若狭ネット

福井と関西を結び脱原発をめざす市民ネットワーク

大阪連絡先 dpnmz005@ kawachi.zaq.ne.jp
若狭ネット資料室(室長 長沢啓行)
e-mail: ngsw@ oboe.ocn.ne.jp
TEL/FAX 072-269-4561
〒591-8005 大阪府堺市北区新堀町2丁126-6-105
2017年

伊方3号の運転差止仮処分申立を却下した2017年3月30日の広島地裁決定を受け、広島高等裁判所民事部へ下記の意見書を提出しました。

伊方3号の運転差止仮処分申立を却下した広島地裁決定は
司法の責任を回避し,「不作為の瑕疵」を容認するもの
2017年4月28日
大阪府立大学名誉教授 長沢啓行

(全文のpdfはこちら)

1 はじめに
2 司法審査の在り方
3 基準地震動策定の合理性:震源を特定せず策定する地震動
4 基準地震動策定の合理性:震源を特定して策定する地震動
 4.1 応答スペクトルに基づく地震動評価
 4.2 断層モデルによる地震動評価
  4.2.1 島崎邦彦氏による問題提起の顛末
  4.2.2 Fujii-Matsu’ura の応力降下量
  4.2.3 壇ら(2011)の応力降下量
 4.3 認識論的・偶然的不確実さの考慮
5 結言

[要旨]
伊方3 号の運転差止仮処分申立を却下した2017年3 月30 日の広島地裁決定には,下記のように看過しがたい重大な誤判断と司法の責任放棄がある.
(1)広島地裁決定は,債務者の主張を鵜呑みにして「合理的」だと判断する一方,「確証がない」と吐露して「主張・疎明が不十分である」ことを認めながら,「さらなる証拠調べは本件のような保全手続きにはなじまない」と司法の責任を放棄し,人格権よりも経済活動の自由を優先させた.
(2)「震源を特定せず策定する地震動」は,「震源を特定して策定する地震動」とは独立して検討すべきものだが,広島地裁決定は,それが「補完的」であり「ミニマムリクワイアメント」だとする債務者の誤った主張を鵜呑みにした.また,「震源を特定せず策定する地震動」の対象とする地震観測記録が少ないことを原子力規制委員会自身が認め,電気事業連合会等での「研究が進まないことが原因だ」として研究を進めるよう懇願している現状がある一方,地震観測記録の不足を補うための地震動再現モデルや断層モデルによる地震動解析がかなり進んでいるにもかかわらず,一切採用されていない.広島地裁決定は,「各種の不確かさの考慮」の一環として後者の採用を促すべきところ,債務者の「仮想に仮想を重ねたもの」との批難を鵜呑みにし,原子力規制委員会の不作為を容認した.
(3)広島地裁決定は,敷地前面海域の54km と69km の鉛直モデルに対する耐専スペクトルについて,(a)「他の距離減衰式」との乖離が大きい,(b)構築時に至近距離の観測記録がなかった,(c)実際に耐専スペクトルに沿った地震動が起こる可能性は示唆されない,との理由から適用外にしても「不合理ではない」としたが,すべて誤判断である.「他の距離減衰式」こそが震源域で地震動を頭打ちにする構造をもっており,構築時の近距離地震観測記録に乏しく,現実に起きた震源域内地震観測記録を大きく過小評価している.他方,耐専スペクトルは遠ざかる方向へ伸びる,あるいは,傾斜する断層に対しては地震動を過小評価する傾向にあるが,広島地裁決定は,上記鉛直モデルを採用しない代わりに,54km,69km 北傾斜モデルや480km 鉛直モデルなど本来採用すべきでないものを採用することを「合理的だ」と判断した.
(4)前原子力規制委員長代理の島崎邦彦氏による問題提起は,「原子力規制委員会は地震動の専門知識に欠け,原子力規制庁による情報操作やレシピ改ざんを見抜けない」という現状を暴露するとともに,その主張は熊本地震によって裏付けられ,地震調査研究推進本部による12 月レシピ改訂でその正しさが認定された.レシピ(ア)で用いられている入倉・三宅式は地下のすべり量分布から推定される「不均質な震源断層」に適合し,レシピ(イ)の松田式等は測地データや変動地形学等から推定される「均質な震源断層」に適合する.地震観測記録のない原発の審査で使われる「詳細な調査に基づく震源断層」は後者であり,「不均質な震源断層」は事前には推定できず,レシピ(イ)を用いるしかない.ところが,広島地裁決定は,「入倉・三宅式を適用したことが合理性を欠くものとはいい難い」とする一方,確信を得るためには慎重な吟味が必要だとしながら,「保全手続きにはなじまない」と司法の責任を放棄した.
(5)伊方3 号の断層モデルによる地震動評価では,Fujii-Matsu’ura(2000) と壇ら(2011) の応力降下量を用いているが,いずれも,「均質な震源断層」と「不均質な震源断層」のデータを混在させて得た結果であり,その妥当性には疑問がある.しかも,断層幅が15km のシミュレーション結果を11~13km 幅の横ずれ断層が主な中央構造線断層帯に準用したものであり,応力降下量を過小設定している.広島地裁決定は,54km モデルをすべり量の飽和した長大な断層と見なすかどうかなど債務者の想定の合理性について「確証を得るには慎重な検討が必要」としながら,「仮処分手続きにはなじまない」と,ここでも司法の責任を放棄した.
(6)広島地裁決定は,偶然的不確実さと認識論的不確実さを分類して評価する必要性を認めながら,偶然的不確実さについては全く言及せず,無視している.両者を分離して定量的に評価した最近の研究では,偶然的不確実さは「平均+標準偏差が平均の1.75 倍になる」との結果が出されており,認識論的不確かさの精度を考慮すれば,「平均+標準偏差を少なくとも平均の2 倍」とみなし,余裕をもった地震動評価にすべきである.

