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美浜3号の審査書(案)への意見を4通提出しました

美浜3号の審査書(案)への意見を4通提出しました。

美浜3号の場合には断層が傾斜して交叉しているため、単純な入倉式批判は通用しません。簡単に補足しておきます。

美浜3号の場合は「C断層」と「大陸棚外縁~B~野坂断層」が基準地震動を規定する主な断層ですが、「C断層」は震源断層が外側へ傾斜して交叉するため断層面積が広がっており、「大陸棚外縁」部分は逆に内側へ傾斜して交叉するため断層面積が狭くなっています。松田式では地表断層長さではなく地下の震源断層の長さをとるように旧原子力安全委員会で確認されていますが、関西電力や原子力規制委員会・規制庁は地表断層長さを用いています。
地下の震源断層平均長さを用いると、「C断層」では18kmから20.6kmへ長くなり、地震規模もM6.9からM7.0へ増えます。「大陸棚外縁~B~野坂断層」では逆に49kmから40.4kmへ短くなり、M7.7からM7.5へ小さくなります。

地震動評価は、「C断層」では断層モデルで最大993ガルに対し、耐専スペクトルは約670ガルで、耐専スペクトルの方が小さく、スペクトル全体でも明らかに差があります。断層長さを変えてM7.0にすると、耐専スペクトルが約720ガルになって断層モデルに近づき、スペクトル全体の差が縮小します。
「大陸棚外縁~B~野坂断層」では、断層モデルで最大815ガルですが、耐専スペクトルは「極近距離からの乖離が大きい」との理由で「適用外」にされ、採用されていません。ところが、断層長さを変えてM7.5にすると約900ガル(元のM7.7では約1100ガル)になり、極近距離との乖離がC断層と同程度に小さくなるため採用しない理由がなくなります。耐専スペクトルとして900ガルを採用させ、断層モデルでレシピ(イ)を採用させると応力降下量が1.6倍になって、1200ガル程度に上がりますが、スペクトル全体では耐専スペクトルとの差は小さいと思われます。(C断層ではレシピ(ア)と(イ)で大差はありません)

—–<意見1>————————————————–
(16-18ページ)
「C断層」と「大陸棚外縁~B~野坂断層」では震源断層が傾斜して交叉しており、地下平均断層長さは地表断層長さとは異なっており、松田式で地震規模を算定する際には地下震源断層の平均長さを用いるべきである。これは、旧原子力安全委員会での審議結果を受けてそのように改訂されたものであり、これに従うべきである。
また、入倉式では地震規模が過小評価される傾向があるため、とりわけ「大陸棚外縁~B~野坂断層」では地震調査研究推進本部のレシピ(イ)を用いるべきであり、そうすれば、国内地震観測記録に基づく耐専スペクトルと同等の地震動評価結果になる。
以下、具体的に述べる。
(1)美浜3号の「C断層」では、断層が60度傾斜し外側へ広がる形で交叉しているため、地表断層長さより地下震源断層の平均断層長さの方が大きい。耐専スペクトルの方が断層モデルよりやや小さくなっている。このため、耐専スペクトルのほうが断層モデルによる地震動評価結果より小さくなっている。
これは耐専スペクトルの地震規模を求める際に地下震源断層の平均断層長さを用いていないからであり、地表断層長さ18kmからは松田式でM6.9となるが、地下震源断層の平均断層長さ20.6kmを用いればM7.0になる。
したがって、耐専スペクトルをM6.9からM7.0へやや大きくすべきであり、そうすれば、両者がほぼ一致する。
この場合には、断層が外側へ傾斜して断層面積は大きくなっているため入倉式でもほぼM7.0になり、地震調査研究推進本部(推本)のレシピ(ア)と(イ)でほとんど結果は変わらない。
(2)「大陸棚外縁~B~野坂断層」では「大陸棚外縁断層」の部分が60度傾斜し内側に交叉しているため、地表断層長さより地下震源断層の平均断層長さのほうが小さい。
耐専スペクトルはC断層と同様に地下震源断層の平均長さを用いるべきであり、そうすればM7.7(断層長さ49km)からM7.5(同40.4km)と小さくなり、C断層と同等に極近距離からの乖離が小さくなるため、これを「適用外」にする根拠はなくなる。
これを適用すれば900ガル程度の耐専スペクトルになり、Ss-1を現在の750ガルから900ガル以上へ引上げる必要がある。断層モデルでは、入倉式では地震規模がM7.4に留まり、また、Δσa=12.2MPaにすぎないため1.5倍にしても18.3MPaに留まり、20MPaを超えない。
これは「1.5Δσaもしくは20MPaとする」方針に違反している。
推本のレシピ(イ)によれば、地震規模をM7.5として、Δσ=3.5MPa、Δσa=19.5MPa(Sa/S=0.22と設定)となり、1.6倍になる。そうすれば、耐専スペクトルと断層モデルの地震動評価結果はほぼ同等になる。
このように、地震動評価結果は国内地震観測記録に基づく耐専スペクトルと断層モデルがほぼ一致するのが当然であり、大差が出ているのがおかしいのである。美浜3号では、C断層で耐専スペクトルを採用し、「大陸棚外縁~B~野坂断層」で適用外にしているが、上述のように断層長さを正しく取り直せば適用外にする理由はなく、これを採用し、Ss-1を900ガル以上へ、断層モデルによる地震動評価結果を1.6倍へ引上げるべきである。

