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2ヶ月半かけてやっと出てきた「基準地震動及び耐震設計方針に係る審査ガイド等の一部改正について(案)に関する御意見及び御意見に対する考え方(案)」で明らかになったものは?

 2022年6月8日の第15回原子力規制委員会で、ようやく意見募集への結果が明らかにされ、「基準地震動等審査ガイドの改正」が審議されました。
 意見募集は2022年2月25日~3月26日(30日間)で、意見数は62件(のべ96件)でした。
私の出した3つの意見はNo.86、No.87、No.66に全文が掲載され、原子力規制庁の「考え方」が示されています。それぞれの「考え方」に続いて、私の(「考え方」への批判)を載せていますので、ご覧ください。

【別紙1】基準地震動及び耐震設計方針に係る審査ガイド等の一部改正について(案)に関する御意見及び御意見に対する考え方(案)(出典:原子力規制庁「基準地震動等審査ガイドの改正」,第15回原子力規制委員会,資料1(2022.6.8)

<意見86>———————
 新旧対照表pp.18-19の「(解説)」は「3.3.2 断層モデルを用いた手法による地震動評価」の(4)の詳細項目①~③をほぼそのまま転記し、「(4)「震源断層を特定した地震の強震動予測手法(『レシピ』)」を用いて地震動評価を行っている場合には、レシピに示された関係式及び手順に基づいて行われていることに留意する必要がある。また、レシピに示されていない方法で評価を行っている場合には、その方法が十分な科学的根拠に基づいていることに留意する必要がある。」と追記したものである。
 このレシピには「(ア) 過去の地震記録や調査結果などの諸知見を吟味・判断して震源断層モデルを設定する場合」と「(イ) 長期評価された地表の活断層長さ等から地震規模を設定し震源断層モデルを設定する場合」の2種類があり、検討用地震に対応する地震観測記録が存在しない場合には、(ア)を用いてはならず、(イ)を用いるべきであることが示されている。たとえば、日本地震学会2016年度秋季大会(2016.10.5)で東京大学地震研究所の纐纈一起教授は、「『震源断層を特定した地震の強震動予測手法』と熊本地震」(予稿集S15-06)を発表し、2016年4月の熊本地震の震源断層評価結果に基づき、「詳細な活断層調査を行っても震源断層の幅の推定は困難であるので、活断層の地震の地震動予測には『手法』(イ)の方法を用いるべきであることを確認した。」と結論づけている。
 したがって、(4)として追記された前半部分について、「震源断層を特定した地震の強震動予測手法(『レシピ』)」を用いて地震動評価を行っている場合には、検討用地震に対応する地震観測記録に基づいて震源断層が適切に推定されているケースでは(ア)を用い、地震観測記録がないケースでは(イ)を用いることとし、レシピに示された関係式及び手順に基づいて行われていることに留意する必要がある。」と修正すべきである。

<考え方>
➢御指摘の規定は、事業者が地震動評価においてレシピを引用している場合には、その手順等に基づいて評価を行っているか、審査において留意して確認すること等について規定しているものであり、レシピの中で示される手法の適用条件に関して規定する必要はないと考えます。
➢なお、新規制基準では、震源として考慮する活断層の評価に当たって詳細な調査を求めていることから、事業者が、過去の地震記録や調査結果などの諸知見を吟味・判断して震源断層モデルを設定する場合に用いる(ア)法で評価していることを審査において確認しています。
 以上より、原案のとおりとします。

(「考え方」への批判)
 島崎邦彦元原子力規制委員長代理による入倉式批判や熊本地震に基づくレシピの検証などで、地震観測記録等から震源断層を推定できない場合には、レシピ(イ)を使うべきで、レシピ(ア)を使うべきではないと地震学界で主張されているにもかかわらず、原子力規制庁の「考え方」は、「レシピの中で示される手法の適用条件に関して規定する必要はない」と断言し、事業者が「レシピ(イ)を用いず、レシピ(ア)を用いた」ことを「審査において確認」しながら、その妥当性については審査の対象外だと明言したことは、極めて重大である。

 地震調査研究推進本部のレシピでは、レシピ(ア)とレシピ(イ)が明確に区別されており、検討用地震に関する地震観測記録によって地下の実際のすべり分布が分からなければ震源断層の広がりを正確に推定することなどできず、将来活動しうる震源断層の広がりを推定することも、その不確かさを判断することもできない。にもかかわらず、検討用地震に関する地震観測記録がない中で、事業者がどのようにして「過去の地震記録や調査結果などの諸知見を吟味・判断して震源断層をモデルを設定(震源断層を推定)」できるのか、という根本問題から目を背けている。つまり、原子力規制庁は、レシピ(ア)が適用できるかどうかの判断を回避している。レシピ(ア)の適用ありきであって、その妥当性に疑問を差し挟むことは許さないという姿勢を明確にしたと言える。これでは、地震動評価について審査しないと言うに等しい。

<意見87>———————
 新旧対照表pp.20-21の「(解説)」は「3.3.3 不確かさの考慮」の(2)の詳細項目①と②をほぼそのまま転記し、①に「なお、アスペリティの応力降下量( 短周期レベル) については、新潟県中越沖地震で得られた知見を踏まえた不確かさが考慮されていることに留意する必要がある。」と追記したものである。
 しかし、新潟県中越沖地震で得られた知見から「アスペリティの応力降下量( 短周期レベル)」を1.5倍にする場合、応力降下量を1.5倍にし、すべりの重ね合わせ数を1/1.5にして短周期レベルも1.5倍にする場合は妥当だが、統計的グリーン関数法で要素地震の応力降下量を最初から1.5倍にする方法では短周期レベルは「1.5の2/3乗」倍に留まり、1.5倍にならない。この誤りを避けるには、「アスペリティの応力降下量および短周期レベル」と書き換えるべきである。
 また、2012年8月17日に原子力安全・保安院が出した「活断層による地震動評価の不確かさの考慮について(考え方の整理)」では「応力降下量について1.5倍又は20MPaの大きい方※」とされ、※印の注意書には「※断層のずれのタイプや地域特性について十分な検討が行われた場合、これ以外の数値を用いて評価しても良い。」とされている。
 さらに、新潟県中越沖地震で得られた知見は震源特性が1.5倍も大きかったという知見であり、これまでの審査でも、アスペリティだけでなく震源断層の平均についても応力降下量と短周期レベルは1.5倍にされている。
 結論的には、「アスペリティの応力降下量( 短周期レベル)」を「応力降下量※および短周期レベル」に書き換え、「※アスペリティの応力降下量については1.5倍又は20MPaの大きい方」と注記すべきである。

<考え方>
➢改正案における「なお、アスペリティの応力降下量(短周期レベル)については、新潟県中越沖地震で得られた知見を踏まえた不確かさが考慮されていることに留意する必要がある。」との記載は、改正前の3.3.2(4)①2)のアスペリティの応力降下量(短周期レベル)に関する記載について、より適切な位置に記載を移動し、表現を適正化したものです。
 この記載は、短周期領域における加速度震源スペクトルのレベル(短周期レベル)を保守的に設定する観点で、アスペリティの応力降下量の不確かさ考慮について、応力降下量に一定の倍率を考慮していることを確認していることを表したものであり、アスペリティの応力降下量と短周期レベルの両方について別々に不確かさを考慮しなければならないという意味ではありません。
➢御意見のうち「アスペリティの応力降下量については1.5倍又は20MPaの大きい方」については、新規制基準では、応力降下量の不確かさについて定量的な要求はしておらず、審査において、施設ごとに必要に応じて断層のずれのタイプや地域特性について十分な検討が行われた上で、不確かさが考慮されていることを確認しています。
以上より、原案のとおりとします。

(「考え方」への批判)
「アスペリティの応力降下量と短周期レベルの両方について別々に不確かさを考慮しなければならないという意味ではありません」としているが、これそのものが、原子力規制庁の断層モデルに関する無知をさらけ出すものだと言える。断層モデルによる地震動評価法における「アスペリティの応力降下量と短周期レベル」の関係については、旧原子力安全委員会の地震動解析技術等作業会合(平成21年4月23日)の資料第1−1号「波形合成法の基本的考え方」(東京電力株式会社)で詳しく解説されている。この知識を前提として、意見を述べたところ、恐ろしいことに、原子力規制庁には、この知識がなかったことが判明した。

 その知識を要約すると次のようになる。
 ①手法A:基本モデルと同じ要素地震波を用い,応力降下量補正係数Cと重ね合わせ数nを新たに設定する。この考え方は,通常の入倉法におけるΔσのCによる補正と類似しており,経験的グリーン関数法と統計的グリーン関数法のいずれにも適用できる。
⇒応力降下量補正係数C’=1.5C,すべり量の分割数n’D=nD/1.5(長さL方向と幅W方向の分割数nLとnWは同じ)と設定すると、応力降下量は1.5倍、短周期レベルAも1.5倍になる。
 ②手法B:要素地震の応力降下量Δσeを基本モデルから変更し,基本モデルと同じCとnを用いる。この考え方は,要素地震波を人工的に作成する統計的グリーン関数法にのみ適用できる。
⇒要素地震の応力降下量をΔσ’e=1.5Δσとし,CとnDは同じ(nLとnWも同じ)と設定すると、応力降下量は1.5倍だが、短周期レベルAは「1.5の2/3乗」倍になり、1.5倍より小さくなる。

 この評価に基づき、翌日の第19回耐震安全性評価特別委員会(2009.04.24)で報告され、入倉特別委員会委員長が次のようにまとめている。
「・・・バックチェックにおいて中越沖地震の反映の一つとして、短周期レベルを基本モデルに対する1.5倍をばらつきとして検討すべきというのが保安院の指示にあったわけですけれども、それについて事業者の方法について必ずしも明確ではないのではないか。実際に1.5倍というものはどういうものかについて、必ずしも方法論が正確に行われているかどうか、ご意見がございましたので、作業会合において特にこの論点に絞ってご説明いただきました。

 先ほどご説明がありましたように、もちろん、こういう計算法にはいろんな手法があるわけですが、典型的な手法としては2つに分けることが出来る。1つは応力降下量、実際には実効応力というべきなんですけれども、実効応力を1.5倍にすると同時に短周期を1.5倍にするという、そういう手法で基本モデルに対する基準地震動の計算に対して、短周期レベルが1.5倍になるような計算をする、そういう方法についてご説明いただいたのと、もう一つの方法は実効応力は1.5倍になるけれども、実効応力を1.5倍ということを拘束条件として計算すると、短周期レベルは必ずしも1.5倍にならない。大体の値としては1.3倍程度という少し高周波というか、短周期が足りないような計算法もある。
 そういう2つの方法が混在して説明されている可能性があるということで、これまでに例えば柏崎刈羽であるとか、北陸電力の説明の中で北陸電力に関しては混在があったわけですけれども、東京電力に関しては両方とも1.5倍になるということ、そういうことが分かりました。そういう意味で、保安院の指示に従って基準地震動を評価する場合には、短周期レベルが1.5倍になるような計算法をとるべきではないかということが、昨日の作業会合では確認されたわけです。」(速記録pp.15-16
 原子力規制庁は、このように重要な応力降下量と短周期レベルの関係について無知であることを恥じることなく、「新規制基準では、応力降下量の不確かさについて定量的な要求はしておらず、審査において・・・確認しています」としていることも重大である。そもそも、新潟中越沖地震が起こらなければ「応力降下量(短周期レベル)1.5倍」という不確かさの定量的な要求は出てこなかったのであり、それを考慮しなくてもよいというのであれば、その根拠を「考え方」で示すべきである。

<意見66>———————
 新旧対照表pp.21の「(解説)」の「(2)必要に応じた不確かさの組み合わせによる適切な考慮」は「3.3.3 不確かさの考慮」の(2)の詳細項目②をそのまま転記し、「②地震動評価においては、震源特性( 震源モデル) 、伝播特性( 地殻・上部マントル構造) 、サイト特性( 深部・浅部地下構造) における各種の不確かさが含まれるため、これらの不確かさ要因を偶然的不確かさと認識論的不確かさに分類して、分析が適切になされていることに留意する必要がある。」としているが、偶然的不確かさについては「破壊開始点」のバラツキぐらいしか考慮されておらず、地震動そのものの確率論的バラツキがこれまで一貫して全く考慮されていない。わざわざ不確かさを偶然的不確かさと認識論的不確かさに分類したにもかかわらず、「地震動そのものの確率論的バラツキ」が偶然的不確かさから除外されている。このようにするのであれば、その根拠を解説で明記すべきである。
 他方、「4. 震源を特定せず策定する地震動」で導入された標準スペクトルの策定時には、M5~M6.5の地震観測記録の基盤波の平均に対して標準偏差の3倍のバラツキが考慮されており、不整合であり、ご都合主義である。「3. 敷地ごとに震源を特定して策定する地震動」における検討用地震に対しても、地震学界で常識的に認められている地震動の1標準偏差で「倍半分」程度のバラツキを考慮し、平均像として求められた現在の基準地震動に対して2倍のばらつきを考慮すべきである。

