮したと説明していますが、大事なのは、「その結果として、なぜ、断層モデルが耐専スペクトルの1/2~1/3の地震動評価に留まっているのか」ということです。原子力規制庁はさまざまな不確実さを考慮することによっては、耐専スペクトルとの大きな食い違いを説明できないことに気付いているはずですが、それがなぜかを説明できないのです。理由は簡単です。断層モデルの下になったデータが北米中心の地震記録であり、日本の地震記録ではないということです。その結果、日本で通用している松田式による地震規模と比べて断層モデルの地震規模は半分以下です。その結果、応力降下量など地震動評価にとって決定的に重要なパラメータが小さく設定されているのです。また、63kmの断層を「100km以上の長大な断層」と見なして応力降下量を小さく設定しています。断層モデルを国内地震記録に基づいて根本的に見直さない限り、この差は解消できないのです。
耐専スペクトルと断層モデルについてはパブコメに出した意見の一部しか引用されていませんので、その全文を以下に再掲しておきます。これと「概要」を比べれば、原子力規制庁がいかに回答する対象を絞っているか、回答できずに避けている内容がいかに多いかがよく分かると思います。

パブコメへ投稿した意見
(1)「FO-A~FO-B~熊川断層」に関する応答スペクトルに基づく地震動評価をNoda et al.(2002)の方法、いわゆる「耐専スペクトル」で行っているが、この耐専スペクトルには、内陸地殻内における震源近傍および近距離での最新の地震観測記録が反映されていない。少なくとも、最近20年間に観測された地震観測記録を耐専スペクトルに反映させた上で、耐専スペクトルを適用し直すべきである。とりわけ、原子力安全基盤機構JNESによる2005年6月報告書(独立行政法人原子力安全基盤機構「震源を特定しにくい地震による地震動の検討に関する報告書(平成16年度)」, JNES/SAE05-00405 解部報-00049, 2005.6)によれば、耐専スペクトルによる地震動評価結果は、震源近傍や近距離において、JNESの断層モデルによる地震動評価結果と比べて半分以下の過小評価になっている。原子力規制庁は7月29日の市民団体との話し合いの場で、この事実を認め、「耐専スペクトルは日本電気協会で現在見直し作業中である」と説明している。そうであればなおさら、古い手法をそのまま使うのではなく、最新の地震観測記録を反映させた改訂耐専スペクトルを使って評価し直すべきである。また、耐専スペクトルは地震動の平均的なレベルを評価するものであり、実際の地震動には「倍半分」のバラツキがある。これは地震学界の常識であり、福島第一原発重大事故を教訓とするのであれば、耐専スペクトルに2倍の余裕を持たせるべきである。したがって、「FO-A~FO-B~熊川断層」の応答スペクトルの策定に際しては、耐専スペクトルを最新の地震観測記録に基づいて作り直し、この改訂耐専スペクトルで応答スペクトルを求め直すべきであり、さらに2倍の余裕を持たせて基準地震動を策定し直すべきである
(2)「FO-A~FO-B~熊川断層」に関する断層モデルによる評価結果は、耐専スペクトルの1/2~1/3にすぎない。これは明らかに断層モデルによる地震動評価結果が過小評価であることを示している。原子力規制庁は7月29日の市民団体との話し合いの場で「評価手法が違うので結果が異なっても仕方がない」と説明しているが、同じ断層による地震動評価結果がこれほどにも異なるのは科学的におかしい。その理由もはっきりしている。つまり、関西電力の用いた断層モデルは、北米中心の地震データに基づく入倉式で地震規模を求めており、国内地震学界で通用している松田式による地震規模の半分程度に小さくなっている。さらに、応力降下量を断層モデルのレシピ通りに求めるのではなく、断層長さが63.4kmと中程度であるにもかかわらず、100km以上の長大な断層に適用されるべきFujii-Matsu’ura(2000)による応力降下量を採用し、応力降下量を断層平均3.1MPa、アスペリティ平均14.1MPaと小さく設定している。これらの結果、断層モデルによる地震動評価結果が耐専スペクトルの1/2~1/3になっているのである。最近国内で発生したM7クラスの内陸地殻内地震ではアスペリティ平均応力降下量は20~30MPaである。たとえば、鳥取県西部地震M7.3(2000.10.6)では2アスペリティで平均応力降下量は28.0MPaと14.0MPaと評価されており、能登半島地震M6.9(2007.3.25)では3アスペリティで20MPa、20MPaおよび10MPa、新潟中越沖地震M6.8(2007.7.16)では3アスペリティで23.7MPa、23.7MPaおよび19.8MPa、岩手・宮城内陸地震M7.2(2009.6.14)では2アスペリティで17.0MPaと18.5MPaと評価されている。これらを教訓として, 基本ケースにおけるアスペリティ平均応力降下量を20~30MPaまたはそれ以上に設定すべきであり、さらに1.5倍の不確実さを考慮すべきであろう
 ちなみに、Fujii-Matsu’uraは入倉式のデータではなく武村式の対象とした国内地震データとScholz(2002)の対象とした大規模地震のデータを用いてL-M0(断層長さ-地震モーメント)関係式を導出しており、入倉式では地震規模の過小評価になることを暗に示唆しているといえる