—–<意見2>————————————————–
(18-20ページ)
原子力安全基盤機構JNESによる「M6.5の地震動解析結果」は2004年北海道留萌支庁南部地震および2016年熊本地震の2つの地震観測記録によってその正しさが裏付けられており、JNESによる1,340ガルの地震動を「震源を特定せず策定する地震動」に採用すべきである。
原子力安全基盤機構JNESは「震源を特定しにくい地震による地震動の検討に関する報告書(平成16 年度)」(2005.6)の中で、国内地震データに合わせて独自の断層モデルを構築し、震源近傍の地震動評価を行っている。
その結果、横ずれ断層によるM6.5の地震において、震源近傍の地震基盤(せん断波速度Vs=2600m/s)表面で1,340.4ガルの地震動になるとしている。この地震動解析結果が単なる解析ではなく、実際の地震観測記録によっても裏付けられる。
第1に、2004年北海道留萌支庁南部地震M6.1の地震動とJNESによる縦ずれ断層M6.0ないしM6.5の地震動評価(最大値)が良くあっている。これは原子力規制庁も認めているところである。
第2に、2016年熊本地震の益城観測点での地下地震観測記録はぎとり解析概算約470ガル(南北237ガルを約2倍にしたもの、新潟県中越沖地震での柏崎刈羽原発サービスホールのはぎとり解析では約1.7倍だったが、1.7倍でも400ガルになる)はJNESの解析結果(加速度分布図上の位置と値)とよく合っている。これも原子力規制庁が認めるところである。
ただし、原子力規制庁ははぎとり解析を行う予定はないとしているが、はぎとり解析を行ってこれを正確に確認し、基準地震動策定に生かすべきである。そうすれば、「震源を特定せず策定する地震動」にJNESの1,340ガルの地震動を採用すべきであることがより明確になる。
美浜3号のクリフエッジは1,320ガル(関西電力による第一次評価結果2011.12)であり、JNESの1,340ガルの地震動はこれ以上である。美浜3号の基準地震動にJNESの1,340ガルの地震動を採用すれば、美浜3号の再稼働など認められないはずである。

