若狭ネット

福井と関西を結び脱原発をめざす市民ネットワーク

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ニュース

福井で8月27日「使用済燃料と核のゴミを考える市民シンポジウム」が開かれました

原発が生み出す問題
“使用済燃料”と“核のゴミ”を考える市民シンポジウム
2023年8月27日(福井県国際交流会館 特別会議室)
主催:サヨナラ原発福井ネットワーク

当日は、約40名(登壇者4名を除く)の市民が参加し、熱い質疑を交わしました。

第一部では、NUMOは「次の世代に負担を残さないためにも、原子力発電による電気を利用してきた私たちの世代でできるだけ早く処分に道筋をつけなくてはなりません。」と主張し、長沢氏は「地震・火山列島の日本に科学的有望地などない。使用済燃料など高レベル放射性廃棄物をこれ以上生み出さないことこそが現世代の責任だ。」と真っ向から対立。フィンランドやスウェーデンには19億年前の安定した岩盤が存在するが、日本には数百m地下にそんな岩盤はなく、260万年前~2,300万年前の地層などが「科学的特性マップ」として検討されているに過ぎない点が浮上し、質疑でも取り上げられました。さらに、ドイツのアッセII研究鉱山(岩塩層)では1967~78年に低・中レベル放射性廃棄物4.7万立方メートルの試験的処分が行われましたが、その30~40年後に、地下水が浸入する可能性が指摘され、ドイツ政府は2010年に回収を決定、汚染された岩塩層を含めて20万立方メートル(2023年3月現在推定量)を2033年から数十億ユーロ(2010年に10万立方メートル回収で33.5億ユーロ、約4千億円と試算)をかけて回収作業を開始する点も問題になりました。深地層処分は立地点を決めればよいというものではなく、アッセII研究鉱山のように、処分後に処分場の不安定さなど科学的に未解明な事実が判明する可能性が高く、高レベル放射性廃棄物の「回収可能性」や処分場を元の状態へ戻す「可逆性」も問われました。

第二部では、福井県下でも溜まり続ける使用済燃料の問題が取り上げられ、原発を再稼働すれば使用済燃料が生み出され、使用済燃料プールが数年で満杯になれば、再稼働できなくなる。しかし、中間貯蔵施設ができれば、原発を再稼働させることができ、使用済燃料が際限なく生み出されてしまう。「目先の電気のために、使用済燃料を生み出し続けて良いのか」、将来世代のために、現世代が、もう一度、立ち止まって考え直すべきとの問題提起で、広い分野にわたって熱い質疑が交わされました。

詳しくは、下記の資料および映像をご覧ください。ただし、第一部のNUMOによる説明および質疑については、NUMOから録音・撮影が禁止されたため、映像も音声もありません。

【第一部 核のゴミ、地層処分ってなに?】
◇推進・反対の立場からの説明
<推進の立場から>
原子力発電環境整備機構NUMO
富森 卓(地域交流部専門部長)
山田基幸(技術部部長)
古川 宏(地域交流部、PC操作補助)
説明資料はこちら
<反対の立場から>
長沢啓行(若狭ネット資料室長、大阪府立大学名誉教授)
説明資料はこちら
◇質疑応答
主催者からの事前質問はこちら
NUMO回答追加資料はこちら

New! 質疑応答でのNUMOによる回答はこちら

第一部映像はこちら

【第二部 原発の使用済燃料問題の核心とは?】
長沢啓行(若狭ネット資料室長、大阪府立大学名誉教授)
説明資料はこちら
◇質疑応答

第二部映像はこちら

2023年7月23日ALPS処理水海洋放出方針に関する原子力規制庁・東京電力との10団体交渉報告:IAEA報告は、ロンドン条約を外して国際基準に合致すると強引に結論づけ、トリチウム汚染水(ALPS処理水)の海洋放出を正当化できず、日本政府の責任だと逃げ、推奨も、支持もしないと弁解するだけ=「錦の御旗」にはならない! 東京電力は、関係者の理解が得られていないことを認め、文書確約通り、「たとえ、政府がゴーサインを出しても、放出しない」と約束せよ!

交渉報告> <交渉議事録> <交渉資料> <公開質問状
原子力規制委員会・規制庁への追加質問> <東京電力への追加質問

IAEA報告は、ロンドン条約を外して国際基準に合致すると強引に結論づけ、
トリチウム汚染水(ALPS処理水)の海洋放出を正当化できず、日本政府の責任
だと逃げ、推奨も、支持もしないと弁解するだけ=「錦の御旗」にはならない!
東京電力は、関係者の理解が得られていないことを認め、文書確約通り、
「たとえ、政府がゴーサインを出しても、放出しない」と約束せよ!