高浜3・4号審査書案パブコメに意見を提出しました

高浜3・4号の審査書案に対するパブリックコメント募集に意見を2つ提出しました。

(pp.18-19への意見)—————————————————
(1)原子力安全基盤機構JNESは2005年6月報告書(独立行政法人原子力安全基盤機構「震源を特定しにくい地震による地震動の検討に関する報告書(平成16年度)」,JNES/SAE05-00405 解部報-00049(2005.6))の中で「M6.5の横ずれ断層が直下で動けば、Vs=2600m/sの地震基盤表面上で1340ガルの地震動が生じる」ことを断層モデルで解析しており、これを「震源を特定せず策定する地震動」に採用すべきである。この指摘に対して、原子力規制庁が昨年10月の川内原発地元説明会で示した回答では、「超過確率を求める目的で、厳しい条件を設定して評価した結果」だから検討対象にしないという。しかし、JNESの断層モデルのパラメータは1標準偏差分(厳しくない、ごく普通のバラツキ)の不確実さを考慮しただけであり、決して現実離れした「厳しい条件」ではない。その証拠に、2004年北海道留萌支庁南部地震(M6.1、以下「留萌地震」という)の応答スペクトル(Vs=1500m/sの川内原発解放基盤表面での地震波に調整し直したもの)は、JNESによる同規模の縦ずれ断層による地震動評価結果の最大値(応答スペクトルの最大値からなるスペクトル)と同等以上である。つまり、留萌地震の応答スペクトルはJNESの断層モデルが決して「厳しい条件を設定」したモデルではなく、通常観測されるべき地震動を評価するモデルになっており、仮に留萌地震の観測記録がなければ、JNESの断層モデルで観測記録の不足を補うことになリ得たことを示している。具体的なモデルの条件設定と実際の観測記録との整合性を無視して、科学的根拠なく「厳しい条件」と決めつけ、1340ガルの地震動を評価対象外にすることは、大きな過ちを犯すものである。JNESはそもそも震源近傍での地震観測記録の不足を補うために断層モデルを構築し、数少ない国内地震観測記録に合うようにモデルのパラメータを決めている。これは、結果として、地震観測記録に基づき「各種の不確かさを考慮する」という審査ガイドの要求に沿ったものになっているともいえる。これを評価対象外にすることは「最新の科学的・技術的知見を踏まえる」とする審査ガイドに反するのではないか。
(2)また、「目的が違う」というのも理由にならない。そもそも震源近傍の地震観測記録が採られ始めたのは1995年の阪神・淡路大震災の後、地震観測計が広く張り巡らされてからであり、ここ十数年のことである。「震源を特定せず策定する地震動」の評価対象を「得られた地震観測記録に限る」とする科学的根拠はない。なぜなら、現在でも、将来発生するであろう地震の震源近傍に地震計が存在する確率は低いからであり、数十年の短期間で将来起こりうる地震動のほとんどすべてのケースが発生するということもあり得ないからである。ここから必然的に観測記録を補う必要が生じる。その一つがJNESによる断層モデル解析であり、その結果得られたのが1340ガルの地震動である。にもかかわらず、これを検討対象に入れず、観測記録だけに限るというのであれば、その方法で不確実さを十分考慮できており、「震源を特定せず策定する地震動」を過小評価することはないという科学的根拠を示すべきである。
(3)さらに、1340ガルの地震動を評価対象外にすることは、福島第一原発の津波評価において15.7mの津波を試算しながら無視した東京電力幹部と全く同じ対応であり、福島第一原発3号炉でのプルサーマル実施のために3号炉の耐震バックチェックで貞観津波の評価を行わなかった原子力安全・保安院の過ちを再現することになる。当時、3号炉評価で貞観津波の評価を行うべしと主張した小林勝耐震安全審査室長(当時)に、野口安全審査課長(当時)が「その件は、安全委員会と手を握っているから、余計な事を言うな。」「保安院と原子力安全委員会の上層部が手を握っているのだから、余計なことはするな。」と叱責し、ノンキャリのトップだった原広報課長(当時)が「あまり関わるとクビになるよ。」と恫喝して黙らせたことが、小林氏自身の証言で明らかになっている。小林氏は現在、安全規制管理官(地震・津波安全対策担当)として適合性審査における地震・津波評価の事務局責任者だが、今度は逆の立場から原発再稼働を進めるために、かつて保安院が犯した過ちを反省することなく繰り返すのであろうか。それは原子力規制委員会への国民の信頼を決定的に裏切ることになると私は考えるが、いかがか。原子力安全・保安院との違いは、すでに下した判断が間違っていると指摘されたとき、または、新しい知見が出てきたときに、どのように対処するかで根本的に問われる。川内原発についても、高浜原発についても、今がそのときではないか。