—–<意見3>————————————————–
(16-21ページ)
断層モデルが耐専スペクトルと比べてかなり小さい場合には、入倉式による断層モデルのレシピ(地震調査研究推進本部のレシピの(ア)の方法)が地震動を過小算定した結果であり、推本のレシピの(イ)の方法を用いて地震動評価をやり直し、耐専スペクトルと同等のレベルにまで地震動評価を大きくすべきである。その理由は以下の2つである。
(1)耐専スペクトルは国内地震観測記録に基づいて、その平均像を求めるものであるのに対し、断層モデルはシミュレーションに過ぎず、パラメータ次第でどのようにでも操作できるからである。
断層モデルによる地震動評価結果が耐専スペクトルよりかなり小さい場合には地震動を過小評価しているといえる。耐専スペクトルには最近の震源近傍での大きな地震観測記録が反映されていないため、耐専スペクトルそのものが震源近くで過小評価になっている可能性が高く、震源近くでは地震動を一層過小評価している可能性が高いといえる。
(2)不確実さ考慮における「短周期レベル1.5倍」と「応力降下量1.5倍(20MPaより小さい場合は20MPaとする)」は、2007年新潟県中越沖地震の震源特性が通常の地震より1.5倍大きかったという経験に基づいている。
具体的には、「震源距離200km以下で、S波速度700m/s以上の地層が存在し、第三紀以前の地質条件」という条件に合う広域観測記録(K-NET、KiK-net 地表記録)のはぎとり波の応答スペクトルが耐専スペクトル(内陸補正なし)と同等であったという事実に基づいている。つまり、断層モデルによる地震動評価が耐専スペクトルよりかなり小さい状態で応力降下量と短周期レベルを1.5倍にしても意味がない。
美浜3号の場合には、「大陸棚外縁~B~野坂断層」の耐専スペクトルが極近距離よりかなり乖離していることから「適用外」としているが、耐専スペクトルを採用し、断層モデルによる地震動評価結果が過小になっている場合には、推本のレシピ(イ)を用いで地震動評価をやり直すべきである。
このレシピ(イ)について、原子力規制庁は7月27日規制委本会議で、「どのように保守性を確保していくか(断層長さの設定(連動の考慮を含む)、各種の不確かさの取り方等)に関し、妥当な方法が現時点で明らかになっているとは言えず、規制において要求または推奨すべきアプローチとして位置付けるまでの科学・技術的な熟度には至っていないと考える」とケチを付け、
その後の記者ブリーフィングでも、「(ア)の方法(推本の入倉式に基づくレシピ)は福岡県西方沖地震など大きな地震が起こるたびにシミュレーションと観測記録を比較してキチンと検証されてきたが、(イ)の方法は検証されていない。
そういう点では地震動評価として用いるにはアの方が適切だと考えている」と主張しているが、嘘をつくのはやめるべきである。
震源断層の推定法は,推本による「活断層の長期評価手法」報告書(暫定版)(2010.11.25)に則って行われており、地震動評価に際して推本のレシピの(ア)と(イ)のどちらを用いるのかとは別問題である。ただし、入倉式による(ア)のレシピを用いる場合には、事前に当該震源断層における地震観測記録が得られていない限り、入倉式に必要な「地下のすべり量分布に基づく不均質な震源断層の広がり」を算出する術はなく、「活断層評価や変動地形学等の測地データに基づく均質な震源断層の広がり」に基づく地震動評価に対しては、(イ)のほうが適切だと言える。
また、推本は2000年鳥取県西部地震や2005年福岡県西方沖地震などの大地震の地震観測記録に基づいてレシピの検証を行い、
「これらの報告を踏まえ、断層モデルの設定において、『長期評価』のマグニチュードと整合し、かつ、簡便な手順でパラメータを設定できる手法を用いて強震動評価を行い、その妥当性を検討した」のが「警固断層帯(南東部)の地震を想定した強震動評価」であり、
その手法が修正レシピである。規制庁は事実関係を逆転させて捉え、大嘘をついているが、このような国民をだます主張は撤回し、レシピ(イ)を採用すべきである。

—–<意見4>————————————————–
(16-21ページ)
耐専スペクトルは国内地震観測記録に基づき、その平均像を求めるものであり、そのバラツキは大きく、「平均+標準偏差」は平均の2倍にもなる。地域性などの認識論的不確実さは知見を重ねることで小さくできるが、偶然的不確実さは知見を重ねても小さくできず、その大きさをより正確に推定できるだけである。
内山・翠川(2013)は、防災科学研究所のK-NETおよびKiK-netを対象に,1996~2010年のMw4.5~Mw6.0かつ震源深さ100km以浅の地震で得られた強震記録、756地震40,193データ(165内陸地殻内地震8,431データ、439プレート境界地震22,242データ、152スラブ内地震9,520データ)という膨大な量の国内地震データを分析し、
最大加速度のばらつきは「平均+標準偏差」が平均の2.34倍になること、
地震間のばらつきの43%が偶然的不確定性によるものであることを導出している。
地震内のばらつきも同様になるとすれば、たとえ、不確かさの考慮によって認識論的不確定性によるばらつきをゼロにできたとしても、低減不可能な偶然的不確定性によるばらつきは「平均+標準偏差」が平均の1.75倍になる。
認識論的不確実さをゼロにすることは至難であり、その残余を含めると「平均+標準偏差」は平均の約2倍になると言える。つまり、耐専スペクトルは平均像を示すものにすぎないため、実施の地震動のバラツキを考慮すれば、2倍にする必要があるということになる。この最新の知見を考慮して、美浜3号の耐専スペクトルについても、基準地震動を作成する際には2倍にすべきである。
断層モデルについても、統計的グリーン関数法を用いた断層モデルによる地震動評価時には、要素地震を50個ほど確率論的に作成して地震動を求め、その平均スペクトルに近いメジアンの地震波を代表波としているが、これも平均像に過ぎない。
断層モデルについても代表波の振幅を2倍にして耐専スペクトルと同様の余裕を確保すべきである。
このように、耐専スペクトルや断層モデルで2倍にしても平均+標準偏差のバラツキを考慮したに過ぎないが、美浜3号の現在の基準地震動を2倍にするだけで、美浜3号のクリフエッジ1,320ガル(関西電力によるストレステスト一次評価結果2011.12)をこえるため、再稼働できないはずである。