トリチウム汚染水(ALPS処理水)の「春頃から夏頃に海洋放出を始める」との方針に対し、「関係者の理解」は全く得られていません。全漁連・福島県漁連等が4回目の「反対」を総会決議し政府に申し入れたにもかかわらず、東京電力は6月26日に海底トンネル工事等を強硬的に完遂させ、日本政府の要請を受けた国際原子力機関IAEAが7月4日に包括報告書を提出し、原子力規制委員会は7月7日に海洋放出設備使用前検査の終了証を発布しました。関係者を無視して海洋放出へひた走る動きが緊迫する中、私たち、脱原発福島県民会議をはじめ10団体は7月23日午後1:30~4:35、海洋放出方針撤回を求め、郡山市内で原子力規制委員会・東京電力との交渉をもちました。市民側参加者約40名(マスコミ数名を含む)で、前回(6/12)の交渉に続き、福島県内各地から多くの市民が駆けつけ、「『関係者の理解なしにはいかなる処分もしない』との文書確約を守れ!」、「IAEA報告は錦の御旗にならない!」、「たとえ、政府がゴーサインを出しても、東京電力は『海洋放出しない』と約束せよ!」と、強い怒りを持って東京電力に迫りました。新地町から参加した漁師歴55年の小野春雄さんは、「海は仕事場だ。神事に身体を清める大事なものだ。海にゴミを捨てることは禁止されているのに、なんで汚染水だけがまかり通るんだ」、「岸田総理は『待ったなし』だと言うが、『待った』はある。一度立ち止まって、冷静に考えれば、子どもでもわかる。流せば、福島がなくなる。福島は死ぬんですか」と、必至に訴え、参加者全員の心に強く響きました。

にもかかわらず、東京電力は、平然と、これまでの回答を淡々と繰り返し、厳しく追及されると、「沈黙」し、「社内へ持ち帰って改めて回答する」との答弁に終始しました。原子力規制庁は、福島担当の総括調整官のため本庁での議論に精通していないためか、不正確な理解に基づく説明をしたため、それは誤解だとたしなめられる始末で、改めて本庁に問い合せて回答し直すことになりました。

東京電力も規制庁も不十分な回答でしたが、それでも、次のように重要な成果が得られました。

政府がゴーサインを出しても、「関係者の理解が得られない限り、東電として海洋放出を強行するな」と迫る

第1に、「ALPS処理水は関係者の理解なしにはいかなる処分もせず、タンクに貯留し続ける」との福島県漁連への文書確約について、前回(6/12)に続き、私たちは、海洋放出反対の全漁連(6/22)・福島県漁連(6/30)による4回目の総会決議、「政府説明不十分80%」との国内世論調査、周辺諸国や太平洋島嶼国の反対など「国内外の関係者の理解」など得られていないことを改めて示し、「たとえ政府がゴーサインを出しても『関係者の理解が得られない限り、東電として海洋放出を強行することはない』と明言せよ」と強く迫りました。しかし、「当社としては、引き続き・・・丁寧にご説明させていただく取り組みを重ねてまいります。」と繰り返すだけで、「放出しない」とは約束しませんでした。そこで、関係者とは誰かと問い直すと、東電は「『関係者』については、人によって、様々なお立場、背景、影響の度合いがあり、考え方、捉え方もそれぞれ異なることから、明確に線引きすることは難しいと考えております。」と同じ回答を読み上げるだけでした。

「放出に反対する私たちは関係者か」と具体的に問うても同じ回答を読み上げ始めたため、「漁師の小野さんの発言は無視するということか」と一喝すると、沈黙を決め込んだのです。これには参加者の怒りが爆発、「関係者が誰かわからなかったら、説明できないじゃないか」と詰め寄られ、「さまざまなメディアを通じて海外とかも含めて、いろんな方々に説明を尽くしている」と逃げようとするなど、しどろもどろの対応に終始したのです。結果として、海洋放出に「理解」は得られていないという事実が明らかになり、「こんな中で流せるはずがない。社内へ持ち帰って、努力したけど理解は得られませんでしたと上に報告する」よう求め、東電として「この状況では放出できない」と表明するよう改めて求めました。