<考え方>
➢御指摘の「地震動そのものの確率論的バラツキ」の意味するところが必ずしも明らかではありませんが、不確かさに関する扱いについてはNo.19の御意見に対する考え方を参照してください。
➢「震源を特定せず策定する地震動」に関する御指摘について、標準応答スペクトルは、震源を特定せず策定する地震動のうち全国共通に考慮すべき地震動として策定したものです。その策定に当たっては、地域的な特徴を極力低減させて普遍的な地震動レベルを設定するために、地表に明瞭な痕跡が見られない地震(Mw6.5程度未満)として、推定誤差等を考慮し、Mw5.0~6.6の震源近傍の多数の地震観測記録(89地震)を統計処理しています。

➢したがって、各種調査により評価対象となる断層を特定するなどし、震源断層モデル等を設定した上で策定する「敷地ごとに震源を特定して策定する地震動」とは、不確かさの扱いを含め、地震動評価の手法が異なることから、「不整合であり、ご都合主義である」との御指摘は当たりません。
➢標準応答スペクトルの策定の詳細については、「「震源を特定せず策定する地震動に関する検討チーム」の検討結果について-全国共通に考慮すべき「震源を特定せず策定する地震動」に関する検討報告書-」(令和元年8月28日第24回原子力規制委員会資料3)を参照ください。
 以上より、原案のとおりとします。

(「考え方」への批判)
 原子力規制庁は、「『地震動そのものの確率論的バラツキ』の意味するところが必ずしも明らかではありません」としているが、地震動を確率論的に評価する場合には、同一の地震と見なす地震の母集団を定め、その地震観測記録を地震基盤などの統一的に評価可能な地震波に変換した上で、その地震波集合を母集団とみなして地震動の偶然変動を抽出することになる。この偶然変動を一般にもわかりやすい表現で「バラツキ」と称するのはごく普通のことである。それを明らかでないというのは、偶然変動そのものを理解していないからである。参照すべきという「No.19の御意見に対する考え方」(下記参照)は、断層長さやマグニチュードなど震源断層モデルのパラメータ推定における精度に関するものであり、地震動そのものの偶然変動とは別の次元のものである。これを参照せよということは、確率論的モデルについて全く混乱しているとしか言いようがない。

 また、「『敷地ごとに震源を特定して策定する地震動』とは、不確かさの扱いを含め、地震動評価の手法が異なる」というが、「だから地震動の偶然変動を考慮しなくてよい」という理由にはならない。震源断層モデルのパラメータにおける不確かさの扱いを含めて評価手法が異なっても、各評価手法によって算出される地震動はそれぞれの震源断層モデル・パラメータに基づく平均的な地震動評価にすぎず、実際には、それを中心にして地震動は偶然変動するのであり、その偶然変動はいずれの地震においてもほぼ「倍半分」のバラツキをもっている。たとえば、新潟県中越沖地震を教訓とした応力降下量(短周期レベル)1.5倍の震源パラメータに基づく地震動評価結果も、その仮定の下での平均的な地震動評価結果に過ぎず、実際の地震観測記録を見れば一目瞭然だが、平均に対して「倍半分」がほぼ「±1標準偏差」となってばらついている。
 標準応答スペクトルの元になった地震波は「Mw5.0~6.6の震源近傍の多数の地震観測記録(89地震)」だが、これを単一の母集団と見なして「平均+3標準偏差」となるように標準応答スペクトルを定めたものであり、母集団の設定に疑問は残るが、地震動の偶然変動を考慮したものと評価できる。にもかかわらず、「敷地ごとに震源を特定して策定する地震動」では、このような偶然変動を考慮する必要はないと主張するのは、まさに「不整合であり、ご都合主義である」と言える。原子力規制庁は、それを理解できないほど知識水準が落ちてしまったのであろうか。

<No.19の御意見に対する考え方>
➢No.1の御意見に対する考え方のとおり、今回の改正は、審査実績等を踏まえた表現の改善等を行うものです。
➢改正前の基準地震動審査ガイド3.2.3(2)の規定に係る改正については、複雑な自然現象の観測データにばらつきが存在するのは当然であり、経験式とは、観測データに基づいて複数の物理量等の相関を式として表現するものであることに注意して審査を行うべきとする、従来からの趣旨をより明確に記述するためのものであり、審査の内容を変更するものではありません。
➢なお、基準地震動審査ガイドにおいては、従来から、地震動評価に大きな影響を及ぼす支配的なパラメータの不確かさを十分に考慮することにより、保守的な地震動評価が行われていることを審査官等が確認する趣旨を規定しています。一方で、当該不確かさの考慮に更に経験式の元となった観測データのばらつきを上乗せすることは、震源断層を特定した地震の強震動予測手法(「レシピ」)で示された方法ではなく、かつそのような方法に係る科学的・技術的知見を承知していないため、元々規定していません。
➢審査ガイドの目的に関する御指摘については、No.8の御意見に対する考え方を参照ください。
 以上より、原案のとおりとします。

<No.1の御意見に対する考え方>
➢今回の改正は、審査実績等を踏まえた表現の改善等を行うものであり、規制要求や審査の緩和を行うものではありません。
➢原子力規制委員会は、令和2年度から、審査実績を踏まえた規制基準等の記載の具体化・表現の改善に計画的に取り組んでおり、今回の改正もその一環です。
➢なお、審査ガイド(原子力規制委員会が作成するガイドのうち、核原料物質、核燃料物質及び原子炉の規制に関する法律に基づく基準規則等に関する審査に用いるためのもの。)は、基準規則やその解釈等のように規制要求を定めるものではありません。
 以上より、原案のとおりとします。

<No.8の御意見に対する考え方>
➢基準地震動及び耐震設計方針に係る審査ガイド(以下「基準地震動審査ガイド」という。)は、従前から「基準地震動の妥当性を厳格に確認するための方法の例を示した手引」として策定しているものです。
➢審査ガイドの位置付けについては、「審査ガイドの位置付け」(令和3年6月16 日原子力規制委員会了承)を参照ください。
 以上より、原案のとおりとします。

「基準地震動及び耐震設計方針に係る審査ガイド等の一部改正(案)」への意見募集に意見を3件提出しました

下記の「基準地震動及び耐震設計方針に係る審査ガイド等の一部改正(案)」への意見募集に意見を3件提出しました。

基準地震動及び耐震設計方針に係る審査ガイド等の一部改正について(案)に対する意見募集について

受付開始日時    2022年2月25日0時0分

受付締切日時    2022年3月27日0時0分

————–<意見1>————————————-

新旧対照表pp.18-19の「(解説)」は「3.3.2 断層モデルを用いた手法による地震動評価」の(4)の詳細項目①~③をほぼそのまま転記し、「(4)「震源断層を特定した地震の強震動予測手法(『レシピ』)」を用いて地震動評価を行っている場合には、レシピに示された関係式及び手順に基づいて行われていることに留意する必要がある。また、レシピに示されていない方法で評価を行っている場合には、その方法が十分な科学的根拠に基づいていることに留意する必要がある。」と追記したものである。

このレシピには「(ア) 過去の地震記録や調査結果などの諸知見を吟味・判断して震源断層モデルを設定する場合」と「(イ) 長期評価された地表の活断層長さ等から地震規模を設定し震源断層モデルを設定する場合」の2種類があり、検討用地震に対応する地震観測記録が存在しない場合には、(ア)を用いてはならず、(イ)を用いるべきであることが示されている。たとえば、日本地震学会2016年度秋季大会(2016.10.5)で東京大学地震研究所の纐纈一起教授は、「『震源断層を特定した地震の強震動予測手法』と熊本地震」(予稿集S15-06)を発表し、2016年4月の熊本地震の震源断層評価結果に基づき、「詳細な活断層調査を行っても震源断層の幅の推定は困難であるので、活断層の地震の地震動予測には『手法』(イ)の方法を用いるべきであることを確認した。」と結論づけている。

したがって、(4)として追記された前半部分について、「震源断層を特定した地震の強震動予測手法(『レシピ』)」を用いて地震動評価を行っている場合には、検討用地震に対応する地震観測記録に基づいて震源断層が適切に推定されているケースでは(ア)を用い、地震観測記録がないケースでは(イ)を用いることとし、レシピに示された関係式及び手順に基づいて行われていることに留意する必要がある。」と修正すべきである。

————–<意見2>————————————-

新旧対照表pp.20-21の「(解説)」は「3.3.3 不確かさの考慮」の(2)の詳細項目①と②をほぼそのまま転記し、①に「なお、アスペリティの応力降下量( 短周期レベル) については、新潟県中越沖地震で得られた知見を踏まえた不確かさが考慮されていることに留意する必要がある。」と追記したものである。

しかし、新潟県中越沖地震で得られた知見から「アスペリティの応力降下量( 短周期レベル)」を1.5倍にする場合、応力降下量を1.5倍にし、すべりの重ね合わせ数を1/1.5にして短周期レベルも1.5倍にする場合は妥当だが、統計的グリーン関数法で要素地震の応力降下量を最初から1.5倍にする方法では短周期レベルは「1.5の2/3乗」倍に留まり、1.5倍にならない。この誤りを避けるには、「アスペリティの応力降下量および短周期レベル」と書き換えるべきである。

また、2012年8月17日に原子力安全・保安院が出した「活断層による地震動評価の不確かさの考慮について(考え方の整理)」では「応力降下量について1.5倍又は20MPaの大きい方※」とされ、※印の注意書には「※断層のずれのタイプや地域特性について十分な検討が行われた場合、これ以外の数値を用いて評価しても良い。」とされている。

さらに、新潟県中越沖地震で得られた知見は震源特性が1.5倍も大きかったという知見であり、これまでの審査でも、アスペリティだけでなく震源断層の平均についても応力降下量と短周期レベルは1.5倍にされている。

結論的には、「アスペリティの応力降下量( 短周期レベル)」を「応力降下量※および短周期レベル」に書き換え、「※アスペリティの応力降下量については1.5倍又は20MPaの大きい方」と注記すべきである。

————–<意見3>————————————-

新旧対照表pp.21の「(解説)」の「(2)必要に応じた不確かさの組み合わせによる適切な考慮」は「3.3.3 不確かさの考慮」の(2)の詳細項目②をそのまま転記し、「②地震動評価においては、震源特性( 震源モデル) 、伝播特性( 地殻・上部マントル構造) 、サイト特性( 深部・浅部地下構造) における各種の不確かさが含まれるため、これらの不確かさ要因を偶然的不確かさと認識論的不確かさに分類して、分析が適切になされていることに留意する必要がある。」としているが、偶然的不確かさについては「破壊開始点」のバラツキぐらいしか考慮されておらず、地震動そのものの確率論的バラツキがこれまで一貫して全く考慮されていない。わざわざ不確かさを偶然的不確かさと認識論的不確かさに分類したにもかかわらず、「地震動そのものの確率論的バラツキ」が偶然的不確かさから除外されている。このようにするのであれば、その根拠を解説で明記すべきである。

他方、「4. 震源を特定せず策定する地震動」で導入された標準スペクトルの策定時には、M5~M6.5の地震観測記録の基盤波の平均に対して標準偏差の3倍のバラツキが考慮されており、不整合であり、ご都合主義である。「3. 敷地ごとに震源を特定して策定する地震動」における検討用地震に対しても、地震学界で常識的に認められている地震動の1標準偏差で「倍半分」程度のバラツキを考慮し、平均像として求められた現在の基準地震動に対して2倍のばらつきを考慮すべきである。

「エネルギー基本計画(案)に対する意見の募集」に再エネと石炭火力について2つの意見を追加提出しました

「エネルギー基本計画(案)に対する意見の募集」はこちら

————- 意見その6 ——————————————————————————————

・該当箇所:第4章(2)714-718行、734-736行、第5章(1)1029-1033行、第5章(3)1437-1445行、第5章(5)1573-1579行、第5章(11)3227-3233行、第5章(13)3558-3561行

「2050年カーボンニュートラルの実現に向けて、電化の促進、電源の脱炭素化が鍵となる中で、再生可能エネルギーに関しては、S+3Eを大前提に、2050年における主力電源として最優先の原則の下で最大限の導入に取り組む。」(第4章(2)734-736行)