川内原発1・2号運転差止訴訟(本訴)裁判体(鹿児島地裁民事1部の合議体)へ意見書を提出しました

川内原発1・2号運転差止訴訟(本訴)裁判体(鹿児島地裁民事1部の合議体)へ意見書を提出しました。(pdfはこちら)

福岡高裁宮崎支部の仮処分決定が見逃した重大な事実および2016年熊本地震と島崎氏の問題提起で暴かれた適合性審査の過誤・欠落
2016年8月10日 大阪府立大学名誉教授 長沢啓行

1 はじめに
2 福岡高裁決定における誤認定
 2.1 求められる安全性のレベル
 2.1.1 人格権侵害は万が一にも容認できない
  2.1.2 人格権侵害が容認される安全性のレベル
  2.1.3 十二分の余裕と見落としの可能性に配慮
 2.2 審査基準と適合性判断の評価
 2.3 基準地震動における不確かさ考慮
 2.4 偶然的不確定性は低減できない
  2.4.1 福岡高裁決定の誤った事実認定
3 暴かれた「入倉式による過小評価」と「原子力規制委員会の動揺」
 3.1 島崎邦彦氏の問題提起
 3.2 2016年6月10日改訂の新レシピ
 3.3 原子力規制庁による「改ざんレシピ」
 3.4 大飯3·4号の基準地震動への影響
 3.5 高浜3·4号の基準地震動への影響
 3.6 川内1・2号の基準地震動への影響
 3.7 修正レシピを使わない規制庁の理由
4 2016年熊本地震の教訓
5 結言