(pp.16-18への意見)—————————————————
(1)「FO-A~FO-B~熊川断層」に関する応答スペクトルに基づく地震動評価をNoda et al.(2002)の方法、いわゆる「耐専スペクトル」で行っているが、この耐専スペクトルには、内陸地殻内における震源近傍および近距離での最新の地震観測記録が反映されていない。少なくとも、最近20年間に観測された地震観測記録を耐専スペクトルに反映させた上で、耐専スペクトルを適用し直すべきである。とりわけ、原子力安全基盤機構JNESによる2005年6月報告書(独立行政法人原子力安全基盤機構「震源を特定しにくい地震による地震動の検討に関する報告書(平成16年度)」, JNES/SAE05-00405 解部報-00049, 2005.6)によれば、耐専スペクトルによる地震動評価結果は、震源近傍や近距離において、JNESの断層モデルによる地震動評価結果と比べて半分以下の過小評価になっている。原子力規制庁は7月29日の市民団体との話し合いの場で、この事実を認め、「耐専スペクトルは日本電気協会で現在見直し作業中である」と説明している。そうであればなおさら、古い手法をそのまま使うのではなく、最新の地震観測記録を反映させた改訂耐専スペクトルを使って評価し直すべきである。また、耐専スペクトルは地震動の平均的なレベルを評価するものであり、実際の地震動には「倍半分」のバラツキがある。これは地震学界の常識であり、福島第一原発重大事故を教訓とするのであれば、耐専スペクトルに2倍の余裕を持たせるべきである。したがって、「FO-A~FO-B~熊川断層」の応答スペクトルの策定に際しては、耐専スペクトルを最新の地震観測記録に基づいて作り直し、この改訂耐専スペクトルで応答スペクトルを求め直すべきであり、さらに2倍の余裕を持たせて基準地震動を策定し直すべきである。
(2)「FO-A~FO-B~熊川断層」に関する断層モデルによる評価結果は、耐専スペクトルの1/2~1/3にすぎない。これは明らかに断層モデルによる地震動評価結果が過小評価であることを示している。原子力規制庁は7月29日の市民団体との話し合いの場で「評価手法が違うので結果が異なっても仕方がない」と説明しているが、同じ断層による地震動評価結果がこれほどにも異なるのは科学的におかしい。その理由もはっきりしている。つまり、関西電力の用いた断層モデルは、北米中心の地震データに基づく入倉式で地震規模を求めており、国内地震学界で通用している松田式による地震規模の半分程度に小さくなっている。さらに、応力降下量を断層モデルのレシピ通りに求めるのではなく、断層長さが63.4kmと中程度であるにもかかわらず、100km以上の長大な断層に適用されるべきFujii-Matsu’ura(2000)による応力降下量を採用し、応力降下量を断層平均3.1MPa、アスペリティ平均14.1MPaと小さく設定している。これらの結果、断層モデルによる地震動評価結果が耐専スペクトルの1/2~1/3になっているのである。最近国内で発生したM7クラスの内陸地殻内地震ではアスペリティ平均応力降下量は20~30MPaである。たとえば、鳥取県西部地震M7.3(2000.10.6)では2アスペリティで平均応力降下量は28.0MPaと14.0MPaと評価されており、能登半島地震M6.9(2007.3.25)では3アスペリティで20MPa、20MPaおよび10MPa、新潟中越沖地震M6.8(2007.7.16)では3アスペリティで23.7MPa、23.7MPaおよび19.8MPa、岩手・宮城内陸地震M7.2(2009.6.14)では2アスペリティで17.0MPaと18.5MPaと評価されている。これらを教訓として, 基本ケースにおけるアスペリティ平均応力降下量を20~30MPaまたはそれ以上に設定すべきであり、さらに1.5倍の不確実さを考慮すべきであろう。
ちなみに、Fujii-Matsu’uraは入倉式のデータではなく武村式の対象とした国内地震データとScholz(2002)の対象とした大規模地震のデータを用いてL-M0(断層長さ-地震モーメント)関係式を導出しており、入倉式では地震規模の過小評価になることを暗に示唆しているといえる。