「近年、太陽光発電等の変動型再生可能エネルギーの拡大により、一部地域では再生可能エネルギー電気の出力制御が実施されるなど、再生可能エネルギーの余剰電力が生じることがあるが、このタイミングに需要をシフト(上げDR)することは、需給一体で見たときにエネルギーの使用の合理化につながる。また、猛暑や厳冬、発電設備の計画外停止等が起因となる需給ひっ迫時等においては、節電要請等の需要の削減(下げDR)が有効な対策の一つとなる。他方、現行省エネ法では、夏冬の昼間の電気需要平準化を一律に需要家に求めており、需給状況に応じて柔軟に需要を創出・削減する枠組みとはなっていない。このため、供給サイドの変動に応じて需要を最適化する枠組みの構築を進めていく。」(第5章(3)1437-1445行)

「今後とも、2050年カーボンニュートラル及び 2030年度の温室効果ガス排出削減目標の実現を目指し、エネルギー政策の原則であるS+3Eを大前提に、電力部門の脱炭素化に向け、再生可能エネルギーの主力電源化を徹底し、再生可能エネルギーに最優先の原則で取り組み、国民負担の抑制と地域との共生を図りながら最大限の導入を促す。具体的には、地域と共生する形での適地確保や事業実施、コスト低減、系統制約の克服、規制の合理化、研究開発などを着実に進め、電力システム全体での安定供給を確保しつつ、導入拡大を図っていく。」(第5章(5)1573-1579行)

「これらのネットワーク増強等について効率化を促しつつ、必要な費用を公平に確保していくため、2023年度に託送料金制度を見直し、レベニューキャップ制度を導入するとともに、S+3Eを大前提に再生可能エネルギーに最優先の原則で取り組むという方針の下で、発電側課金制度の円滑な導入に向けて、導入の要否を含めて引き続き検討を進める。なお、託送料金の仕組みを活用し、原子力事故に係る賠償への備えに関する負担や廃炉に関する会計制度措置を講じているところであり、こうした自由化後の公益的課題に対する費用回収の取組も着実に進める。」(第5章(11)3227-3233行)

・意見内容

 太陽光・風力への「接続可能量(電力需給面)」と「送電網接続制限(送電容量面)」を撤廃し、接続工事費負担を抜本的に軽減し、送配電網の管理運営権を電力会社から公平中立な公的機関に完全委譲すべきです。

・理由

再生可能エネルギーを「主力電源として最優先の原則の下で最大限の導入に取り組」(第4章(2)715-716行)むには、再エネの優先接続・優先給電が不可欠です。ところが、優先接続・優先給電を妨害している現在の政策をそのままにしていては不可能です。第1に、電力需給面からの「接続可能量」(電力需給面からの給電制限)を撤廃すべきです。第2に、送電容量面からの「送電網接続制約」(送電容量面からの接続制限)を根本的に緩和する措置が不可欠です。第3に、送電網接続点(一次変電所)までの「電源線設置工事・管理費負担」(送配電網整備費の費用負担)を抜本的に軽減すべきです。

経産省は、「接続可能量」を超える再エネ接続には無制限・無補償の出力制御を導入しておきながら(中3社を含めて2021年4月から全国へ拡大)、再エネの大量導入を実現するためには、「需要側において、時期・時間に応じて再エネ余剰電力が発生している時に需要をシフト(上げDR)し、需給逼迫時等に需要を抑制(下げDR)することが重要」であり、「今後、省エネ法において、これらを制度的に促すための枠組みを検討していく」としていますが、そんな小手先の施策ではなく、経産省の導入した「接続可能量」をはじめ、再エネ普及を妨げるシステムをすべて見直し、撤廃し、再エネ最優先で最大限に導入可能なシステムへと根本的に造り替え、再エネ優先接続・優先給電へ転換すべきです。

そのためには、欧州連合EU等で実際に行われているように、送電網の管理・運営権を公平・中立な全国統一の送電網管理機関に委譲し、電力会社による送配電網支配を断ち切るべきです。その上で、地域間連系線を増強して再エネ最優先で全面開放すべきです。そうするだけで再エネの出力制御は不要になります。送電網増強費は高速道路網と同様に全国負担とし、再エネ導入を進める新電力に新たな負担となる発電側基本料金の2023年度導入は中止すべきです。

電力会社による電力市場支配力の源泉は送配電網の支配にあります。2016年4月の小売電力自由化以降も、この支配力が依然として強すぎるため、2020年4月の発送電分離を機に「総括原価方式による電気料金規制制度」を廃止する予定でしたが、電力会社の支配力が弱まるまで存続させることになっています。再エネの優先接続・優先給電を妨げる最大の原因は電力会社による送配電網支配を通じた電力市場介入です。送配電網の管理・運営権を電力会社から剥奪しない限り、再エネの最優先・最大限の導入は妨害され続けるでしょう。

————- 意見その7 ——————————————————————————————

・該当箇所:第5章(1)1155-1162行、(7)2505-2514行、(13)3582-3585行

「(d)石炭 現時点の技術・制度を前提とすれば、化石燃料の中で最もCO2排出量が大きいが、調達に係る地政学リスクが最も低く、熱量当たりの単価も低廉であることに加え、保管が容易であることから、現状において安定供給性や経済性に優れた重要なエネルギー源である。今後、石炭火力は、再生可能エネルギーを最大限導入する中で、調整電源としての役割が期待されるが、電源構成における比率は、安定供給の確保を大前提に低減させる。」((1)1155-1162行)

「具体的には、非効率な火力、特に非効率な石炭火力については、省エネ法の規制強化により最新鋭のUSC(超々臨界)並みの発電効率(事業者単位)をベンチマーク目標として設定する。その際、アンモニア等について、発電効率の算定時に混焼分の控除を認めることで、脱炭素化に向けた技術導入の促進につなげていく。こうした規制的措置に加え、容量市場については、2025年度オークションから、一定の稼働率を超える非効率な石炭火力発電に対して、容量市場からの受取額を減額する措置を導入することで、非効率石炭火力のフェードアウトを着実に推進していく。また、脱炭素化を見据えつつ、次世代の高効率石炭火力発電技術である石炭ガス化複合発電(IGCC)や石炭ガス化燃料電池複合発電(IGFC)などの技術開発等を推進する。」((7)2505-2514行)

「火力発電については、再生可能エネルギーの更なる最大限の導入に取り組む中で、当面は引き続き主要な供給力及び再生可能エネルギーの変動性を補う調整力として活用しつつ、非化石電源の導入状況を踏まえながら、安定供給確保を大前提に、非効率石炭のフェードアウトといった取組を進め、火力発電の比率をできる限り引き下げる。その際、エネルギー安全保障の観点から、天然ガスや石炭を中心に適切な火力ポートフォリオを維持し、電源構成ではLNG火力は20%程度、石炭火力は19%程度、石油火力等は最後の砦として必要最小限の2%程度を見込む。更に、今後の重要なエネルギー源として期待される水素・アンモニアの社会実装を加速させるため、電源構成において、新たに水素・アンモニアによる発電を1%程度見込む。」((13)3582-3585行)

・意見内容

 石炭火力へのバイオマス・アンモニア混焼やCCSは、石炭火力の延命につながり、CO2削減に寄与せず、化石資源採掘を促します。2050年より早い廃止を掲げ、石炭火力を速やかにフェードアウトさせる計画を具体化すべきです。

・理由

発電コスト検証ワーキンググループによる「基本政策分科会に対する発電コスト検証に関する報告」(2021年9月)では、2030年新設プラントの発電コスト比較で、太陽光(事業用、住宅)と風力は8~9円台で、13円台の石炭火力より安いという結果が示され、CO2の最大の発生源である石炭火力を「安定供給性や経済性に優れた重要なエネルギー源」(1158-1159行)と位置づける根拠はすでに失われています。CO2排出量を減らすためのバイオマス混焼やアンモニア混焼、さらにCO2分離回収・貯留CCS(Carbon dioxide Capture and Storage)は石炭火力の経済性を一層悪化させるだけであり、石炭火力の延命にしかなりません。石炭火力を「火力電源のうち最優先で速やかにフェードアウトさせるべき電源」と位置づけ直し、CCS開発費をそのために使うべきです。

石炭火力のバイオマス混焼やアンモニア混焼などでは、CO2排出量をLNG火力程度へ引き下げるだけでも50%以上の混焼が必要ですが、アンモニア混焼率を引上げようと燃焼空気を増やすと、有害な窒素酸化物NOxが大量に発生するため、20%混焼が限度だとされています。実証試験が計画されているアンモニア20%混焼では、石炭火力の運転時CO2発生量は864g-CO2/kWhから20%減っても691g-CO2/kWhに留まり、石油火力と同等で、LNG火力(GTCC)の2.3倍から1.8倍となるだけで、ほとんど変わりません。石炭火力のCO2削減策は「早期廃止」以外にないのです。

CCSによる発電単価上昇は、資源エネルギー庁評価でも、石炭火力で7~9円/kWh、LNG火力で3~4円/kWhと高く、国内のCO2貯留地は制約されているため、さらに、船舶輸送費が加わって4~5割増になります。CCSコスト削減のために、分離・回収したCO2を「油田回復EORやガス田回復EGR用に売却する方策」や「自らEORやEGRに用いて産出した石油やガスを売却する方策」も提案されていますが、関西電力子会社「KANSOテクノス」の実績評価では、貯留コストを回収できる程度に留まります(KANSOテクノス成果発表会,2007.12.17)。また、それは化石資源採掘を助長するものであり、CO2削減方針に反します。CCSやEOR・EGRは、CO2貯留・注入後のCO2漏洩の恐れがあり、シェールガス生産時に問題となった地震頻発の可能性もあります。

CCS、EOR、EGR、バイオマス混焼、アンモニア混焼などで石炭火力を延命させるのではなく、大幅なエネルギー消費削減と最優先かつ最大限の再エネ拡大で早期に石炭火力を廃止すべきです。

ところが、2019年度実績から2030年度に向けた経産省の「石炭フェードアウト計画(2030年度見通し)」では、大手電力の非効率な石炭火力(Sub-C、SC)が39基から20基程度へ減るものの、効率的な石炭火力(USC、IGCCその他)は30基から35基へ増え、その他事業者との合計では、石炭火力149基4,791万kWから145基4,800万kWでほとんど変わりません。にもかかわらず、発電電力量が31%から26%へ減っているのは、効率的な石炭火力の設備利用率を67%に維持しながら、非効率な石炭火力の設備利用率を38%程度へ下げて、減ったように見せかけただけです。これではフェードアウト計画とは言えません。今回のエネ基本計画(案)では石炭火力はさらに発電電力量の19%に下がり、総発電電力量も9300~9400億kWhへ下がっていますので、石炭火力は1,780億kWh程度へ減らさねばなりません。そのためには、さらに1,500万kW程度減らす必要があります。

他方、「火力は45年運転で廃止」を仮定した経産省の「今後10年間の火力供給力(調整力)の増減見通し」では、2021年以降10年間で、大手電力の石炭火力は686万kW新設、499万kW廃止で、合計187万kW増と試算しており、石炭フェードアウト計画の大手電力277万kW減(新設・廃止でUSC他433万kW増、SC他710万kW減)にするには、大手電力だけで「運転45年未満」の石炭火力で464万kW以上の追加廃止が必要になります。さらに、「石炭火力19%」にするには、その他事業者を含めて、さらに、1,500万kW以上の削減が不可欠です。高効率であっても石炭火力の新設は中止すべきであり、既存石炭火力についても2022~2038年に石炭火力をフェードアウトさせる欧州諸国(仏2022年、英2024年9月末、伊2025年、スペイン2030年、独2038年)を見習って、2050年よりできるだけ早くフェードアウトさせる計画を打ち出し、具体的に進めるべきです。

非効率石炭火力を38%の低稼働率でも維持し続ける理由は、原発停止時のカバー電源用、また、夏冬の電力不足対応用と考えられますが、再エネを最優先で最大限導入し、原発も閉鎖すれば、その必要はなくなります。他方、容量市場による「4年後の容量確保契約」とバイオマス混焼による「再エネFIT買取期間20年の制約」が石炭火力延命に利用されている可能性もあります。容量市場は廃止すべきであり、このような延命のための利用は言語道断です。