1 はじめに

2016年4月6日の福岡高裁決定は川内1·2号の運転差止仮処分に係る即時抗告を棄却した.
しかし,その直後から4ヶ月間に起きた出来事は,福岡高裁決定が誤った事実認定に基づいていることを誰の目にも分かる形で明らかにした.
決定が4ヶ月遅ければ,真逆の結論が出されていたに違いない.
この意見書では,その全貌を明らかにする.
福岡高裁決定から8日後の4月14日,2016年熊本地震が同決定に警告を発した.
(a)熊本地震の前震であるM6.5の地震で1,000ガル超(はぎとり波換算)の地震動が起きた可能性があり,原子力安全基盤機構JNESによる1,340ガルの地震動解析を裏付けている.
(b)益城観測点の地下地震観測記録のはぎとり波概算(2倍)が川内1·2号の周期約0.2秒付近で基準地震動を超えた.
(c)地震動評価手法の一つである耐専スペクトルが0.1秒以上の周期帯で大幅な過小評価になっている.5月23日の原子力規制庁と市民団体との話合いでは,これらが具体的に示され,原子力規制庁は事実として認めながら,「現時点では即対応すべきとは考えていない.」「現時点で,詳細はぎとり波解析をやるというところまで知見収集も至っていない.」と逃げ,新しい知見を積極的に取り入れる気概を示さなかった.
また,同話合いでは,福岡高裁で私が「審査の根本的な過誤,欠落」として示し福岡高裁決定が無視したこと,すなわち,「アスペリティ平均応力降下量を15.9MPaから25.1MPaに引上げても短周期側の地震動評価は変わらないという九州電力の説明は根本的に誤っている」ことを原子力規制庁が遂に認めた.
前原子力規制委員長代理の島崎邦彦氏の問題提起を受けた6月16日原子力規制委員会との面会に始まり,7月13日規制委本会議での「基準地震動を見直さないとの決定」,翌日の島崎氏による抗議の手紙,19日の2回目の会見,20日規制委本会議での「決定の白紙」化,7月27日規制委本会議での再「決定」という一連のドタバタ劇が国民の面前で演じられた.
地震調査研究推進本部が6月10日に改訂した断層モデルの新レシピは,電力会社の行ってきた応力降下量設定法の誤りを正し,島崎氏による問題提起を後押しした.
結果として,次のことが明らかになった.
(1)島崎邦彦氏の問題提起と6月10日改訂の新レシピによれば,入倉式を用いた地震動評価は過小評価であり,地震調査研究推進本部による松田式を用いた修正レシピで地震動を見直せば,耐専スペクトルの1/2程度だった断層モデルによる地震動評価が耐専スペクトルに近づき,両者で差がなくなる.
(2)その結果,大飯原発では,断層モデルによる地震動評価結果が,修正レシピで1.5倍強へ引き上げられ,1,260ガルのクリフエッジを超える可能性が高く,再稼働できなくなる.
川内原発では,修正レシピを断層幅の拡大に限定して適用すれば,約25kmの市来断層帯市来区間の地震動評価結果は約1.6倍になり,一部の周期帯で基準地震動Ss-1を超えるため,基準地震動の見直しが避けられない.
(3)原子力規制庁は推本のレシピを改ざんし,関西電力の地震動評価法とは異なる方法で,「関西電力の6割にしかならない『入倉式による地震動評価結果』」を示し,「武村式ではその1.8倍になるが,関西電力の基準地震動を超えない」という結果を規制委に示した.
しかし,規制委員の誰もその情報操作に気付かず,「決定白紙」化のドタバタ劇を演じた末に「基準地震動見直しは必要ない」と再び結論づけた.
まさに,「世界最高水準の規制基準による適合性審査」が,結論ありきの情報操作を行う規制庁とそれを見抜けない規制委員とで担われていること,入倉式による地震動過小評価と修正レシピによる地震動評価の有効性が示されたにもかかわらず,それを採用しようとしないことが白日の下にさらされた.
この意見書では,まず,福岡高裁決定の内容に則して,重畳された事実誤認を紐解き,福岡高裁の審尋の場で私が強調した「平均像からの標準偏差一つ分のバラツキが平均の2倍になる偶然的不確実さを考慮すべきこと」を裏付ける最新の知見を紹介する.
続いて,島崎氏による問題提起と新レシピが意味するところを整理し,原子力規制庁による情報操作を暴き出し,それを見抜けずに右往左往する原子力規制委員会の体たらくを明らかにする.
最後に,2016年熊本地震の警告を踏まえて川内1·2号の運転を即刻停止し,基準地震動を根本的に見直すべきことを事実に基づき主張する.

島根2号の基準地震動について広島高裁松江支部へ意見書を提出しました

中国電力島根1・2号運転差止請求控訴審に向け、
「島根2号」の基準地震動について広島高裁松江支部に意見書を提出しました。
(島根1号は廃炉になっていますので、差止請求は島根2号だけになっています)