川内原発審査書案への「考え方」は、出した意見をそのまま掲載せずにずさんな回答に終始

本日(9月10日)の原子力規制委員会本会議で、川内1・2号の審査書(案)へのパブコメに対する「考え方」が示され、形だけの報告と議論で審査書が承認されました。原子力規制委員会にとって初めての審査書であり、今後の模範にすべきものであるにもかかわらず、余りにずさんと言わざるを得ません。

私の出した意見は小刻みに細分化され、耐専スペクトルを抜本的に構築し直すべきこと、九州電力が事業者ヒアリングで行った主張は間違っていることなどは引用されず、これに対する原子力規制庁の考え方も示されませんでした。以下に細分化された「意見」、それに対する原子力規制庁の「考え方」、これに対する私の「コメント」を掲載します。

(意見)地震動想定に用いている1997 年5 月13 日鹿児島県北西部地震の地震モーメントについて、九州電力が採用している数値は、複数ある研究結果のうち最も小さいものを設定している。より大きな気象庁CMT 解や、the Global CMT project による値を用いるべきである。(p.23)

(考え方)各種機関及び文献において1997 年の鹿児島県北西部地震の地震モーメントが算出されており、申請者は、菊地・山中(1997)の地震モーメントに基づいて各種のパラメータを設定しています。これは、単にモーメント値の大小のみで判断するのではなく、菊地・山中(1997)の地震モーメントを用いて設定したパラメータに基づく経験的グリーン関数法による評価結果が観測記録と概ね整合する結果となることから選定しているものであり、妥当であると判断しています。なお、申請者は、気象庁のデータについては、CMT 解の理論波形と観測波形の一致が悪く、精度が悪いため、評価には用いないとしています。また、念のため、菊地・山中(1997)の地震モーメントよりも大きいthe Global CMT project による地震モーメントを用いて地震動評価を行った結果、Ss-Lと同等レベルであることを確認しています。

(コメント)長周期側の地震動の「念のため」の確認には the Global CMT project による地震モーメントを採用しているが、短周期側には「念のため」の確認は不要だというのであろうか。九州電力は「地震モーメントを大きくして応力降下量が大きくなっても、市来断層帯などの短周期側の地震動評価結果は変わらない」と事業者ヒアリングで主張していたが、これが間違いであると「意見」には書き込んだ。しかし、これには触れられず、原子力規制庁がこの九州電力の主張を間違いだと気付かなかったのではないかと推測される。こんなずさんな審査で良いのだろうか。

(意見)the Global CMT project による地震モーメントを用いた地震動評価では、長周期側だけではなく短周期側でも大きくなるのではないか。(p.24)