「エネルギー基本計画(案)に対する意見の募集」に5つの意見を提出しました

「エネルギー基本計画(案)に対する意見の募集」はこちら

————- 意見その1 ——————————————————————————————
・該当箇所:第5章(6)-②2191-2199行
「安全かつ円滑に廃止措置を進めていく上では、廃棄物の処理の最適化も必要である。海外事業者の豊富な実績や技術を国内作業に活かすことが重要であり、国内において適切かつ合理的な方法による処理が困難な大型機器については、関連する国際条約や再利用に係る海外の実例等を踏まえ、相手国の同意を前提に有用資源として安全に再利用される等の一定の基準を満たす場合に限り例外的に輸出することが可能となるよう、必要な輸出規制の見直しを進める。また、クリアランス物については、廃止措置の円滑化や資源の有効活用の観点から、更なる再利用先の拡大を推進するとともに、今後のフリーリリースを見据え、クリアランス制度の社会定着に向けた取組を進める。」
・意見内容
 廃止措置に伴う放射性廃棄物の輸出・国外処分は国内外法で禁止されており、例外的にも輸出すべきではない。クリアランス物の利用は業界内に限り、トレーサビリティ確保を徹底させ、拡大すべきではない。
・理由
廃止措置(解体撤去)に伴う放射性廃棄物については、国内処分が原則であり、国外への輸出および国外での処分は国際法(有害廃棄物の国境を越える移動及びその処分の規制に関するバーゼル条約など)および国内法(外国為替及び外国貿易法など)で禁止されている。これを「例外的に輸出することを可能」とするのは法令違反であり、また、放射性廃棄物処分のあり方について国際的に範を示すべき「原子力先進国」にとって、他国への放射性廃棄物押しつけによる処分は「恥さらし」でもある。さらに、「法改正なしの通達で対応」(2021/9/19朝日新聞)するのは、国会での公の議論を回避して秘密裏に実施することを画策するものであり、国民への裏切り行為ですらある。
「クリアランスレベル以下の放射性廃棄物」は、放射性廃棄物として扱う必要がないとされ、一般市場での再利用が可能とされてはいるが、法制度導入時には「クリアランス制度が定着するまでの間、事業者が自主的に搬出ルートを確認し、業界内で再利用」(2005 年 10 月第 163 国会での政府説明)することに限定され、「制度定着」の判断は「国が適切な時期に広く意見を伺いつつ」行うとの答弁が行われ、現在も状況は変わっていない。環境省も当時、「(クリアランスされた廃棄物を廃棄物処理法と)同じ廃棄物として扱っていいかというと、もしもの、もしもの、もしもの場合が出てきた場合、しっかりどこに行ってしまったのか判断しなければいけない。トレーサビリティをしっかり持たないといけないと考えております。」(2010 年 4 月 9 日衆議院文部科学委員会環境省政務官)と答弁しており、実際にトレーサビリティ確保のため 2016 年度からクリアランス廃棄物情報システムが運用されている。クリアランス物は、検認を厳格にして構内利用に限り、トレーサビリティ確保を徹底すべきであり、フリーリリースにすべきではない。
原発の廃止措置は「即時解体撤去」ではなく、100年程度の安全貯蔵期間をとるべきである。というのも、福島第一原発や使用済核燃料とは異なり、廃止措置対象の原子炉建屋内の主な汚染源は誘導放射能のコバルト60(半減期5.27年)であり、100年経てば100万分の2程度へ下がる。現に、保管中の蒸気発生器の汚染レベルは減衰が進んでいる。放射線管理区域の「即時解体撤去」をやめればクリアランスそのものが不要になる。

————- 意見その2 ——————————————————————————————
・該当箇所:第1章(2) 283-289行
「汚染水からトリチウム以外の核種を環境放出の際の規制基準以下まで浄化処理したALPS処理水については、2021年4月に公表した「東京電力ホールディングス株式会社福島第一原子力発電所における多核種除去設備等処理水の処分に関する基本方針」(廃炉・汚染水・処理水対策関係閣僚等会議決定)を踏まえ、厳格な安全性の担保や政府一丸となって行う風評対策の徹底を前提に、東京電力が原子力規制委員会による認可を得た上で、2年程度後を目途に、福島第一原子力発電所において海洋放出を行う。」
・意見内容
 東京電力と政府は「ALPS処理水は関係者の理解なしにはいかなる処分もしない」、「希釈しない、排水せずタンクに貯留する」との約束を守り、トリチウム汚染水は「海洋放出」せず、タンク貯蔵を続けるべきです。
・理由
トリチウム汚染水(政府が「ALPS処理水」と称しているもの)の海洋放出は、(1)「トリチウム濃度が1,500Bq/Lを超えるサブドレン及び地下水ドレンは、希釈しない、排水せずタンクに貯留する」との運用方針に違反します。また、(2)「ALPS処理水は関係者の理解なしにはいかなる処分もしない」との東電・国の約束に違反します。
とくに、(1)の「サブドレン及び地下水ドレンの運用方針」は、東電・政府からの強い要請を受け、県漁連など福島県側が苦渋の決断で、2015年9月に受け入れたものです。当時、農林水産物に含まれるセシウムなどの放射能レベルは、ほとんどが基準値の100Bq/kgを下回り、明るさが見え始めたときでした。それでも、原発建屋周辺から汲上げた地下水を放出するわけですから、たとえ運用目標の濃度未満のもののみ放出するとしても、影響は免れません。強い反対の声があったものの、「建屋への大量の汚染水流入を止めるためには仕方がない」と泣く泣く、苦渋の決断で受け入れたのです。この運用方針に従って、トリチウム濃度が1,500Bq/Lを超える6.5万トンの地下水ドレン水がタンクに貯められています。125万トンの貯留量の5%強を占めます。ところが、今年7月26日に脱原発福島県民会議など8団体が「トリチウム汚染水海洋放出方針決定」の撤回を求めて行った対政府交渉で、経産省は「地下水ドレンはALPS処理水とは別物」と主張し、「タンク貯蔵水をALPSで処理した後は運用方針に従う必要はなく、希釈・排出できる」と言い張り、(1)の運用方針を骨抜きにしたのです。これは明白な約束違反であり、発言を撤回し、2015年の約束を遵守すべきです。
(2)の約束は、福島県漁業協同組合連合会からの要望書(2015年8月11日)に対する政府の回答(「経済産業大臣臨時代理 国務大臣 高市早苗(当時総務大臣)」名で2015年8月22日付)および東京電力の回答(同年8月25日付)ですが、福島県では、県漁連をはじめ農林水産業者が一斉に反対の声を上げ、36市町村議会が反対、撤回、懸念の意見書を採択していて、全漁連も「絶対反対」を貫いています。「関係者の理解」など得られていません。これについても、経産省は7月26日の交渉で「放出までの期間を利用して理解を得る」と主張し、約束違反であることを認めず、「理解が得られていなくても希釈・海洋放出方針は決定できる」、「放出までに理解を得るよう努めるが、理解が得られなくても放出できる」との中身にすり替えたのです。その後8月24日と25日に出された政府の「取りまとめ」と東電の「検討状況」には、どこにも「放出までの期間を利用して理解を得る」との文言はなく、その代わりに「農林漁業者等の生産者に対する説明会や意見交換を重ね、今回の決定の背景や検討の経緯等への理解を深めていただく」としています。「理解を得る」とは「同意を得る」ことであり、同意権や拒否権に通じます。約束違反に至った「背景や経緯」について知る=「理解を深める」こととは全く違います。福島県民からの公開討論会開催要請を拒み、「関係者の同意なしには処分しない」との約束を「なぜ破るのか」、「緊急避難的に約束を破らねばならない切迫した状況があるのか」について一切説明せず(できず)、「決定の背景や検討の経緯等」のアリバイづくりのための「説明」でお茶を濁そうというのは論外です。一方的な約束違反と押しつけは断じて許せません。
「ALPS処理水の海洋放出」方針を撤回することなくしては、「被災された方々の心の痛みにしっかりと向き合い、寄り添」(213行)うことなどできないはずです。

————- 意見その3 ——————————————————————————————
・該当箇所:第5章(1) 1096-1100行,第5章(13)3550-3552行および3575-3581行
「原子力は、燃料投入量に対するエネルギー出力が圧倒的に大きく、数年にわたって国内保有燃料だけで生産が維持できる低炭素の準国産エネルギー源として、優れた安定供給性と効率性を有しており、運転コストが低廉で変動も少なく、運転時には温室効果ガスの排出もないことから、安全性の確保を大前提に、長期的なエネルギー需給構造の安定性に寄与する重要なベースロード電源である。」
「このエネルギー需要を満たす一次エネルギー供給は、430百万kl程度を見込み、その内訳は、石油等を31%程度、再生可能エネルギーを22~23%程度、天然ガスを18%程度、石炭を19%程度、原子力を9~10%程度、水素・アンモニアを1%程度となる。」
「原子力発電については、CO2の排出削減に貢献する電源として、いかなる事情よりも安全性を全てに優先させ、国民の懸念の解消に全力を挙げる前提の下、原子力発電所の安全性については、原子力規制委員会の専門的な判断に委ね、原子力規制委員会により世界で最も厳しい水準の規制基準に適合すると認められた場合は、その判断を尊重し原子力発電所の再稼働を進め、国も前面に立ち、立地自治体等関係者の理解と協力を得るよう取り組み、電源構成ではこれまでのエネルギーミックスで示した20~22%程度を見込む。」

・意見内容
 「原発依存度の可能な限りの低減」をめざし、「重要なベースロード電源」との原子力の位置づけをやめ、一次エネルギー供給の9~10%程度、電源構成の20~22%程度の原子力比率を「ゼロ程度」とすべきです。

・理由
福島第一原発炉心溶融事故から10年後の今なお、国民の過半数が原発の再稼働に反対しています。福島第一原発事故は未だ収束しておらず、帰還困難区域を始め放射能汚染は続いており、避難指示解除で住居などの経済的支援が打ち切られた避難者の生活は困窮し続けています。福島県民の「生業」(なりわい)は未だ取り戻せていません。その現実を直視しようとしない政府とは異なり、国民は冷静に原発事故がもたらす厳しい現実を十分に理解し認識しています。二度と福島事故を繰り返さないために、国民の過半数が再稼働に反対し続けているのはそのためです。他方で、関西電力は原発新増設に絡んだ贈収賄事件=「森山案件」で刑事告発されており、株主による民事裁判でも会社の責任が追及されています。東京電力は核物質防護能力がなく、施設・機器や安全対策工事の品質管理能力もなく、これらに関する調査報告も根本原因の究明も組織責任の糾明もないズサン極まりないものしか作成できず、電力会社への「国民の信頼」は完全に失われています。このような状況では、たとえ、原子力規制委員会の適合性審査に「合格」したとしても、その再稼働に国民は賛成できません。にもかかわらず、「原子力規制委員会により世界で最も厳しい水準の規制基準に適合すると認められた場合には、その判断を尊重し原子力発電所の再稼働を進める。」(2125-2126行)としていますが、国民の声をこそ尊重し、原発の再稼働は中止すべきです。
「可能な限り原発依存度を低減する」(222-223、758-759行)および「原発依存度の可能な限りの低減といった基本的な方針の下で取組を進める。」(3561行)としながら、どこにも「低減」計画は打ち出されず、むしろ、原子力を「重要なベースロード電源」(1100行)と位置づけ、原子力の比率を一次エネルギー供給の「9~10%程度」、電源構成の「20~22%程度」とするのは、明らかに「現在より原発依存度を高める」ものであり、「原発依存度の可能な限りの低減」という基本方針に反します。2030年の原子力の比率を「ゼロ程度」とし、「ゼロ」へ至る筋道を具体的に示すべきです。

————- 意見その4 ——————————————————————————————
・該当箇所:第4章(2)714-718行
「2050年カーボンニュートラルを実現するために、再生可能エネルギーについては、主力電源として最優先の原則の下で最大限の導入に取り組み、水素・CCUSについては、社会実装を進めるとともに、原子力については、国民からの信頼確保に努め、安全性の確保を大前提に、必要な規模を持続的に活用していく。」

・意見内容
 「(原子力の)必要な規模を持続的に活用」は、「原発依存度の可能な限り低減」に反し、撤回すべきです。再エネを「主力電源として最優先の原則の下で最大限の導入に取り組み」原子力ゼロへ進む道筋を示すべきです。