島根2号の基準地震動は過小評価されている

2016年5月10日
大阪府立大学名誉教授
長沢啓行
 (pdfはこちら

[要旨]
島根2 号の基準地震動については,原子力規制委員会・原子力規制庁による2016 年3 月の事業者ヒアリング段階で議論がかなり煮詰まってきたことから,改めて精査し直した結果,依然として「震源を特定せず策定する地震動」と「震源を特定して策定する地震動」のいずれにも以下の通り重大な過小評価があることを明らかにした.
(1)「震源を特定せず策定する地震動」として,「2004 年北海道留萌支庁南部地震M6.1 の解放基盤波」が採用されている.この地震では,地震計の設置不足を補うため,地域地盤環境研究所が震源域内地震動を再現解析しており,その最大値は地震観測記録の1.8 倍になる.これを考慮すれば,留萌支庁南部地震の解放基盤波は1,100 ガル程度になり,島根2 号のクリフエッジ1,014 ガル(中国電力評価)を超え,炉心溶融事故は避けられない.
原子力安全基盤機構(現在は原子力規制庁)は国内地震観測記録に合う断層モデルで地震動解析を行い,M6.5 の横ずれ断層で1,340 ガルの地震動が起こることを明らかにしている.これを採用すれば,島根2 号のクリフエッジを一層大きく超える.
2016 年熊本地震の4 月14 日M6.5 の地震では震源断層近くで1,000 ガル超の地震動が発生した可能性があり,これを採用すれば,島根2 号のクリフエッジを超える.
(2)「震源を特定して策定する地震動」の基本震源モデルは「宍道断層」と「F-III~F-IV~F-V 断層」だが,耐専スペクトルと断層モデルによる地震動評価はいずれも過小評価になっている.
(2a) 800 ガルの基準地震動Ss-DH を規定しているのは「F-III~F-IV~F-V 断層(傾斜角60 度)」の耐専スペクトル(内陸補正なし)だが,「宍道断層」の全ケースおよび「F-III~F-IV~F-V 断層」のアスペリティ横長・縦長両ケースについては耐専スペクトルを「適用外」としており,「700 ガルを超える場合はすべて適用外」にしたと考えられる.
2000 年鳥取県西部地震の賀祥ダム観測記録は耐専スペクトルとの整合性が良く,これより等価震源距離が遠く,地震規模も小さい宍道断層の耐専スペクトルを適用外にする理由はない.これを適用すれば,1,200 ガル程度の耐専スペクトルになり,島根2 号のクリフエッジを超える.
2016 年熊本地震の益城観測点での地下地震観測記録によれば,耐専スペクトルの過小評価は明らかであり,日本電気協会で現在見直し作業中の耐専スペクトルに,熊本地震をはじめ最近20 年間の震源近傍での地震観測記録を早急に反映させ,改定後の耐専スペクトルを用いるべきである.
耐専スペクトルは平均的な応答スペクトルにすぎず,「低減できない偶然的不確定性」等を考慮して,少なくとも2 倍の余裕を持たせるべきである.そうすれば,「F-III~F-IV~F-V 断層(傾斜角60 度)」の耐専スペクトルは1,200 ガル程度に引上げられ,島根2 号のクリフエッジを超える.
(2b) 断層モデルによる地震動評価は耐専スペクトル(内陸補正なし)の1/2 程度と小さく,明らかに過小評価である.
それは,中国電力が,地震調査研究推進本部による修正レシピを採用せず,国内の活断層とは条件の異なる北米中心の地震データに基づく入倉式で地震規模を半分程度に小さく算出しているためである.加えて,「F-III~F-IV~F-V 断層」では「長大な断層」とは言えないにもかかわらずFujii-Matsu’uraによる応力降下量を適用しているためである.修正レシピに基づき,M7 クラスの国内地震の経験から応力降下量を20~30MPa に設定すれば,断層モデルによる地震動評価結果も現在の1.5 倍ないし2 倍に大きくなり,現在の基準地震動を超えることは間違いない.
中国電力は認識論的不確定性については種々考慮しているが,偶然的不確定性については破壊開始点の違いしか考慮していない.偶然的不確定性等を考慮するためには,要素地震の波形を少なくとも2 倍にするなど余裕を持たせる必要がある.
そうすれば,断層モデルによってもクリフエッジを超えることは間違いない.
(2c)これらは,2008 年岩手・宮城内陸地震の1,078ガル(はぎとり波相当で約2,000 ガル)の地下地震観測記録など最近の地震観測記録とも整合している.つまり,最新の知見に基づいて基準地震動を保守的に策定し直せば,島根2 号のクリフエッジを大きく超えることは避けられない.
「規制の虜」を打開すべき司法の責任は重い.