(考え方)Ss-1 については、応答スペクトルに基づく地震動評価と断層モデルに基づく地震動評価を行い、それらを包絡するように策定しています。その結果、Ss-1に対して短周期側は応答スペクトルによるものが、長周期側は理論的手法を併用した断層モデルによるものが支配的な影響であったことから、断層モデルのパラメータである地震モーメントを見直した検討では、長周期側の影響を評価し、Ss-L と同等レベルになっていることを確認しています。短周期側の影響については、1997年5月13日鹿児島県北西部地震が2つの破壊領域を持つ地震であったことから、震源過程を詳しく解析した菊地・山中(1997)の地震モーメントの値に信頼性があり、the Global CMT project のように1つの震源を想定して求めた地震モーメントの値で評価するのは適切ではないと考えます。

(コメント)the Global CMT project の地震モーメントが「適切でない」というのであれば、なぜ、長周期側の地震動評価には不適切なこの値を用いたのであろうか。「考え方」には矛盾があり、一貫していない。ここでの問題は、市来断層帯などの応力降下量の設定とそれによる短周期側の地震動評価が保守的に行われているかどうかが重要なのであって、どの地震モーメントに「信頼性」があるかという議論をしているのではない。では、なぜ、断層モデルに使われる要素地震の地震モーメントにはthe Global CMT project による地震モーメントを無条件で採用しているのであろうか。

(意見)旧JNESが行った震源を特定しにくい地震動の検討で、最大1,340galという計算結果が出ており、これを反映すべきである。

(考え方)震源を特定せず策定する地震動は、震源と活断層を関連付けることが困難な過去の内陸地殻内の地震について得られた震源近傍における観測記録を収集・検討し、原子力発電所の敷地の地盤物性に応じた応答スペクトルを設定して策定することを求めています。評価に当たっては、上記のとおり、観測記録を収集し、評価することを求めており、地震調査研究推進本部地震調査委員会の全国地震動予測地図で示したような実際に発生した地震から求めていない震度等については評価の対象としておりません。また、旧JNESが試算した地震動は、地震動評価の際に参照する基準地震動の超過確率が、どの程度の大きさの超過確率になるか確認する目的で、厳しいパラメータを設定して評価した結果であり、試算した地震動をそのまま震源を特定せず策定する地震動として用いるために試算したものでないことから、今回の評価では検討の対象にしていません。

(コメント)「厳しい」というのは、「北米中心の地震データに基づく通常のレシピによる断層モデルより厳しい」という意味であって、JNESは国内地震データに基づく「日本国内の地震動評価に適した断層モデルの設定法」を用いているのである。原子力規制庁は今年3月に統合したJNESの報告書をよく読みこなせていないのだろうか。7月29日の市民との話し合いでは、JNESのこの断層モデルでさえ「過小評価の可能性がある」と認めていたではないか。その際、超過確率を求めるためにも、地震動評価が妥当なものでなければ意味がないと私が批判して、頷いていたのではなかったか。議論を蒸し返すようなやり方は卑怯である。

川内1・2号の原子力規制委員会審査書(案)に意見を提出しました

原子力規制委員会は7月17日から8月15日まで、川内原発1・2号の審査書(案)に対する意見募集を行っています。しかも、「科学的・技術的意見」という限定付です。原発再稼働を進めようとする電力会社や原子力メーカーなどはこのような限定があろうとなかろうと、意見募集があろうとなかろうと、関係なく、ありとあらゆる手段で原子力規制委員会に意見を出し、圧力をかけ続けています。一般国民にはこのような機会にしか意見を述べることはできません。にもかかわらず、なぜ、このような限定を課すのでしょう。とても、「原発推進行政から独立した委員会」のやることとは思えません。国民の過半数は再稼働に反対であるとの世論調査が何度も出されている中、その国民の声を封じ込めようとするのは、「国民の世論をバックに再稼働推進勢力による不当な圧力を跳ね返すべき、本来あるべき原子力規制委員会」にとって自殺行為です。