経団連の1月16日提言を受け、中間取りまとめに対する9つ目の意見を出しました

経団連による1月16日の提言=「電力システム改革貫徹のための政策小委員会(貫徹小委)」の中間取りまとめに対する提言を受け、9つ目の意見を出しました。経団連は「原発再稼働が進まない中では、非化石電力が不足し、電気料金全体の上昇の懸念があるとして、平成29年度の市場創設には反対」(産経新聞2017/1/16)しているようですが、これは原発が再生可能エネルギーの普及を妨げているからです。それを指摘するための意見を下記のように提出しました。

「2.5. 非化石価値取引市場の創設」(pp.11-15)について

非化石価値取引市場の創設については、「エネルギー供給事業者による非化石エネルギー源の利用及び化石エネルギー原料の有効な利用の促進に関する法律(以下、「高度化法」という。)により、小売電気事業者は、自ら調達する電気の非化石電源比率を2030年度に44%以上にすることが求められている。(中略)取引所取引の割合が比較的高い新規参入者にとっては特に、非化石電源を調達する手段が限定される状況になっており、高度化法の目標達成が困難な面がある。」(p.11)ことから、「(1)非化石価値を顕在化し、取引を可能とすることで、小売電気事業者の非化石電源調達目標の達成を後押しするとともに、(2)需要家にとっての選択肢を拡大しつつ、FIT制度による国民負担の軽減に資する、新たな市場である非化石価値取引市場を創設することが適当である。」(pp.11-12)とされている。後者の(2)については市場の設計と運用次第で国民負担軽減に寄与すると期待されるが、前者の(1)は政府のエネルギー基本計画に強く依存しており、再生可能エネルギーを大幅に拡大するように変更しない限り、実現できない。

とくに、「非化石証書に関して、その由来する非化石電源種は再生可能エネルギー、原子力が考えられる」(p.13)としているが、「震災前の設備利用率で廃炉になっていない全原発が稼働する」ことを想定した上で再生可能エネルギーの「接続可能量」が毎年設定されており、これを超える場合には「無制限の出力制限」が行われるため、再生可能エネルギー開発事業者は再エネの設置拡大を抑制せざるを得ない状況に置かれている。原子力については、国民の過半数が再稼働に反対しているにも係わらず、原子力が再生可能エネルギーの拡大を政策的に抑制しているのである。

原子力を非化石電源種と見なして「非化石証書」の発行を認めるのは、再生可能エネルギーの普及拡大を妨げるものであり、原子力を「非化石証書」の対象から外すべきである。そして、原子力が再生可能エネルギー普及の桎梏となっている現状を打開するため、エネルギー基本計画を抜本的に改定し、2030年の原子力の比率をゼロにするよう勧告すべきである。そうしない限り、再生可能エネルギーの抜本的拡大は望めないし、「非化石証書」が「非化石電源比率を2030年度に44%以上にする」目標達成に寄与することもできない。