・理由
原発新増設を復活させる動きは15年前にもあり、「原子力ルネッサンス」としてもてはやされました。ブッシュ政権が2005年に成立させた包括的エネルギー法は、先進的原発に審査費用補填、最大80%の融資保証、運開後の減税措置などの優遇策を与え、34基の計画が乱立する「原子力ルネッサンス」と呼ばれるバブルを生み出したのです。ところが、その結末は、4基だけの着工と工期延長によるWH社=東芝の破産でした。続いて、三菱重工業も日立製作所もトルコとイギリスへの原発輸出計画でそれぞれ巨額の損失を被り、撤退しています。
これら国内3大原子力メーカーの原発輸出計画の破綻について、現在の第5次エネルギー計画策定時(2018年7月)にはすでに東芝案件が表面化し、三菱重工業や日立製作所でも顕在化しつつありましたが、原発輸出の失敗については一切触れられませんでした。今回の第六次エネルギー基本計画では当然、当時の安倍首相が前面に出た原発輸出計画の失敗が総括されるべきであり、その深刻な反省の上に、国内での原発新増設やリプレースの技術的・経済的困難さについても明記されるべきです。ところが、何の記述もありません。これでは同じ過ちを国内で繰り返すだけです。
WH社破綻後、米で唯一建設が継続されたヴォーグル3・4号では、2021年11月の竣工予定が再々延期され、建設費も2基で290億ドル(約3兆2千億円)に跳ね上がっています。福島事故以降、原発建設費は1兆円時代に入り、再エネFIT制度なみの原発電気買取制度や税制優遇策等が導入されない限り、国内でも原発新増設・リプレースは不可能です。電力会社やその息のかかった経済諸団体は、再エネFIT制度のようなものを原発にも適用するよう自民党や政府に要請しているようですが、とんでもありません。
発電コスト検証ワーキンググループによる「基本政策分科会に対する発電コスト検証に関する報告」(2021年9月)では、2030年新設プラントの発電コスト比較で、太陽光(事業用、住宅)と風力は原子力より安いという結果が示され、その一端が裏付けられましたが、原子力の発電コストは過小に見積もられています。原子力の試算では適合性審査申請中の国内既設炉と同じ原発を新増設するケースが想定されていて、第3世代のABWRは含まれるものの、APWRは実績がなく、「第3世代+」の米AP1000や仏EPRなどでは建設費が1兆円以上でとても競争力はありませんが、一切触れられていません。
米国の小型モジュール炉SMR開発は次世代原潜・原子力空母用原子炉開発と一体であり、軍民一体の手厚い優遇策(建設用地提供、技術開発・審査費支援、運転支援金支給など)が講じられ、設置場所もアイダホ国立研究所内で秘密が保持されています。福島事故10年後も再稼働反対が過半数の日本で、原発を優遇するこのような措置の導入を国民が許すことは決してありえません。
「必要な規模を持続的に活用」は、「原発新増設やリプレース、さらには小型モジュール炉の開発」を含意していると思われますが、それは「可能な限り原発依存度を低減する」(222-223、758-759行)および「原発依存度の可能な限りの低減といった基本的な方針の下で取組を進める」(3561行)という方針に反します。原子力について「必要な規模を持続的に活用することは不可能であり、原発ゼロをめざす」と明記すべきです。「必要な規模を持続的に活用」するという方針を撤回し、2030年の原子力の比率を「ゼロ程度」とし、「ゼロ」へ至る筋道を具体的に示すべきです。

————- 意見その5 ——————————————————————————————
・該当箇所:第5章(6)2232-2238行および2325-2329行
「最終処分に至るまでの間、使用済燃料を安全に管理することは核燃料サイクルの重要なプロセスであり、使用済燃料の貯蔵能力の拡大へ向けて政府の取組を強化する。あわせて、将来の幅広い選択肢を確保するため、放射性廃棄物の減容化・有害度低減などの技術開発を進める。
 核燃料サイクル政策については、これまでの経緯等も十分に考慮し、関係自治体や国際社会の理解を得つつ、再処理やプルサーマル等を推進するとともに、中長期的な対応の柔軟性を持たせる。」(2232-2238行)
「(b)核燃料サイクル政策の推進
(ア)再処理やプルサーマル等の推進
 我が国は、資源の有効利用、高レベル放射性廃棄物の減容化・有害度低減等の観点から、使用済燃料を再処理し、回収されるプルトニウム等を有効利用する核燃料サイクルの推進を基本的方針としている。」(2325-2329行)

・意見内容
 「使用済燃料を再処理し、回収されるプルトニウム等を有効利用する核燃料サイクルの推進を基本的方針」とする核燃料サイクル政策推進政策を根本的に転換し、「再処理やプルサーマル等の推進」は中止すべきです。

・理由
使用済燃料を再処理して回収されるプルトニウムは、本来、高速増殖炉もんじゅで利用されるはずでしたが、もんじゅはナトリウム漏えい火災事故等で廃炉になり、仏ASTRID計画も2019年で仏予算が打ち切られ、日仏共同研究も継続できない状態で、高速「増殖」炉も高速(超ウラン元素焼却)炉も将来の見通しは全くありません。国際的に再処理・プルトニウム利用からの撤回が鮮明になる中、日本では「高速増殖炉実用化までのつなぎ」に過ぎなかったプルサーマルが「本命」であるかのように見なされていますが、余剰プルトニウム問題で原子力委員会が「我が国におけるプルトニウム利用に関する基本的な考え方」を改定(2018.7.31)し、プルトニウムが減らない限り、六ヶ所再処理工場を操業させない方針へ転換しています。つまり、国内でも、核燃料サイクルはすでに破綻し、使用済燃料の行き先に困った電力会社と政府が再処理を口実に使用済燃料を生み出し続け、使用済燃料の「中間貯蔵」を進めているにすぎません。「再処理がなくなれば原発を動かせなくなる」ことを案じて、動かなくなった核燃料サイクルが動いているかのように国民を騙し続けているのです。このような茶番劇はもうやめにして、再処理・プルトニウム利用政策を中止し、プルサーマルも中止し、核燃料サイクル政策を抜本的に転換すべきです。
むつ市に計画中の使用済燃料中間貯蔵施設だけでなく、原発サイト付近に乾式貯蔵施設ができても、「中間」とは名ばかりで、「永久貯蔵」になるのは必至です。なぜなら、六ヶ所再処理工場は、たとえ、新規制基準に適合して竣工しても、フル操業できないからです。
その理由は、プルサーマルが進まないからです。仏からの輸入MOX燃料費がウラン燃料の10倍と高く(高浜3・4号の1999~2017年の輸入ウラン燃料は1.0億円/体に対し、輸入MOX燃料は5.4~10.6億円)、国内のMOX燃料ではさらに数倍高くなるため、電力自由化の下では核燃料費の高騰は原子力の再エネに対する競争力を蝕むからです。そのため、電事連の「プルサーマル計画」では、1基で毎年核分裂性プルトニウム(Puf)が0.4tPuf消費されると仮定し、高浜3・4号、玄海3号、伊方3号の4基で1.6tPufが毎年消費されるかのように想定されていますが、実際は違います。高浜3・4号では3年ごとに16体ずつしか発注されておらず、2基で0.32tPuf/年、玄海3号と伊方3号は残りの仏保管分計0.10tPufは大間原発へ譲渡する予定で、MOX燃料に加工できるプルトニウムがありません。英に計1.7tPufのプルトニウムが存在しますが、英にはMOX燃料加工工場がなく、発注できないのです。つまり、現在プルサーマル可能な4基では0.32tPuf/年(非核分裂性を含む全プルトニウムで0.49tPu/年)、「プルサーマル計画」の1/5程度しか消費できないのです。  電気事業連合会は、玄海や伊方の英保管分を東電等の仏保管分と交換してMOX燃料加工する案を画策していますが、他の電力会社のプルトニウムでプルサーマル利用するのは地元の理解が得られないでしょうし、九州電力と四国電力がわざわざ他社の高価なMOX燃料を使って電力自由化の下で経済的不利益を受け入れるとは考えられません。
つまり、英仏保管のプルトニウム量を大量には減らせず、六ヶ所再処理工場の操業は進まず、使用済燃料は中間貯蔵施設からなかなか出て行かないのです。むつ市の中間貯蔵施設も受入れから50年後には搬出元へ返却する約束ですから、搬出元の原発へ戻される以外にありません。ところが、その頃には原発は廃炉になっていて、立地自治体が受け入れを拒否すれば、そのまま「永久貯蔵」になる恐れが高まるのです。むつ市等が懸念しているのは、まさに、このことです。国民をだまし続けるのはもうやめにして、核燃料サイクル政策を抜本的に転換すべきです。また、「処分先」のない使用済燃料はこれ以上生み出さないのが原則であり、「原発依存度を可能な限り低減」させ、原発ゼロへ進むべきです。

東京電力福島第一原子力発電所において放射性同位元素を取り扱うに当たっての事業所境界の実効線量の算定に関する原子力規制委員会告示の一部改正案に対する意見募集の結果が公表されました

第53回原子力規制委員会(2021.2.3)で、 「東京電力福島第一原子力発電所において放射性同位元素を取り扱うに当たっての事業所境界の実効線量の算定に関する原子力規制委員会告示の一部改正案に対する意見募集の結果」が公表されました。私が出していた3つの意見への回答が記載されていましたが、下記のようにひどいものです。

【本告示改正の趣旨について】

放射性同位元素等の規制に関する法律(以下「RI法」という。)に基づく工場又は事業所の境界における線量の制限や核原料物質、核燃料物質及び原子炉の規制に関する法律(以下「炉規法」という。)に基づく周辺監視区域の外側における線量の制限は、放射線施設や原子力施設のそれぞれの規制ごとに、許可対象施設自らに起因する放射線による影響を遮へい及び離隔距離によって一定水準以下とすることを目的として設定されており、他の許可対象施設の事故に由来する放射線による線量を含めることを求めていません。 一方、東京電力福島第一原子力発電所(以下「1F」という。)については、1F事故時の放出により沈着した放射性物質が広域に広がっており、周辺監視区域を線量限度に基づき設定することが困難であることから、炉規法に基づく保安又は特定核燃料物質の防護につき特別の措置を要する施設(特定原子力施設)に係る実施計画により管理されています。 このように管理されている1Fの敷地内においては、今後、RI法に基づく放射線施設(以下「分析研究施設」という。)の許可申請が予定されていますが、上述のとおり、RI法においては、許可対象施設自らに起因する放射線による線量を算定すれば足りることから、本告示改正において、その考え方を維持することを入念的に規定するものです。

(コメント)同じ福島第一原発敷地内にありながら、燃料デブリ等分析用に新たに設置する分析研究施設は、炉基法の許可対象ではなく、RI法の許可対象だから、炉基法対象の施設は無視して、RI法対象の分析研究施設による線量だけを規制すればよいというのは。「周辺監視区域の外側における線量の制限」で公衆被ばく線量限度1mSv/年を担保するという法令の趣旨を曲解しています。これでは公衆被ばく線量限度1mSv/年を担保できません。

【現在の1Fが違法状態にあるとの御意見について】

1Fについては、炉規法等に基づき、周辺監視区域を設定し当該区域に対する立入制限等の措置を講ずることが求められますが、1F事故時の放出により沈着した放射性物質が広域に広がっており、周辺監視区域を線量限度に基づき設定することが困難な状況です。 このように、施設の状況に応じた適切な方法により管理を行うことが必要であるため、炉規法第64条の2第1項に基づき特定原子力施設に指定し、炉規法第64条の2第2項に基づき措置を講ずべき事項として、廃炉作業に伴い追加的に敷地内から放出される線量による影響を可能な限り低減するために「特に施設内に保管されている発災以降発生した瓦礫や汚染水等による敷地境界における実効線量(施設全体からの放射性物質の追加的放出を含む実効線量の評価値)を、平成25年3月までに1mSv/年未満とすること。」を求めています。 これを受けて原子力規制委員会が認可した東京電力提出の実施計画においては液体廃棄物を排出する際の放射性物質の濃度を一定以下で管理する等の措置をとることとなっています。また、平成28年3月以降当該実効線量は1mSv/年を下回っています。 このように、1Fでは炉規法に基づく適切な管理が行われています。

(コメント)炉規法第64条の2第1項は、福島第一原発を「特定原子力施設」に指定できるとし、炉規法第64条の2第2項は、措置を講ずべき事項及び期限を示して「実施計画」の提出を求めるというだけであり、特定原子力施設に指定された福島第一原発が満たすべき法令はこれらの規定に基づいて、次の3法令によって別に定めてあります。

(1)「東京電力株式会社福島第一原子力発電所原子炉施設についての核原料物質、核燃料物質及び原子炉の規制に関する法律の特例に関する政令」(2013年政令第53号)

(2)「東京電力株式会社福島第一原子力発電所原子炉施設の保安及び特定核燃料物質の防護に関する規則」(2013年原子力規制委員会規則第2号)

(3)「特定原子力施設への指定に際し東京電力株式会社福島第一原子力発電所に対して求める措置を講ずべき事項について」(2012年11月7日原子力規制委員会決定)のⅡ-11 の3法令です。