川内1・2号の基準地震動について、私は下記2つの意見を本日提出しました。原子力規制委員会・原子録規制庁に残されている「良識」に期待したいと思います。

2014年8月14日 長沢啓行(若狭ネット資料室長、大阪府立大学名誉教授)

p.18III-1.1基準地震動3.震源を特定して策定する地震動について

市来断層帯市来区間などの活断層による地震について耐専スペクトルおよび断層モデルによる地震動評価をやり直すべきである。
耐専スペクトルについては、このスペクトルが策定された当時は内陸地殻内地震の観測記録が少なく、とりわけ、震源近傍ないし近距離での観測記録がほとんどなかった。最近20年間に収集された観測記録等に基づき、耐専スペクトルを再構築すべきである。原子力規制庁は7月29日の市民団体との話し合いで、耐専スペクトルが震源近傍ないし近距離で過小評価になっていることを認め、また、日本電気協会が耐専スペクトルの見直しを検討していること、原子力安全基盤機構JNESの原子力規制庁への統合を機に研究部門を引き続き強化していくことを表明した。そうであれば、なおさら、最新の観測記録に基づき、また、M6.5で1340ガルと算出したJNESの断層モデルによる地震動評価結果で地震観測記録の不足を補い、耐専スペクトルを構築し直すべきである。その上で、市来断層帯市来区間などによる地震動評価をやり直すべきである。また、耐専スペクトルは観測記録の平均的なレベルを表すに過ぎず、倍半分の偶然的なバラツキがある。これを考慮して、耐専スペクトルを2倍以上へ大幅に引き上げるべきである。
断層モデルについては、パラメータの過小設定をやめ、地震動評価をやり直すべきである。1997年5月13日鹿児島県北西部地震の地震モーメントをいくつかある数値のうち最小の値を用いてアスペリティ平均応力降下量を15.9MPaと設定しているが、これは通常の未飽和断層に対するレシピによる値(15.6MPa)と大差なく、経験的グリーン関数法で用いられた要素地震の21.02MPaよりかなり小さい。ところが、the Global CMT project による地震モーメントを用いれば、1997年5月13日鹿児島県北西部地震のアスペリティ応力降下量は25.1MPaになる。要素地震の地震モーメントもthe Global CMT project による値を用いており、これと整合性をとる上でも、同じ機関の地震モーメントを用いるべきであり、地震動評価を行う基本ケースとして25.1MPaを用いるべきである。原子力規制委員会が「より保守的な震源特性パラメータの設定」だとする一つの根拠は市来断層帯市来区間等の活断層による地震の地震モーメントの値がレシピよりも大きいことを指していると思われるが、これはアスペリティ面積と断層面積の比を36.4%と経験値から大きく外れた異常値に設定し、断層平均応力降下量を5.8MPと大きく逆算した結果であり、見かけ上、地震モーメントが大きく算定されているにすぎない。ところが、1997年5月13日鹿児島県北西部地震のアスペリティ面積を少しだけ小さくして、アスペリティ応力降下量を25.1MPa、アスペリティ面積/断層面積比を22%とすれば、断層平均応力降下量は5.5MPaとなり、経験的に妥当なレベルになる。したがって、これを「基本ケース」としてさらに不確かさを考慮し、基準地震動を策定し直すべきである。
また、原子力規制庁は事業者とのヒアリングの場でこっそりアスペリティ応力降下量を25.1MPaとする地震動評価を6月4日の事業者ヒアリングでこっそり行っていた。ところが、公開資料には短周期側の地震動評価結果は存在しない。1997年5月13日鹿児島県北西部地震の本震と余震の相対関係が変わらないことから、経験的グリーン関数による短周期側の地震動評価では、地震モーメントを大きくしても結果は変わらないと九州電力は主張している。確かに当該余震を要素地震とする1997年5月13日鹿児島県北西部地震に関する評価結果は変わらないが、市来断層帯市来区間など活断層の評価で用いられている要素地震は1984年8月15日九州西側海域の地震であり、この地震モーメントはthe Global CMT project による値であり、菊地・山中とは無関係である。したがって、本震と余震の相対関係が同じという九州電力の主張はこれらの活断層による地震動評価では成立たず、応力降下量の比が15.9/21.02から25.1/21.02へ1.58倍に大きくなる。この1.58倍の影響を長周期側だけについて検討しているが、短周期側でも検討すべきである。そもそも、このような九州電力の誤った主張が通るのであれば、応力降下量を1.25倍に引き上げた不確実さの考慮でも地震動評価結果は変わらなかったはずであり、この単純な事実になぜ気付かなかったのであろうか。