伊方3号の基準地震動について松山地裁へ意見書を提出しました

伊方訴訟(四国電力株式会社に対する伊方原発運転差止請求事件)における地震動評価問題で松山地方裁判所民事第2部へ意見書を提出しました。
これは、2013年12月26日に提出した意見書に続き、原子力規制委員会の審査書が確定した現段階で、私の意見を取りまとめたものです。
福井地裁では2日前(2015年12月24日)に高浜3・4号の運転差止仮処分命令が取り消され、大飯3・4号と高浜3・4号のいずれについても運転差止仮処分申請が却下されましたが、極めて不当な決定です。
その翌日、私は当該決定へ批判文書を取りまとめ、若狭ネットニュース第158号に投稿しました。詳しくはそちらをご覧下さい。(pdfはこちら
この意見書は伊方3号に即した内容ではありますが、その大部分は当該決定への根底からの批判にもなっていると自負しています。
意見書pdf版はこちら 図表等の別冊はこちら (一部の数式等が表示されない場合には、再読込をして下さい)

「伊方3号の基準地震動は過小評価されている」
2015年12月20日
大阪府立大学名誉教授 長沢啓行 

[要旨]
原子力規制委員会は2015年7月15日,四国電力の伊方3号の原子炉設置変更許可(いわゆる再稼働認可)処分を行った.耐震設計の元になる基準地震動(水平方向)は,2013年7月8日申請時の570ガルから650ガルへ引上げられ,620ガルの「2004年北海道留萌支庁南部地震M6.1の解放基盤波」等が「震源を特定せず策定する地震動」による基準地震動として採用された.
しかし,依然として基準地震動は著しく過小評価されている.
「敷地前面海域断層群69km北傾斜モデル」には耐専スペクトルを適用しながら,「69km鉛直モデル」には耐専スペクトルが「適用外」とされ,耐専スペクトルの地震観測記録との2倍以上の差を考慮していない.
基本震源モデルとして敷地前面海域断層群(中央構造線断層帯)480kmを採用しながら,その断層モデルでは,応力降下量や短周期レベルを過小に設定して地震動を過小評価している.
その結果,断層モデルによる480kmモデルの地震動評価結果は,69km北傾斜モデルの耐専スペクトルより小さく,2004年北海道留萌支庁南部地震M6.1の解放基盤波と比べても小さくなっている.
原子力規制委員会は,この事実を知りながら,耐専スペクトルの「適用外」を認め,断層モデルのパラメータ設定の誤りに気付くことなく,再稼働許可を出したのである.
地震動評価を正しく行えば,基準地震動は伊方3号の「855ガルのクリフエッジ(炉心溶融事故へ至るギリギリの地震動)」を超える.再稼働どころか,伊方3号には廃炉こそがふさわしい.
1984年の伊方3号増設申請時から2013年7月の再稼働申請時点までの各段階において,敷地前面海域断層群の地震動を耐専スペクトルや断層モデルで評価する際に四国電力が行ってきた巧妙な過小評価の手口については,先の意見書(甲107)[38]で詳述した.
基準地震動に関する原子力規制委員会の審査が終了したことを受け,本意見書では,原子力規制委員会による「調査審議及び判断過程が適正を欠くものとうかがわれる事情」および「看過し難い過誤,欠落」に焦点を当てた.
その典型例として,四国電力が地震動評価手法を誤って適用し基準地震動を過小に策定していること,原子力規制委員会もその誤りに気付かず,または,パブリックコメント等で指摘されながら対応を不当にサボタージュし続けていることを具体的に示した.
基準地震動は「震源を特定せず策定する地震動」と「震源を特定して策定する地震動」で構成されるため,それぞれに分けて詳述した.
(1)「震源を特定せず策定する地震動」として,「2004年北海道留萌支庁南部地震M6.1の解放基盤波」が採用されている.
ところが,この留萌支庁南部地震においては,地震計の設置不足を補うため,地域地盤環境研究所が震源断層モデルを用いて地震観測点以外の震源域内での地震動を再現解析しており,その最大値は地震観測記録の1.8倍になる.
これを考慮すれば,留萌支庁南部地震の解放基盤波は1,100ガル程度になり,伊方3号のクリフエッジ855ガルを超える.
さらに,原子力安全基盤機構JNES(現在は原子力規制庁)は国内の地震観測記録を反映した独自の断層モデルによる地震動解析を行い,M6.5の横ずれ伏在断層で1,340ガルの地震動が起こることを明らかにしている.
これを基準地震動に採用すれば,伊方3号のクリフエッジを一層大きく超える.