しかし、(1)には、原子炉等規制法の一部を適用除外できるとあるものの、敷地境界線量(周辺監視区域外の線量)が1mSv/年を超えてよいとの条文はありません。

(2)には、特定原子力施設についても「周辺監視区域」は「実用炉規則第2条第2項第6号の周辺監視区域」をそのまま適用することとしています。すなわち、「周辺監視区域」とは、管理区域の周辺の区域であって、当該区域の外側のいかなる場所においてもその場所における線量が原子力規制委員会の定める線量限度を超えるおそれのないものをいう(実用発電用原子炉の設置、運転等に関する規則第2条第2項第6号)。また、「実用炉規則第2条第2項第6号の原子力規制委員会の定める線量限度」は「実効線量については、1年間につき1mSv」と明記されています(「核原料物質又は核燃料物質の製錬の事業に関する規則等の規定に基づく線量限度等を定める告示」(2015年8月31日原子力規制委員会告示第8号)第2条第1項第1号)。

(3)では、放射性物質の放出抑制等による敷地周辺の放射線防護等の要件が次のように定められています。

○「特定原子力施設から大気、海等の環境中へ放出される放射性物質の適切な抑制対策を実施することにより、敷地周辺の線量を達成できる限り低減すること。」

○「特に施設内に保管されている発災以降発生した瓦礫や汚染水等による敷地境界における実効線量(施設全体からの放射性物質の追加的放出を含む実効線量の評価値)を、平成25年3月までに1mSv/年未満とすること。」

しかし、これらは(2)で規定された「敷地境界線量1mSv/年」の要件とは別に定められた特記事項にすぎず、これを満たすから(2)の要件を満たさなくてもよいということにはなりません。むしろ、違法状態を一日でも早く解消するための特別な措置であり、まずは「特に施設内に保管されている発災以降発生した瓦礫や汚染水等による敷地境界における実効線量」の引き下げを求めたものにすぎず、この線量が「平成28年3月以降当該実効線量は1mSv/年を下回っています」というのであれば、それで終わるのではなく、それに続いて段階的に(2)を遵守できるようになるまで規制を強めていくことが求められているのです。そうでなければ、(2)の要件は無意味になります。法令遵守を求めるべき原子力規制委員会が、自ら進んで(2)の要件を放棄してどうするんでしょう!

<参考:炉基法第64条の2の規定>

第六十四条の二 原子力規制委員会は、原子力事業者等がその設置した製錬施設、加工施設、試験研究用等原子炉施設、発電用原子炉施設、使用済燃料貯蔵施設、再処理施設、廃棄物埋設施設若しくは廃棄物管理施設又は使用施設において前条第一項の措置(同条第三項の規定による命令を受けて措置を講じた場合の当該措置を含む。)を講じた場合であつて、核燃料物質若しくは核燃料物質によつて汚染された物若しくは原子炉による災害を防止するため、又は特定核燃料物質を防護するため、当該設置した施設の状況に応じた適切な方法により当該施設の管理を行うことが特に必要であると認めるときは、当該施設を、保安又は特定核燃料物質の防護につき特別の措置を要する施設(以下「特定原子力施設」という。)として指定することができる。

2 原子力規制委員会は、特定原子力施設を指定したときは、当該特定原子力施設に係る原子力事業者等(次条において「特定原子力事業者等」という。)に対し、直ちに、措置を講ずべき事項及び期限を示して、当該特定原子力施設に関する保安又は特定核燃料物質の防護のための措置を実施するための計画(以下「実施計画」という。)の提出を求めるものとする。

【分析研究施設の設置に伴う追加的放出を懸念する御意見について】

原子力規制委員会は、1Fの廃炉作業を円滑に進める観点から、その廃炉作業の一環として、放射性同位元素を取り扱う分析とそのための施設を設置することについて、炉規法に基づき特定原子力施設に係る実施計画の変更を認可しています。1Fの敷地境界における線量については、措置を講ずべき事項による制限(1mSv/年未満)を満たすよう、特定原子力施設に係る実施計画に基づき管理することを求めてまいります。

(コメント)上記(2)の要件が、一時的な特別措置に過ぎない「措置を講ずべき事項による制限」にすり替えられています。炉基法で定められた実施計画で分析研究施設の設置を認めながら、その線量管理は炉基法に規定されたものではなくRI法に定められたものだけを満たせばよいというのは、炉基法に基づく(2)の要件を放棄するものです。RI法の要件と炉基法に基づく(2)の要件が同時に満たされるものでなければ、法令が担保すべき「公衆の被ばく線量限度1mSv/年」は守られなくなります。

原子力規制庁も、「福島第一原発敷地内においては、自然放射線以外の同発電所事故により放出された放射性物質から発生する放射線により、事業所境界の実効線量が数量告示で定める線量限度(実効線量が3 月間につき250マイクロシーベルト)を超えている状況にある。」(「東京電力福島第一原子力発電所において放射性同位元素を取り扱うに当たっての事業所境界の実効線量の算定に関する原子力規制委員会告示の一部改正案及び意見募集の実施について」,2020年11月11日原子力規制庁)と認めているのですから、この違法状態を解消すべく「措置」を緩和するのではなく、(2)の要件満足に向けて一層強化していくのが本来の規制委員会の役割であるはずです。原子力規制委員会はいつから原子力「緩和」委員会に変質したのでしょうか?

基準地震動及び耐震設計方針に係る審査ガイドの一部改正案に対する意見募集へ意見を出しました

(意見) 4.2.1の(解説)の改正前の(3)は表1(収集対象となる内陸地殻内の地震の例)とともに削除され、改正後の(3)は「(3)許可基準解釈別記2第4条第5項第3号丸括弧2に掲げる知見については、知見そのものの再度の妥当性確認は要しない。」に書き換えられているが、これを削除すべきである。

また、同(2)の丸括弧2を「丸括弧2 上部に軟岩や火山岩、堆積層が厚く分布する地域で発生した地震(例:2008年岩手・宮城内陸地震(基盤波が得られない場合は地中観測記録の2倍を基盤波とみなすこともある))」と括弧内の注意書きを追記すべきである。

(理由) 「許可基準解釈別記2第4条第5項第3号丸括弧2に掲げる知見」とは、2004年北海道留萌支庁南部地震の基盤地震動および今回新たに設定された標準応答スペクトルのことだが、これらはすでに確定されたスペクトルとして指定されていることから、改めて書く必要もない。にもかかわらず、「知見そのものの再度の妥当性確認は要しない。」としてしまうと、これらだけを考慮すればよいかのような解釈が生まれかねない。地中地震計が全国的に配置されて強震観測記録がとられ始めたのは最近のことであり、2004年北海道留萌支庁南部地震の基盤地震動を超える観測記録が今後生じる可能性は大きい。そもそも、今回の標準応答スペクトルは、2008年岩手・宮城内陸地震の一関西における三成分合成1,078ガルの地中観測記録(はぎとり波2,000ガル弱相当)の基盤波が電力会社のサボタージュによって求められていないこと等から、しびれを切らせた原子力規制委員会が自ら策定したものであり、これらの「知見そのものの再度の妥当性確認は要しない。」と、わざわざ書き込めば、電力会社に猛省を促すどころか、これらの知見さえ満たしておけばよいかのような誤った安心感を電力会社に与えてしまう恐れがある。

さらに、「許可基準解釈別記2第4条第5項第3号丸括弧2の上記2箇所について言えば、次のように「 」書き部分を追記すべきであるとの意見を別途出しているところであり(「実用発電用原子炉及びその附属施設の位置、構造及び設備の基準に関する規則の解釈等の一部改正について」への意見募集)、これとの関係からも、「改正後の(3)」は削除すべきである。

・2004年北海道留萌支庁南部の地震において、防災科学技術研究所が運用する全国強震観測網の港町観測点における観測記録から推定した基盤地震動「および今後収集されるMw6.5程度以下の地震観測記録から推定した基盤地震動で、その応答スペクトルが2004年北海道留萌支庁南部の地震のそれを超えるもの」

・震源近傍の多数の地震動記録に基づいて策定した地震基盤相当面(地震基盤からの地盤増幅率が小さく地震動としては地震基盤面と同等とみなすことができる地盤の解放面で、せん断波速度Vs=2200m/s以上の地層をいう。)における標準的な応答スペクトル(以下「標準応答スペクトル」という。)として次の図に示すもの「(ただし、この標準応答スペクトルは2000~2017年に発生したMw5.0~6.5程度の地震動の非超過確率97.7%(平均+2σ)の応答スペクトルを基に設定したものであり、今後の地震観測記録の収集によって改定された場合にはその応答スペクトル)」

(2)の丸括弧2の中の括弧内注意書きの追記については、電力会社による基盤波解析サボタージュを戒めるために、ぜひとも追記すべきであり、そうでもしない限り、電力会社が猛省して解析を進めることはありえない。原子力規制委員会として、しびれを切らしたと言うのであれば、これぐらいのことはすべきである。

実用発電用原子炉及びその附属施設の位置、構造及び設備の基準に関する規則の解釈等の一部改正案に対する意見募集へ意見を出しました

(意見) 別表第1および別表第2の別記2第4条第5項第三号丸括弧2ならびに別表第3別記2第7条第6項第三号丸括弧2の2箇所について、次のように「 」書き部分を追記すべきである。

・2004年北海道留萌支庁南部の地震において、防災科学技術研究所が運用する全国強震観測網の港町観測点における観測記録から推定した基盤地震動「および今後収集されるMw6.5程度以下の地震観測記録から推定した基盤地震動で、その応答スペクトルが2004年北海道留萌支庁南部の地震のそれを超えるもの」

・震源近傍の多数の地震動記録に基づいて策定した地震基盤相当面(地震基盤からの地盤増幅率が小さく地震動としては地震基盤面と同等とみなすことができる地盤の解放面で、せん断波速度Vs=2200m/s以上の地層をいう。)における標準的な応答スペクトル(以下「標準応答スペクトル」という。)として次の図に示すもの「(ただし、この標準応答スペクトルは2000~2017年に発生したMw5.0~6.5程度の地震動の非超過確率97.7%(平均+2σ)の応答スペクトルを基に設定したものであり、今後の地震観測記録の収集によって改定された場合にはその応答スペクトル)」

(理由) 「震源を特定せず策定する地震動」は「震源近傍における観測記録を収集し、これらを基に、各種の不確かさを考慮して敷地の地盤物性に応じた応答スペクトルを設定して策定すること」となっていたが、今回の改定で「収集し」が削除され、2004年北海道留萌支庁南部地震の基盤波と標準応答スペクトルだけが列挙される形になってしまうと、これ以降に収集される地震観測記録が無視されてしまう恐れがある。そうならないよう、2004年北海道留萌支庁南部地震の基盤波を超えるものが得られた場合にはそれを適用するように明記すべきである。 標準応答スペクトルについては、アプリオリに策定されたものではなく、18年間の地震観測記録に基づき、地震基盤面はぎとり波に不確かさを考慮して策定したものであり、震源を特定せず策定する地震動に関する検討チーム報告書(2019.8.7)に基づいて、策定根拠を明示すると共に、新たに地震観測記録が収集され、更新の必要性が生じた場合には標準応答スペクトルも更新されることを明記しておくべきである。とくに、今回の標準応答スペクトルは、2008年岩手 ・宮城内陸地震の一関西における三成分合成1,078ガルの地中観測記録(はぎとり波2,000ガル弱相当)の基盤波が電力会社のサボタージュによって求められていないこと等から、しびれを切らせた原子力規制委員会が自ら策定したものであり、電力会社に猛省を促す意味でも明記すべきである。

原子力規制委員会へ「平成12年科学技術庁告示第5号(放射線を放出する同位元素の数量等を定める件)の一部を改正する告示(案)」に対する意見を3つ提出しました

<意見その1>

 福島第一原発の敷地境界線量は1ミリシーベルト/年をかなり超える法令違反状態にあり、分析研究施設設置に限定した特例措置とは言え、敷地境界線量のさらなる増加につながる廃炉・汚染水対策の実施は認められないこと等について下記に意見を述べます。

「東京電力福島第一原子力発電所において放射性同位元素を取り扱うに当たっての事業所境界の実効線量の算定に関する原子力規制委員会告示の一部改正案及び意見募集の実施について」(2020年11月11日 原子力規制庁)では、「福島第一原発敷地内においては、自然放射線以外の同発電所事故により放出された放射性物質から発生する放射線により、事業所境界の実効線量が数量告示で定める線量限度(実効線量が3月間につき250マイクロシーベルト)を超えている状況にある。」と認めています。この線量限度は「線量告示」(2015年8月31日原子力規制委員会告示第8号「核原料物質又は核燃料物質の製錬の事業に関する規則等の規定に基づく線量限度等を定める告示」)における「周辺監視区域外の線量限度」、すなわち、「実効線量については1年間(4月1日を始期とする1年間をいう。)につき1ミリシーベルト」に相当します。この線量限度においても、「自然に存在するもの以外のもの」(実用発電用原子炉の設置、運転等に関する規則第2条)を実効線量として算定することとされています。