原子力規制庁から提出された資料は下記(pdfはこちら):
九州電力株式会社「川内原子力発電所 基準地震動の策定について(補足提出データ・資料)」,川内発電所1、2号機の地震等に係る新基準適合性審査に関する事業者ヒアリング(35),資料番号TC-C-064(2014.6.4)

p.19III-1.1基準地震動3.震源を特定せず策定する地震動について

原子力安全基盤機構JNESは2001-2009年報告書において、通常のレシピとは異なる断層モデル(未飽和断層の断層平均応力降下量3.06MPa、アスペリティ平均応力降下量(最大)19.1MPa、高周波遮断特性(最大)fmax=11.9Hz)を用いて「震源を特定せず策定する地震動」を検討し、M6.5の地震により震源近傍で1340.4ガルの地震動が起きると算定している。原子力規制庁も7月29日の市民との話し合いで、このような地震動が「確率は低いけれども起こりうる」と認めた。しかし、「すでに発生した地震の地震観測記録なら取り入れるが、このような地震動は実際にはまだ起きていないから採用しない」と主張した。ところが、このJNESの報告書は、加藤ら(2004)の上限レベルが非常に少ない観測記録に基づいており、「加藤らが地震の発生をあらかじめ予測できるとして他の地震観測記録を除外した基準」も曖昧であることから行われたものであり、地震観測記録の不足を補うという重要な意味を持っていた。現在、震源を特定しにくい地震の検討対象として最近十数年間に起きた16地震が列挙されているが、これ自体がごく最近のデータにすぎず、依然としてデータの欠落は著しい。地震観測網が拡充された今、今後十数年間でさらに大きな地震動が観測されることは疑いないが、それを待っていては、後手、後手に回って遅いと言えるし、福島第一原発重大事故の教訓を無視するものと言える。地震観測記録の不足を補うために、JNES報告書にある1340.4ガルの地震動を「震源を特定せず策定する地震動」として採用すべきである。それでも、「このような地震動が起こらない限り採用しない」と主張し続けるのであれば、「15.7mの津波を算定しながら、それへの対策を全くとらなかった」東電幹部の過ちを原子力規制委員会・原子力規制庁が今度は地震動評価で繰り返すことになる。これは、原子力規制委員会による重大な瑕疵につながると言えよう。1340.4ガルをM6.5の震源近傍で算定しているのであるから、それが原発直下で起きる前に「震源を特定せず策定する地震動」として取り入れるべきである。
ちなみに、JNESの断層モデルでは、まず、気象庁マグニチュードを定め、地震モーメントに換算し、通常の入倉式(2001)ではなく国内地震データに基づく武村式(1998)で地震モーメントから断層面積を通常より小さく求め、断層平均応力降下量を3.06MPaと通常(2.31MPa)より大きく算出し、アスペリティ面積/断層面積比を22%プラス・マイナス6%としてアスペリティ平均応力降下量を19.1MPa(最大)という通常(15.6MPa)より大きい値も設定している。しかも、この断層モデルの妥当性については、国内の地震観測記録との整合性で詳細に検討している。つまり、通常のレシピによる断層モデルではこれらの観測記録と整合せず、震源近傍の地震動を過小評価することになるため、JNESは未飽和断層に対してではあるが、独自に通常とは異なる断層モデルを構築したものと推察される。原子力規制委員会は、このような検討を通常のレシピによる断層モデルに対して行うべきである。特に、断層長さから松田式で算出した地震規模と断層面積から入倉式で算出した地震規模とが全く整合していないという現実を直視し、国内活断層(飽和断層)について地震学界で広く使われている松田式による地震規模で断層モデルを構築し直すべきである。

1000ガル超の「震源を特定せず策定する地震動」がなぜ採用されないのか

若狭ネットニュース第150号(こちらに下記の小論を投稿しました。ぜひご一読ください。(小論のpdfはこちら)(描画エラーが表示された場合は再読み込みを行ってください)

注:川内2号のクリフエッジは1,220ガルではなく1,020ガルでした。読者の方のご指摘で、原典からの転記ミスであることが判明しました。謹んでお詫びし、訂正致します。ニュース小論も訂正しております。(2014.8.6若狭ネット資料室長 長沢啓行)

1000ガル超の「震源を特定せず策定する地震動」がなぜ採用されないのか
 大阪府立大学名誉教授 長沢啓行

<要旨>
九州電力川内1・2 号に関する新規制基準適合性審査書案が出されようとしている.だが,原子力安全基盤機構JNESによる2001~2009年報告書によれば,以下の根本問題が放置されたままである.