(2)「震源を特定して策定する地震動」の基本震源モデルとして,敷地前面海域断層群(中央構造線断層帯)480kmが採用され,耐専スペクトルと断層モデルによる地震動評価がなされているが,いずれも過小評価になっている.
(2a)650ガルの基準地震動Ss-1Hを規定しているのは69km北傾斜モデルに対する耐専スペクトル(内陸補正なし)だが,69km鉛直モデルについては耐専スペクトルが「適用外」とされている.
これは,前者が650ガル弱で855ガルのクリフエッジを下回る一方,後者では900ガル程度となってクリフエッジを超えるからである.
また,ここには最近20年間の震源近傍での地震観測記録は反映されておらず,現在見直し作業中であり,改定後の耐専スペクトルを用いるべきである.
さらに,耐専スペクトルは平均的な応答スペクトルにすぎず,地域差以外の偶然変動によるバラツキをも考慮すれば,少なくとも2倍の余裕を持たせるべきである.
そうすれば,69km鉛直モデルで1,800ガル程度,北傾斜モデルでも1,300ガル弱になり,いずれにおいてもクリフエッジを超える.
(2b)断層モデルによる地震動評価は69km鉛直モデルの耐専スペクトル(内陸補正なし)の1/2程度と小さく,明らかに過小評価である.
四国電力は,断層幅を15kmと仮定した壇ら(2011)の手法を「平均断層幅12.7kmの480kmモデルにそのまま用いる」という誤りを冒しており,壇らの回帰線から外れてしまっている.
壇らの用いた国内9地震の平均断層幅が12.0kmであることから,回帰線に載るように断層幅を12kmとして応力降下量を調整すれば,応力降下量は(Δ;Δa)=(3.4MPa,12.2MPa)から(4.3MPa,19.5MPa)へ1.6倍に増え,短周期レベルも1.6倍になり,地震動評価結果は900ガル程度になってクリフエッジを超える.
これは断層モデルによる平均像の評価であり,「地域性とは異なる偶然変動」を考慮していないことから,要素地震の波形を少なくとも2倍にするなど余裕を持たせる必要がある.そうすれば,断層モデルにおいても1,800ガル程度の地震動評価が得られることになろう.
(2c)これらは,原子力安全基盤機構の独自の断層モデルによる1,340ガルの地震動解析結果とも,2008年岩手・宮城内陸地震の地中地震計による1,078ガル(3成分合成,基準地震動と同じ解放基盤表面はぎとり波相当で約2,000ガル)の地震観測記録等とも整合している.
つまり,「震源を特定せず策定する地震動」と「震源を特定して策定する地震動」のいずれにおいても過小評価されており,最新の知見に基づいて基準地震動を保守的に策定し直せば,伊方3号のクリフエッジを大きく超えることは避けられない.
以上のように,四国電力は基準地震動を過小に策定しており,原子力規制委員会はこれを追認し,基準地震動見直しのための対応をサボタージュし続けている.これは重大な瑕疵だと言える.
「15.7mの津波」を試算しながら経済的利益のためにこれを無視した東京電力,貞観津波の危険性に気づきながらこれを放置した原子力安全・保安院および原子力安全委員会−−−これらの過ちを繰り返してはならない.
フクシマを教訓として,再度の原発重大事故による人格権侵害を未然に防ぐため,司法に課せられた責任は重い.

鹿児島地裁と福井地裁へ意見書を提出しました

福井地裁は高浜3・4号の運転差止仮処分命令を出しましたが、関西電力は異議申立を行い、異議審が継続しています。また、鹿児島地裁は川内1・2号の運転差止仮処分申請を却下しましたが、原告が異議申立を行い、闘っています。これらを支援するため、鹿児島地裁と福井地裁へ意見書を提出しました。

<鹿児島地裁へ提出>
高浜3・4号と川内1・2号の真逆の仮処分決定が意味するもの
9月21日 大阪府立大学名誉教授 長沢啓行(一括ダウンロード16.4Mb

<福井地裁へ提出>
高浜3·4 号と大飯3·4 号の基準地震動は過小評価されている
10月1日 大阪府立大学名誉教授 長沢啓行(一括ダウンロード20.9Mb

福井地裁で10月8日に開かれた審尋では裁判官に「高浜・大飯原発における基準地震動の過小評価」について約60分間説得しました。私はできる限り目を合わせながら裁判官に語りかけました。裁判官は真剣に聞き入り、うなずきながらメモを取っていました。詳しくは若狭ネットニュース第157号をご覧下さい(一括ダウンロード14.5Mb