原子力は、発電時にCO2を出さないとされるが、核燃料サイクル全体ではかなりの電力を消費しCO2排出源にもなっているし、発電すれば確実に極めて危険な「死の灰」や超ウラン元素が生み出される。この「負の遺産」はCO2以上に深刻な環境破壊をもたらす源泉であり、福島第一原発事故のように原発重大事故の際には直接的な原子力災害をもたらす。それを実際に経験した日本で、原子力を再生可能エネルギーと同列に置き、「非化石電源種」とみなして「非化石証書」まで発行させるのは余りにも非常識であり、許されることではない。福島の原子力被災者を前にして「原子力は非化石電源種だ」と主張できる鉄面皮な人間はいないはずである。

「FIT電源については、2017年度に発電したFIT電気から市場取引対象とし、できるだけ早い時期に取引を開始できるよう詳細設計・システム対応等に努めることとする。」(p.29)としているが、同時に「接続可能量」の撤廃による再生可能エネルギーの普及拡大を政府に勧告すべきである。経団連は原発再稼働の見込みが乏しいことから2017年度の市場創設に反対しているが、むしろ、逆に、市場創設により、非化石証書の絶対数が不足している現状を浮きださせ、再生可能エネルギーの普及を原子力が妨げている事実を明らかにし、再生可能エネルギー普及に向けたエネルギー基本計画の抜本的改定を求めるべきである。これなくして、非化石価値取引市場は機能せず、意味をなさないのだから

 

「電力システム改革貫徹のための政策小委員会中間とりまとめ」に8つ目の意見を出しました

「電力システム改革貫徹のための政策小委員会中間とりまとめ」に8つ目の意見を出しました。

「2.2. ベースロード電源市場の創設」(pp.3-7)について

中間取りまとめにおけるベースロード電源市場創設の最大の理由は、「石炭や大型水力、原子力等の安価なベースロード電源」に対する「旧一般電気事業者と新規参入者のベースロード電源へのアクセス環境のイコールフッティングを図ること」である。しかし、これは時代遅れであり、自由な電力市場という考え方にもそぐわない。第1に、「活発な競争が行われている自由化先進国」では「ベースロード電源」という位置づけをなくす方向であり、ドイツ等では「脱原発」を国家の政策として掲げて原子力をなくす方向をとっている。「卸電力市場の流動性」を高めることこそが重要であり、そのためには旧一般電気事業者の電力のほとんどを卸電力市場に供出させ、すべての小売り事業者が卸電力市場で電力を調達できるようにする仕組みをこそ検討すべきである。そうでなければ、「スポット市場における取引量の国内電力消費量に占める割合」を「英国:約51%(2013年度)、北欧:約86%(2013年度)、フランス:約25%(2015年)」(p.3注)のように高めることはできない。第2に、中間とりまとめでは「同市場に供出することができる電源種は基本的には限定しないこととする。」(pp.4-5)ともしており、そうであれば、「ベースロード電源」という名称は全く不要であり、電源種を問わない「卸電力市場」に旧一般電気事業者から電力を供出させる仕組みをこそ検討すべきである。第3に、原子力を「安価なベースロード電源」と位置づけるのであれば、「3.2. 原子力事故に係る賠償への備えに関する負担の在り方」、「3.3. 福島第一原子力発電所の廃炉の資金管理・確保の在り方」および「3.4. 廃炉に関する会計制度の扱い」は全面的に削除すべきである。なぜなら、原子力が安価な電源であるというのであれば、原子力に特段の優遇措置を講じる必要は認められないからである。また、国民の過半数が原発の再稼働に反対している現状からすれば、原発再稼働を前提にして、原子力による電力を「ベースロード電源市場」や卸電源市場に強制的に供出させることは断じて行うべきではない。第4に、石炭火力についても、国際的には石炭火力を削減する方向であり、これをベースロード電源として積極的に活用する政策を打ち出すのはパリ協定締約国として恥ずかしい。最も安価な大型水力を除けば、中間とりまとめが念頭に置いている「ベースロード電源」は原子力と石炭火力であり、「脱原発・脱石炭」の国際的な流れに反する。以上より、「ベースロード電源市場の創設」を断念し、原子力と石炭を可能な限り速やかに削減していくような電力市場の設置・運営方針を検討し直すべきである。