 福島第一原発敷地境界のモニタリングポスト(MP-1~MP-8)実測値(2020/11/1/pm9:00)は、0.387(MP-6)~1.189(MP-4)マイクロシーベルト/時、年換算値では3.39~10.4ミリシーベルト/年です。福島県における事故前の自然放射線は0.04マイクロシーベルト/時、年換算値0.35ミリシーベルト/年でしたので、自然放射線レベルを3.04~10.1ミリシーベルト/年も超えており、1ミリシーベルト/年の線量限度を2.04~9.1ミリシーベルトも超えています。つまり、現状は、依然として、数量告示にも線量告示にも違反した状態です。

 本来であれば、この違法状態を解消しない限り、「特定原子力施設」として認可された福島第一原発であっても、敷地境界線量のさらなる増加につながる廃炉・汚染水対策の実施は認められず、瓦礫等固体廃棄物および燃料デブリの性状把握のための「分析研究施設(第1棟および第2棟)」の設置や「トリチウム汚染水の海洋放出」などは認められないはずです。代替案が他に全く存在せず、緊急避難的措置が必要な緊急事態であれば別ですが、現状はそのような緊急事態では全くありません。  

ところが、数量告示の一部改正案では、新たに設置される分析研究施設からの敷地境界線量の増加分が1ミリシーベルト/年を超えなければよいとされ、「必要な遮蔽壁その他の遮蔽物を設ける」際の性能要求が大幅に引き下げられ、被ばく防護を犠牲にしたコスト削減が可能な「改正」案になっています。事故を起こした東京電力や国が、自らの責任を棚上げにした上、国民に被ばくを強要して東京電力によるコスト削減を手助けする案になっています。分析研究施設については、瓦礫等固体廃棄物および燃料デブリを扱うセルの遮蔽を強化すればよいのであり、それほど難しいこととは思われません。にもかかわらず、被ばく防護の水準を引き下げるという最もコストのかからない方法で対処しようとする姿勢は、国民の生命・健康を放射線障害から防護する責務を負った原子力規制委員会の立場とは相いれないはずです。

 トリチウム汚染水の海洋放出についても、同様であり、トリチウム以外の核種を極限まで除去した上で、最もトリチウム濃度の高い32万立方メートル、520兆ベクレルを固化埋設し、他の86万立方メートル, 340兆ベクレルは、空いたタンクをも利用して100年間タンク貯蔵すれば、トリチウムは自然に減衰します。その場所は敷地北側に現状でも存在します。しかも、汚染水対策の破綻は、国が凍土遮水壁を採用したことで運命付けられていたことです。通常の大規模土木工事で地下水の流れを大きく変える抜本的な対策があったのに、それでは東京電力救済になるから予算はつけられないとし、成否不明の凍土遮蔽壁なら科学技術予算から支出できるとして凍土遮水壁が選択されましたが、全く機能しませんでした。その失敗のツケを国民に転嫁し、安易な海洋放出で東京電力を救済するのは筋違いです。

 廃炉・汚染水対策で福島県民や国民に新たな被ばくは強要しないという基本原則を守るべきであり、数量告示の一部改正案は撤回し、違法状態の早期解消を求め、新たな対策による敷地境界線量の増分を事故前の自然放射線レベルの変動幅未満に抑えるとか、敷地境界線量遵守のより厳しい改正案とすべきです。

<意見その2>

福島第一原発の敷地境界線量の評価について、原子力規制委員会は、(a)事故当初からの未処理のものによる放射線と(b) 発災以降発生した瓦礫・汚染水等による放射線を分けた上で、線量告示ではリスク低減の目的のために(a)を除外して扱い、今回の数量告示では(a)だけでなく(b)も除外して扱おうとしていますが、いずれも現行法令違反です。これらについて下記に意見を述べます。

 原子力規制委員会は「特定原子力施設への指定に際し東京電力株式会社福島第一原子力発電所に対して求める措置を講ずべき事項について」(2012年11月7日原子力規制委員会決定)で、「特に施設内に保管されている発災以降発生した瓦礫や汚染水等による敷地境界における実効線量(施設全体からの放射性物質の追加的放出を含む実効線量の評価値)を、平成25年3月までに1ミリシーベルト/年未満とすること」を東京電力に求め、第24回特定原子力施設監視・評価検討会で、これは「事故当初から存在する未処理の瓦礫や地表等に沈着した放射性物質からの寄与は含めないとの考え方」に基づくと説明しています(原子力規制庁技術参与 近藤・平山・鈴木「福島第一原子力発電所における放射線管理に関する検討課題」,2014.7.7)。

 これらによれば、原子力規制委員会は、福島第一原発の敷地境界線量を、(a)「事故当初から存在する未処理の瓦礫や地表等に沈着した放射性物質からの放射線による実効線量」、(b)「発災以降発生した瓦礫や汚染水等(施設全体からの放射性物質の追加的放出を含む)による実効線量の評価値」の2つに分け、線量告示の敷地境界線量を評価する際には、(a)を除外し、(b)だけを考慮すればよいとしているかのように見えます。しかし、今回の数量告示の一部改定案によれば、「数量告示第24条の規定により、実効線量の算定から除外できるものは診療及び自然放射線による被ばくのみとなっている。」のであって、線量告示の敷地境界線量評価においても、上位規定の原子炉等規制法規則第二条に「放射線」とは「自然に存在するもの以外のものをいう」と明記されていることから、(a)を除外するのは線量告示違反であることは明白です。つまり、線量告示の敷地境界線量は(a)と(b)の合計からなるのであり、これが1ミリシーベルト/年を超えていれば、線量告示違反であり、敷地境界線量をさらに増やすような廃炉・汚染水対策については、それを講じてはならないことになるはずです。

 地下水バイパスやサブドレン・地下水ドレンの運用方針に基づく海洋放出は、地下水の流れを抜本的に変えるための土木工事を採用せず、成否不明の凍土遮水壁にこだわった汚染水対策の下で、地下水の建屋への流入が増え続けたことへの緊急避難措置として導入されましたが、今回のトリチウム汚染水の海洋放出は緊急避難措置とは到底言えず、法令違反の上に法令違反を上塗りするものだと言えます。ちなみに、地下水バイパスは2014年5月開始、サブドレン・地下水ドレンは2015年9月開始ですが、いずれの場合も、敷地境界モニタリングポストMP-7の実測値から自然放射線約0.35ミリシーベルト/年を除いた敷地境界線量「(a)+(b)」は20ミリシーベルト/年程度および15ミリシーベルト/年程度であり、東京電力による(b)の評価値も約10ミリシーベルト/年および約1.5ミリシーベルト/年でした。つまり、敷地境界線量は(a)を除外しても線量告示の1ミリシーベルト/年の制限値を超えていたのであり、明らかに違法状態ではありましたが、緊急避難的に福島県民、とりわけ、福島県漁連が苦渋の決断で受け入れを余儀なくされたものでした。にもかかわらず、東京電力は2016年3月末に(b)の評価値が0.96ミリシーベルト/年と1ミリシーベルト/年未満へ下がったことから、第2回多核種除去設備等処理水の取扱に関する小委員会(2016.12.16)で、線量告示違反ではなかったかのように説明していますが、お門違いも甚だしいと言えます。

 今回の数量告示一部改定案においては、分析研究施設による敷地境界線量の評価においては、(a)も(b)も除外してよいとの扱いですが、「福島第一原発敷地内の放射線施設」に限定された特例措置だとは言え、「診療及び自然放射線による被ばく以外の人工の放射性物質からの被ばく」を制限するという数量告示および線量告示の趣旨をねじ曲げ、骨抜きにするものです。これがまかり通れば、(a)+(b)の敷地境界線量が1ミリシーベルト/年を大幅に超えていても黙認することになり、敷地境界線量のさらなる増加を容認することになってしまいます。このような改正案は撤回し、違法状態の早期解消を求め、新たな対策による敷地境界線量の増分を事故前の自然放射線レベルの変動幅未満に抑えるとか、敷地境界線量遵守のより厳しい改正案とすべきです。

<意見その3>

原子力規制委員会は、福島第一原発敷地内が事故による原子力災害のため1ミリシーベルト/年をかなり超える現存被ばく状況にあり、「公衆被ばくではこれを線量限度の対象外にできる」との国際放射線防護委員会ICRP の1990年勧告・2007年勧告を引用していますが、それは現行法令にはとり入れられておらず、そのような扱いをすることは法令違反になることを認めています。ところが、数量告示の一部改正案では、まさに現存被ばく状況による放射線を敷地境界線量から除外することになっており、断じて認められないことについて下記に意見を述べます。

原子力規制庁は「放射線を放出する同位元素の数量等を定める件(数量告示)第24条の改正方針についての検討結果」(2020.11.11)において、公衆被ばくに関する国際放射線防護委員会ICRPの1990年勧告の一部、すなわち、「住居内及び屋外のラドン、既に環境中に存在する自然または人工の放射性物質は、介入によってのみ影響を与えることのできる状況の例である。それゆえ、これらの線源からの線量は、公衆被ばくに関する線量限度の範囲の外である。」との考えを引用して、「福島第一原発における既に環境中に存在する人工の放射性物質からの線量は、公衆被ばくに関する線量限度の範囲の外である一方、職業被ばくには含めることになると考えられる。」との判断を示し、「数量告示第24条について、『対象とする放射線施設で取り扱う放射性同位元素等から発生する放射線による被ばくについて算出する』という趣旨の規定とする場合には、公衆被ばくを想定して定めた線量の基準と職業被ばくを想定して定めた線量の基準を分類し、公衆被ばくを想定して定めた線量の基準に限定して行う必要がある。」としています。ところが、現行法令では「診療を受けるための被ばく及び自然放射線による被ばくを除くと規定」していて、「明示的に『職業被ばく』と『公衆被ばく』を区別しているわけではない」こと、さらに、「この分類を行うに当たっては、各規定の制定過程における議論の経緯や背景などを確認した上で、現時点における考え方を各規定ごとに整理する必要があるとともに、原子炉等規制法を含む他法令にも同趣旨の規定があることから、放射線審議会に諮問し、関係する技術的基準の斉一性の観点からの審議を経る必要があると考えられる。こういった作業については、相当の時間を要すると考えられる」ことに懸念を示し、今回の数量告示の一部改正については、福島原発敷地内に限定した放射線施設の遮蔽物に係る線量限度への特例的な規定に留めると結論づけています。

 この検討結果から明らかなことは、次の2つです。

 第1に、原子力規制委員会は、福島第一原発事故による放射能汚染を「現存被ばく状況」(ICRP1990年勧告を受けてICRP2007年勧告で示された新たな概念)として容認する方向を模索しているものの、現行法令では、公衆被ばくから除外できるのは「診療及び自然放射線のみ」であって「現存被ばく状況」による放射線は除外できないこと。

 第2に、現行法令を全面的に改定するとしても、公衆被ばくとは異なり、職業被ばくにおいては「現存被ばく状況」による放射線を除外できないため、公衆被ばくと職業被ばくを区別して規定する必要があるところ、それには長期の検討を要すること。

 つまり、数量告示の一部改正案では、福島原発敷地内の現存被ばく状況による放射線を敷地境界線量から除外しようとしていますが、それは、たとえ敷地内に限定した特例であっても、現行法令違反になります。もし、この改正案を強硬実施すれば、原子炉等規制法とその規則などの上位規定に反する規定を告示で導入することになり、違法な告示改定をなし崩し的に行うことになり、断じて認められません。

 さらに言えば、20ミリシーベルト/年未満という基準で避難指示を解除して1ミリシーベルト/年を超える汚染地域での住民の居住を認めた措置は、「現存被ばく状況による放射線の除外」を想定していない現行法令に違反していると言えます。この法令違反の避難指示解除についても即刻撤回し、たとえ避難指示が解除された場所に居住し続ける場合であっても、1ミリシーベルト/年の現行法令を遵守するため、公衆への被曝防護措置を強化・徹底すべきです。「人工の放射性物質による公衆被ばくを低減するための対策について、そのコストが便益よりも高ければその対策をとらなくてもよい」とは現行法令のどこにも規定されていないのですから。