地下水ドレン汲上げ水6.5万m3のALPS処理水への混在は「緊急な対応」との主張に矛盾が顕在化

第2に、「サブドレンおよび地下水ドレン汲上げ水の混在するALPS処理水は海洋放出できない」との原子力規制庁担当者の断言(2023.2.9対政府交渉)に基づき、私たちは、前回(6/12)に続き、ALPS処理水には地下水ドレン6.5万m3が混在しており、それが「緊急的な対応」だったのでやむを得なかったように言うが、そのような事実はなく、ALPS処理水は海洋放出できないはずだと迫りました。東京電力は前回交渉での宿題に対する7月3日回答で、海側遮水壁閉合に伴う地下水ドレン汲上による「集水タンクへの移送量が想定よりも多く、集水タンクへの移送停止で地下水位の上昇が継続し、地下水ドレンの汲み上げ水の移送先を集水タンクから2号タービン建屋へ切り替えた」と答えていました。これが「緊急的な対応」の中身でしたので、私たちは、「集水タンクが満杯になる危機的状況はなく、集水タンクからタービン建屋へ移送先を切り替えた事実もない」ことを具体的にデータで示しました。東電は、それには正面から答えず、「地下水ドレンが稼働した2015年11月以降の地下水位及び移送量のデータが示すように降雨により地下水位が上昇してきたために、先回回答の通り、汚染した地下水が海洋へ流出することを回避するためにタービン建屋へ移送しています。2015年11月汲み上げ開始当初はT.P.2m(東京湾平均海面基準の標高2m)を一つの目安として、降雨により水位が上昇すると、汲み上げ量を増加させて、T.P.2mに水位低下させるという運用を行っておりました。」と、降雨が緊急事態であるかのように言い繕おうとしたのです。前回は、「地下水ドレン汲上げ水のタービン建屋への移送」は、海側遮水壁閉合に伴う地下水上昇に対処するための「緊急的な対応のもの」で、集水タンク満水時に「トリチウム濃度が運用目標の1,500Bq/Lを超えないようにタービン建屋へ移送したものではない」と繰り返し、今回は「降雨による地下水位上昇」への「緊急的な対応」にすり替えようとしたのです。たとえ、地下水位の上昇が、「海側遮水壁閉合による地下水位上昇」と「降雨による影響」が重なったものであったとしても、現に、集水タンクが満杯になる危機的状況など存在せず、地下水ドレン汲上げ水は、中継タンクA・Bはタービン建屋へ、中継タンクCは集水タンクへ、それぞれほぼ全量が最初から移送されていて、集水タンクからタービン建屋への移送切換もなかったのです。つまり、「緊急対応」をでっち上げてタービン建屋へ移送していたのです。これを裏付けたのが2015年8月28日の面談資料でした。そこには「集水タンクのトリチウム濃度が上昇した場合,集水タンクの水質に影響を与えている可能性のあるサブドレンのくみ上げを調整するなどの対応も検討します。一方,地下水ドレンは集水タンクの水質に影響を与えている可能性があった場合にも,海側遮水壁から地下水が溢れないよう,くみ上げを継続します。」「地下水ドレンでくみ上げた地下水は,トリチウム濃度上昇時に備えて、地下水ドレンの中継タンクからタービン建屋に移送できるよう移送ラインを設置済みです。」とあります。これを東京電力に示すと、それは2015年8月21日にすでに公表していると発言し、「移送ラインの設置」をいつ公表したかに論点をすり替えようとしました。そこで、「中継タンクA・Bでは、トリチウム濃度の上昇傾向が事前にわかっていたため、事前にタービン建屋への移送ラインを設置し、海側遮水壁閉合後もトリチウム濃度が高かったため、タービン建屋へ最初から移送した。中継タンクCでは、トリチウム濃度が低かったため、最初から集水タンクへ移送し、地下水位が上がっても集水タンクへ移送し続け、タービン建屋への切換はしていない。」という事実を突きつけたところ、東電は沈黙しました。

代わりに、それまで黙って聞いていた規制庁が、不正確な理解に基づく的外れな質問を司会者に繰り返してきたため、それは誤解だと詳しく説明し、詳細がわからないのであれば、本庁に問い合せて回答し直してくださいとたしなめました。ただし、仮設ポンプでタービン建屋へ移送するのが緊急対応であれば認められるが、緊急対応でなければ認められないこと、定常的にやっているのであれば「まずい」ということ、が明らかになりました。6.5万トンの移送は定常的ではないのか、との質問には沈黙し、本庁へ問い直すことになったのです。結果として時間切れで、東京電力への追及は中途半端に終わりましたが、重大な矛盾点が浮き彫りにされたと言えます。