第1に,JNESは1997年鹿児島県北西部地震など実際の観測記録に適合するような断層モデルを構築し,M5.5~M6.5の地震により,震源近傍の地震基盤表面で1000ガル以上の地震動が生じること,M6.5では1340.4ガルになることを示している.実際にも,2007年新潟県中越沖地震M6.8 では柏崎刈羽原発の解放基盤表面はぎとり波で1699ガルの地震動が得られ,2008年岩手・宮城内陸地震M7.2では地下岩盤で1078ガルの観測記録がとられた(解放基盤表面はぎとり波に換算すれば2000ガル近くになろう).したがって,JNESの算出したM5.5~M6.5の地震による震源近傍での1000ガル以上の地震動は現実にも発生する可能性が高く,これを「震源を特定せず策定する地震動」として設定すべきである.

第2に,JNESは1340.4 ガルの地震動を「震源を特定せず策定する地震動」に設定しない理由として,「全プラント共通に設定するミニマムリクワイアメントのもの」という考え方に基づき,「断層最短距離20km 以内の地震動評価結果の平均+1:64標準偏差」または「10^5~10^4の超過確率別応答スペクトルの範囲内」という設定基準を打ち出している.しかし,これらは震源近傍での大きな地震動を遠方の小さな地震動で薄めて平均化したり,全国一様に同確率で地震が発生するというあり得ない想定の下で無理矢理導き出されたものであり,国民の批判には到底耐えられない.大飯3・4号運転差し止め訴訟で福井地裁判決(2014年5月21日)が示したように,福島第一原発炉心溶融事故ではその放射能災害により憲法で保障されるべき「人格権」が侵害されたのであり,「このような事態を招く具体的危険性が万が一でも」あってはならない.M5.5~M6.5の地震による1000 ガル以上の地震動は,国内のどこでも現実に起こりうる具体的な危険性であり,今日の地震学ではこれを否定できない以上,「震源を特定せず策定する地震動」として設定すべきであり,そうしないのは人格権の侵害につながる.

第3に,「震源を特定せず策定する地震動」の評価に際してJNES が設定した断層モデルは電力会社が通常用いているレシピとは異なり,応力降下量など短周期地震動を左右するパラメータ値が大きい.逆に言えば,通常の断層モデル・レシピでは地震動が過小評価されることを示唆している.九州電力による独自の断層モデルでは応力降下量が小さく設定されている.原発の耐震性を評価する際に「駆使」されるこのような地震動の過小評価を反省し,最近20 年間の国内地震観測記録に基づいて内陸地殻内地震を正しく評価できるよう,断層モデルを構築し直すべきである.

第4に,JNES は断層モデルによる地震動評価結果を耐専スペクトル(内陸補正後)と比較しているが,M5.5~M6.8に対する震源近傍の耐専スペクトルは縦ずれ断層に対して1/2~1/5,横ずれ断層に対して1/3~1/8にすぎず,大幅な過小評価となっている.これは耐専スペクトル策定時の地震観測記録の不足が原因であり,最近20年間の震源近傍の国内地震観測記録に基づいて耐専スペクトルを再構築すべきである.

JNES は2014 年3 月1 日に原子力規制委員会・規制庁へ統合された.これを機に,原子力規制委員会・規制庁は,断層モデルや耐専スペクトルによる地震動過小評価を率直に認め,これらを構築し直すべきである.また,1000ガル以上の「震源を特定せず策定する地震動」を設定すべきである.そうすれば,川内1・2号においても,基準地震動が1000 ガルを大幅に超え,炉心溶融事故へ至る限界値=クリフエッジ(1号1,004ガル,2号1,220ガル)を超えることは避けられない.再稼働など論外だ.これこそが原発重大事故によって二度と人格権を侵害しないための最善の措置である.