「クリアランス規則等の制定案等に対する意見募集」へ2つの意見を提出しました

原子力規制委員会による「クリアランス規則等の制定案等に対する意見募集」(募集期間2020/3/12-4/10)へ4月9日に下記の2つの意見を提出しました。

意見募集要綱

クリアランス規則の制定案

クリアランス審査基準の一部改正案 新旧対照表

令和元年度第69回原子力規制委員会資料3

—– 意見(1) ————————————————

クリアランス新規則は、現行規則と同様に、IAEAのGSR Part 3 のクリアランスレベルの設定法とその値をそのまま受け入れ、拡張しようとしているが、クリアランスレベル設定の評価基準および設定法に大きな問題点があり、今回の規則改定を機に、少なくとも新規則案の値を1桁以上小さくした値をクリアランスレベルの値とすべきである。 その理由は、次の二つである。

 第1に、評価基準の10μSv/年は1985年のICRP Pub.46のリスク評価に基づいており、当時よりリスクが10倍(ないし5倍)と評価される現状では、評価基準を1μSv/年(ないし2μSv/年)にすべきであり、結果として、1桁小さくすべきである。

 第2に、IAEAのクリアランスレベル設定法は旧原子力規制委員会による決定グループに対する最悪シナリオに基づく設定ではなく、放射性廃棄物の国際流通を前提として、国による地理的・文化的・生活習慣の違いを捨象した包括的なシナリオを用いており、日本にそのまま適用すれば国際的な平均レベルを超えた被曝がもたらされる危険があり、この面からも1桁以上厳しくすべきである。

以下、これらについて詳しく述べる。

<第1の理由>  ICRP Pub.46(1985年)では、ICRP Pub.26(1977年勧告)のリスク評価に基づき、「年あたり10^-6以下のオーダーの年死亡確率は,個人が自分のリスクに影響があるかもしれない行動を決定するさいに考慮されないことを示していると思われる。」「このリスクレベルは100μSvのオーダーの年線量に相当する。」(83)とし、被曝によるガン・白血病等による死のリスクを「10^-2/Sv」と評価している。さらに、「規制免除されたいくつかの線源から一人の個人が受ける年線量の合計は,最も大きな個人線量を与える一つの免除された線源からの寄与分の10倍よりも低いことはほとんど確実であると考えられる。したがって,この観点は,年個人線量の規制免除規準を100μSvから10μSvに減らすことによって考慮に入れることができるであろう。」(84) つまり、「10μSv/年」の基準は死亡率10^-7/年に「10^-2/Sv」のリスク評価を適用して設定されたものである。

 ところが、ICRP Pub.60(1990年勧告)では「高線量・高線量率の低LET放射線に関する付属書Bのデータは,男女両性で就労年齢の基準集団における生涯致死確率係数が,全悪性腫蕩の合計について約8×10-2/Svであることを示している。この値を線量・線量率効果係数DDREF=2と組み合わせて,作業者に関する名目確率係数は4×10-2/Svとなる。子供を含む全集団についての対応する値は,高線量・高線量率の場合約10×10-2/Sv、低線量・低線量率の場合5×10-2/Svとなる。」(83)としており、リスクは「10×10-2/Sv(DDREF=2の場合5×10-2/Sv)」と10倍(ないし5倍)へ増えている。

 つまり、10^-7/年の死亡率に対応するのは10μSv/年ではなく1μSv/年(DDREF=2を考慮すれば2μSv/年)としなければならない。その結果、クリアランスレベルの値は1桁小さく設定しなければならない。

<第2の理由>  IAEAのGSR Part 3 のクリアランスレベルの設定法はIAEAのSRS No.44の方法に基づいている。それは、決定グループに対する最悪シナリオでの被曝量を10μSv/年に抑える放射能濃度としてクリアランスレベルを設定した旧原子力安全委員会の方法とは根本的に異なり、クリアランスされた放射性廃棄物が国際流通されることを念頭に置き、国による地理的・文化的・生活習慣の違いを捨象した包括的なシナリオを用い、「現実的」なパラメータ値を設定して算出されたものであり、低発生確率のパラメータ値の下でも、1mSv/年を超えないこと、および皮膚線量が50mSv/年を超えないことを確認して得られる値とされている。さらに、「0.3~3を1とする」方法で丸めているが、これでは、最悪の場合、算出濃度が3.3(=10/3)倍に緩和される。

 旧原子力委員会によるクリアランスレベルの再評価結果と比べると、トリチウムやSr-89、Sr-90、Ni-59、Cm-242、243および244など重要な核種で規制が緩和されることになる。とくに、Cl-36とCm-243は0.3が1へ、Ni-59では30が100へ、Cm-242では3が10へ丸められているが、1桁小さくすべきところである。にもかかわらず、「大部分の核種について1桁以内となっており、両者の値は、ほぼ同等であると言える」との旧原子力安全委員会の評価をそのまま妥当とするのは国民の生命・健康を軽視するものである。

—– 意見(2) ————————————————

放射能濃度についての確認を受けようとする物に含まれる放射性物質の放射能濃度の測定及び評価の方法に係る審査基準 新旧対照表(p.11左1~5行)について 「イ:放射能濃度確認対象物の汚染が表面汚染のみであって建屋コンクリートのように部材が厚い場合には、決定される放射能濃度が過小評価とならないように、適切な厚さ(5cm程度)に応じた当該対象物の重量をもとに放射能濃度の決定が行われていること」とあるが、「表面汚染のみ」または「表面汚染が支配的である場合」には、評価厚さ[cm]によって換算核種濃度[Bq/g]が異なることから、コンクリートを例にあげて「適切な厚さ(5cm程度)」としているが、核種濃度[Bq/g]と表面汚染[Bq/cm^2]を重畳的に規制する基準が必要ではないか。特に、金属表面汚染とコンクリート表面汚染とでは比重が異なるため(鉄7.85g/cm^3、コンクリート2.3g/cm^3、鉄筋コンクリート2.45g/cm^3など)、「適切な厚さ(5cm程度)」で、一律には表面汚染を濃度に換算できないはずである。

IAEAのSRS No.44でも「This aspect has been intensively considered in several studies relating specifically to the clearance of material from nuclear installations. For the purpose of the generic derivation of activity concentration values, however, such factors cannot be taken into account. Therefore it has to be recognized that for specific situations such as the clearance of metal or the reuse of buildings from nuclear installations, additional criteria relating to the surface contamination may have to be applied that are not reflected in the derived activity concentration values. This may lead to a decision of the regulatory body not to release some material even if the activity concentration values are not exceeded for the bulk quantity.」(SRS No.44, p.20)とされており、重量濃度規制とは別に表面汚染を追加的に規制すべきだとされ、重量濃度規制を満足していても表面密度規制を満足していなければクリアランスしてはならないと指摘している。

 たとえば、放射線管理区域からの物品持ち出し基準「ベータ・ガンマ核種に対し4Bq/cm^2未満」を満たす場合でも、核種濃度[Bq/g]=(表面密度[Bq/cm^2]×対象面積[cm^2])/(評価厚さ[cm]×対象面積[cm^2]×密度[g/cm^3])の換算式で評価厚さを5cmとすれば、表面密度4Bq/cm^2は、鉄の場合0.10Bq/g、コンクリートの場合0.35Bq/gの核種濃度に換算されてしまう。I-129のクリアランスレベルは0.01Bq/gだから、I-129の表面密度が4Bq/cm^2未満でもクリアランスされないが、Co-60のクリアランスレベルは0.1Bq/gなので、鉄でCo-60の表面密度が4Bq/cm^2未満でも、「5cm弱」ではクリアランスされず、「5cm強」でクリアランスされる可能性がある。

つまり、「適切な厚さ(5cm程度)」の根拠が曖昧であり、これでは表面汚染を規制したことにはならない。  したがって、重量濃度だけでなく、重量濃度と表面密度の両方でクリアランスレベルを定めるべきである。

原子力規制委員会のパブリックコメントへ意見を3つ提出しました

原子力規制委員会のパブリックコメントへ意見を3つ提出しました

原子力規制委員会による「原子力発電所敷地内での使用済燃料の貯蔵に用いられる兼用キャスクに係る関係規則等の整備及びこれらに対する意見募集」(2018.12.6~2019.1.4)へ提出した意見は以下の通りです。

<意見その1>
原子力発電所敷地内での輸送・貯蔵兼用乾式キャスクによる使用済燃料の貯蔵に関する審査ガイド(案)p.20の「4.7 設計貯蔵期間」には「【審査における確認事項】設計貯蔵期間は、設置(変更)許可申請書で明確にされていること。【確認内容】設計貯蔵期間は、当該設計貯蔵期間中の兼用キャスクの安全機能を評価するに当たり、材料及び構造の経年変化の考慮を行うための前提条件となるため、設置(変更)許可申請書で明確にされていること。」とあるが、「中間貯蔵」とは名ばかりで、電力会社の「想定」している50年を超える貯蔵が避けられない可能性もある。ところが、設計貯蔵期間を超える貯蔵が必要になった場合の措置が明記されていない。設計貯蔵期間を超える可能性がある以上、設計貯蔵期間に至る何年前に再申請するとかの措置を明記すべきではないか。
また、乾式キャスクやそこに収納された使用済燃料の健全性はシミュレーション計算や加速実験によるものにとどまり、様々な照射・運転履歴をもつ、個々の使用済燃料についての50年以上の長期間に及ぶ実験データは存在しない。したがって、乾式キャスクの取替が必要になった時点で、収納された使用済燃料の実状がキャスク取替に耐えうる状態にあるという具体的な保証や実物検証をどのように行うのかについても明記すべきである。
さらに、設計貯蔵期間が50年以上の超長期に及ぶ場合、それを維持管理すべき電力会社等が経営体として存続しない場合も考えられる。超長期に及び乾式貯蔵能力をどのように評価するのか、明記すべきであろう。
原子力発電所敷地外での貯蔵については、審査ガイド案が提示されていないが、敷地内外で、どのような点が異なるのか。

<意見その2>
原子力発電所敷地内での輸送・貯蔵兼用乾式キャスクによる使用済燃料の貯蔵に関する審査ガイド(案)p.12の「4.2.4 その他の外部事象」の「火山立地評価」において、「新規制基準(平成25年7月及び同年12月の改正原子炉等規制法の施行に伴い改正された規則等をいう。以下同じ。)への適合性審査を経ていない発電用原子炉施設において、新規制基準の施行時に既に存在していた使用済燃料を使用済燃料貯蔵槽から兼用キャスクに移し替えることは、施設の維持・管理上の安全性を高めるものであり、当該移替えのための兼用キャスク設置に係る設置変更許可に当たっては、火山の立地評価は不要とする。」とあるが、乾式キャスクの自然冷却が火山灰で長時間阻害された場合には、プール貯蔵の場合とは異なり、キャスク内外の温度が制限値を超える場合もあるから、その対策を審査すべきではないか。

<意見その3>
実用発電用原子炉及びその附属施設の位置、構造及び設備の基準に関する規則の解釈(原規技発第1306193号(平成25年6月19日原子力規制委員会決定)の第16条第5項に「また、上記第1項から第4項までの基準を満足するため、兼用キャスクは、当該兼用キャスクを構成する部材及び使用済燃料の経年変化を考慮した上で、使用済燃料の健全性を確保する設計とすること。ここで、「兼用キャスクを構成する部材及び使用済燃料の経年変化を考慮した上で、使用済燃料の健全性を確保する設計」とは、以下を満たす設計をいう。
・設計貯蔵期間を明確にしていること。
・設計貯蔵期間中の温度、放射線等の環境条件下での経年変化を考慮した材料及び構造であること。」
とあるが、設計貯蔵期間を超えた場合には、乾式貯蔵の操業停止命令を出すことになるが、監視作業が主体の乾式貯蔵では、安全対策上、監視をやめるわけにはいかないから、具体的には乾式貯蔵からプール貯蔵へ戻す命令、もしくは、変更申請による設計貯蔵期間の延長または再申請による新たな乾式キャスクへの収納物入替えが必要になるが、いずれも規定されていない。
 プール貯蔵へ戻す場合には、設計貯蔵期間にわたってプール貯蔵へ戻せる状態を保持することが必要であり、その性能要求の規定が不可欠である。
 設計貯蔵期間を延長する場合には、当初の設計貯蔵期間終了時点での現物のキャスクの健全性を確認できることが前提だが、上蓋やシールは交換できても、キャスク本体の補修は不可能であり、非破壊検査だけでは、その健全性を確認できないのではないか。
 また、新たな乾式キャスクへの収納物入替えに際しては、プール貯蔵へ戻す場合と同様に、当初の設計貯蔵期間にわたって新たな乾式キャスクへの入れ替えが可能な状態を保持することが必要であり、その性能要求の規定が不可欠である。