意見:再生可能エネルギーについて、第六次エネルギー基本計画では「主力電源として最優先の原則の下で最大限の導入」とされていたが、第7次エネルギー基本計画(案)では「最優先の原則の下で」が削除された。また、「再生可能エネルギーを主力電源として最大限導入するとともに、特定の電源や燃料源に過度に依存しないようバランスのとれた電源構成を目指していく。」とされ、再エネに過度に依存しない枠内での「最大限導入」であることが明示されている。これでは、「再エネを主力電源として最大限導入」することなどできない。欧州連合EUでは、2001年EU再エネ指令で「再エネ優先給電」を義務化するとともに再エネ目標を明記し、2009年電力指令で送電部門の所有権分離、ITO型分離、ISO型分離のいずれかを義務付け、これらを車の両輪として、太陽光や風力など再エネを抜本的に拡大してきた。ところが、日本では、原子力や石炭火力などのベースロード電源を優先させ、送電部門を法的分離に留め、電力会社による電力市場支配を容認し続けている。再エネを主力電源として最大限導入するためには、EUのように「再エネ優先給電」へ転換し、「送電部門の所有権分離」を断行する以外にない。でなければ、再エネはほとんど進まず、日本は再エネ後進国へ転落し、石炭火力やLNG火力に大きく依存し続けることになる。2050年カーボンユートラル実現に向けて第7次エネルギー基本計画が歴史的に最重要な計画になることを改めて認識し、抜本的な転換を図るべきである。
理由:欧州連合EUでは電力指令が3回出されている。1996年第1次電力指令では送電部門の「会計分離」、2003年第2次電力指令では「法的分離(資本関係のある別会社化)」、2009年第3次電力指令では「所有権分離、ITO型分離(法的分離だが、所有権分離に相当する厳しい行為規制・役職者就任条件・中立性を担保するための役職者設置で中立性を確保)、機能分離(送配電設備の所有権を残したまま運用・整備計画を独立系統運用機関ISOに移譲、ISO型分離ともいう)」のいずれか」が義務付けられた。これら3つの電力指令に符合して、2001年と2009年に再エネ指令が出された。2001年第1次再エネ指令では、電力消費に占める再エネの目標が明記され、再エネの優先給電(Priority Dispatch,)が義務化され、再エネの優先アクセス(Priority Access, 送電線への接続手続きの優先、電力市場への優先送電、送電線逼迫時の優先送電)が選択可能とされた。2003年第2次再エネ指令では、最終エネルギー消費に占める再エネの目標(国別)が明示され、再エネの「優先給電」義務化に加えて、再エネの優先アクセス(Priority Access, 系統接続された再エネの電力市場への接続ルールに則った送電:定義が微修正された)か、保証アクセス(Guaranteed Access, 系統接続された再エネの電力市場への最大限の送電)か、いずれかの導入が義務化され、優先接続(Priority Connection, 接続されていない再エネの送電線への優先接続)の導入も選択可能とされた。
このように、EUでは、電力需要を再エネで優先的に満たす優先給電の義務化、それを送配電網の利用を通じて実現するための優先アクセス/保証アクセスの義務化によって再エネの急速な拡大が図られたのである。前者の「優先給電」は再エネの限界費用ゼロの特性とメリットオーダーによる給電によって、後者の「優先アクセス/保証アクセス」は所有権分離による送電部門の中立化によって担保され、実現された。要するに、電力需給面での「再エネの優先給電」と送電線による電力送電面での「送電部門の所有権分離=中立化」は車の両輪であり、これらがEUでの再エネの急拡大を推し進めたと言える。
ところが、日本では、原子力や石炭火力等のベースロード電源が優先され、再エネが出力制御されている。その出力制御ルールは、(1)火力(石油、LNG、石炭)の出力制御、揚水・蓄電池の活用、(2)他地域への送電(連系線)、(3)バイオマスの出力制御、(4)太陽光、風力の出力制御、(5)長期固定電源(水力、原子力、地熱)の出力制御となっている。真っ先に火力が出力制御されるとはいえ、太陽光・風力のように発電停止になるのではなく、契約された最低出力率(石炭火力の6割弱が31%以上の出力)まで低減されるだけで、51%以上の出力までしか出力制御されない石炭火力が2割程度もある。原子力は全く出力制御されないため、原発の再稼働が進むほど、再エネの出力制御量が増え続ける。しかも、太陽光発電で出力制御の最も多い第1四半期(4~6月)は太陽光発電量の最も多い時期でもあり、出力制御の影響は極めて大きい。再稼働される原発が増え、アンモニア混焼で石炭火力が延命されればされるほど、再エネの出力制御も長期化し、再エネが増えるに伴って出力制御量も増えていき、それが再エネの「最大限の導入」にブレーキをかける。第7次エネルギー基本計画(案)では「再生可能エネルギーか原子力かといった二項対立的な議論ではなく、再生可能エネルギーと原子力をともに最大限活用していくことが極めて重要」、「バランスの取れた電源構成の確保を目指」すというが、現実そのものが二項対立的になっている。
この悪循環を断ち切るには、エネルギー基本計画を「ベースロード電源(原子力と石炭火力)重視」から「再エネ優先給電」へ転換させることが不可欠である。それを送電面で保証するために「送配電子会社の所有権分離」が必要であり、少なくともITO型分離が不可欠である。出力制御ルールの(4)と(5)を逆転させれば、石炭火力の廃止が加速され、原発再稼働も抑制される。原子力の「出力変動運転」が必要となれば、「連系線による域外送電や系統接続蓄電池」の増強で事実上可能だ。再エネ用を原子力用と見なせば済み、柔軟性のない原子力の統合コストが最も高くなる。脱原発による再エネ拡大しか解決の道はない。