また、本来、東京電力や原子力事業者が負担すべき福島原発事故関連費や廃炉関連費を託送料金によって新電力契約者からも徴収する仕組みを導入するに際して、その代償として原子力の電力を新電力にも提供するとしているが、これは筋が違うので、全面的に撤回すべきである。むしろ、新電力が原子力にアクセスできないようにすべきである。新電力へ契約変更した家庭(低圧電力消費者)の多くは原子力を拒否したいのだから。

たとえば、「3.2. 原子力事故に係る賠償への備えに関する負担の在り方」の「(3)留意事項」には「原子力に関する費用について、託送料金の仕組みを通じた回収を認めることは、結果として、原子力事業者に対し、他の事業者に比べて相対的な負担の減少をもたらすものである。このため、競争上の公平性を確保する観点から、原子力事業者に対しては、例えば、原子力発電から得られる電気の一定量を小売電気事業者が広く調達できるようにするなど、一定の制度的措置を講ずるべきである。」(p.20)としているが、「競争上の公平性を確保する観点」と「原子力へのアクセス確保」は無関係である。家庭の電力消費者から見れば、原子力事業者でない新電力の魅力は「再生可能エネルギーなど原子力以外の電力を供給」している点にあるからである。「原子力事故に係る賠償への備えに関する負担」を新電力に義務づけるのをやめ、新電力の原子力へのアクセスを不可能にし、旧一般電気事業者には原子力と石炭火力以外の電力の卸電力市場への供出を措置すべきである。

「3.4. 廃炉に関する会計制度の扱い」の「(3)留意事項」でも「発電に係る費用については、本来、発電部門で負担すべきであり、託送料金の仕組みを利用して廃炉会計制度を継続することは、制度を適用した事業者と他の事業者との公平な競争環境を損なうこととなる。(中略)原子力発電から得られる電気の一定量を小売電気事業者が広く調達できるようにする」(p.24)としているが、これも同様である。

電力システム改革貫徹のための政策小委員会 中間とりまとめに対する7つめの意見を提出しました

「3.4.廃炉に関する会計制度の扱い (2)原子力発電施設解体引当金について」(p.25)の「(参考図18)見直しのイメージ」には、「引当方法は、定額法を維持し、引当期間を40年に前倒した上で全額を事業者の負担で引当て。ただし、運転期間の延長が認められた場合には、適切な費用配分の観点から、その時点で引当期間を60年に延長することを認める。」とある。これでは、早期廃炉にして廃炉会計制度の対象とする(解体引当金残額を10年間で分割回収する)よりも、新規制基準適合のための対策工事を行って運転期間を60年に延長させるほうが有利になる。高浜1・2号や美浜3号のように、40年を超えて運転を続けようとするものに対しては、早期廃炉にしないのだから、例外なく、引当期間を40年に前倒しすべきである。
とくに、廃炉会計制度によるコスト回収が託送料金を通じて行われることになれば、巨額の対策工事費を費やしても、運転60年またはそれ以前に廃炉になっても、その時点で未償却資産はすべて、廃炉後10年間での定額償却と確実なコスト回収が保証されることから、早期廃炉への動機付けはますます失われる。
いやしくも、早期廃炉への動機付けを主張するのであれば、「運転期間の延長が認められた場合には・・・引当期間を60年に延長することを認める」とのただし書きは撤回すべきである。
また、廃炉会計制度によるコスト回収を託送料金に転嫁して行う方針は、高浜1・2号や美浜3号で典型的に見られたように、巨額の工事費を要する40年超運転への動機付けを一層高めるものであり、撤回すべきである。
電力自由化の下では、廃炉会計制度の対象となるものも含めた、すべての原発コストについて、電力市場で決まる電気料金で回収すべきである。それが困難だというのであれば、電力会社が自ら原発の40年超運転を断念すべきである。早期廃炉を決断した場合にも、廃炉後の未償却資産の長期分割回収を認めて特別損失の一括計上を求めないことはあっても、それを託送料金に転嫁して確実に回収するようなことを保証すべきではない。それは電力自由化の考えに反するからである。