8月21日の東電ホームページでの公表内容は8月28日の面談資料と全く同じものでしたが、「サブドレン他水処理施設における中低濃度タンクへの移送ライン増設」などの実施計画変更申請を行った際の説明資料でした。これは、「地下水ドレンでくみ上げた地下水は,海近傍からくみ上げた水であるため,塩分濃度が高いことも予想され,タービン建屋に移送した場合,セシウム吸着装置の処理に影響を及ぼす可能性があることから,移送先の多様化を図るために,集水タンクを経由して,35m盤のタンクを移送先とした移送ラインを設置します。」というもので、タービン建屋へ移送できないほど塩分濃度の高い地下水ドレン汲上げ水を集水タンクを介して35m盤のRO濃縮水処理水中継タンク(1,000m3)へ移送するというものです。
これは集水タンク満水時に1,500Bq/Lを超えた場合に「タンク等へ移送」とされているタンクとは別物で、後者のタンクは実施計画には未だに存在しないのです。さらに重要なことは、2015年8月21日に実施計画変更申請を行いながら、そこでは「タービン建屋への移送ライン」の追記がなされていないのです。

いずれにせよ、海側遮水壁閉合に伴う地下水上昇は計画段階から予想され、トリチウム濃度の高い地下水が多く含まれることもわかっていましたので、集水タンクへ全量移送すれば、満水時に1,500Bq/Lを超えることは「事前に十分想定」された事態だったのです。実施計画未記載の瑕疵や実施計画違反の責任を「緊急対応」や「緊急的対応」で正当化することなど許されません。

IAEA報告は、ロンドン条約を国際安全基準から除外し、「線量告示」違反を無視している

第3に、IAEA包括報告は、「ALPS処理水の海洋放出に対するアプローチおよび東京電力、原子力規制委員会、日本政府による関連活動は、関連する国際安全基準と合致している」とし、「総合的な評価に基づいて、東京電力が現在計画しているALPS処理水の放出が人々と環境に及ぼす放射線影響は無視できる程度である」と結論づけています。東京電力や政府はIAEA報告を「科学的根拠となる錦の御旗」のように見なしていますが、私たちは、IAEAの国際安全基準には、「種類、形状または性状によらず、放射性廃棄物その他の放射性物質の故意の海洋処分(投棄)を全面禁止」したロンドン条約が除外されていること、同条約では「リスクが10億分の1未満と小さいが、人命に害を与えたり重大な損傷を引き起こしたりしないとは証明できない」という専門家パネル報告を受けて全面禁止が採択され、「薄めれば安全になる」という主張はロンドン条約で明確に否定されていること、しかも、IAEAはALPS処理水の海洋放出を「正当化」できず、「それは日本政府の責任」だと逃げ、「その政策を推奨したり支持したりするものではない」と弁解さえしていることを指摘し、「科学的根拠」もなく「錦の御旗」にもならないと批判しました。東京電力は、ロンドン条約事務局IMOもIAEAの国際安全基準策定に関与していると反論しましたが、IMOは基準策定には関わっても、報告書作成には関わっていないという当たり前の事実を指摘すると、沈黙し、「社に持ち帰って検討する」ことになりました。

放射線被ばくを労働者や人々に強要する際には、IAEAも国際放射線防護委員会ICRPも「正当化、最適化、線量限度」の三原則を遵守するよう求めています。しかし、IAEA報告では、ALPS処理水の海洋放出の「正当化」はなされず、「最適化」では、「タンク保管継続で被ばくのリスクをなくせる」という現実を見ず、「線量限度」についても、福島第一原発では、2023年6月1日現在なお敷地境界モニタリングポストで空間線量が2.9~8.9mSv/年と依然高く、公衆の被ばく線量限度1mSv/年を担保するための「線量告示」を満たせない違法状態にあり、ALPS処理水の海洋放出など新たな放射能放出が許されないことには目をつむっています。東京電力は今回も、原子力規制委員会から措置を講ずべき事項で「追加的な放出等による敷地境界での実効線量を年間1mSvとすることが求められている」と主張して原子力規制委員会に下駄を預け、この「追加的な実効線量(追加線量)が1mSv/年以下なら線量告示違反にならない」という法的根拠を示すことはできず、「詳細は原子力規制庁へご確認ください」と逃げたのです。規制庁も追加線量で規制しているとはいうものの、その法的根拠は示せないままでした。「追加線量」の趣旨は、敷地境界の実効線量から事故時の放射能災害による放射線の寄与分を「現存被ばく状況」と見なして除外するというものですが、線量告示には、現存被ばく状況や計画被ばく状況の区別はなく、実効線量から除外できるのは自然放射線と医療被ばくだけです。「追加線量が1mSv/年を超えなければ違法ではない」とする根拠法令など存在しないことが前回に続き明らかにされたと言えます。そうである以上、法令違反(線量告示違反)のALPS処理水は海洋放出できないはずです。

ALPS処理水を海洋放出しなければならない3つの理由は、「海洋放出ありき」が大前提

第4に、東京電力や政府が挙げる「ALPS処理水を海洋放出しなければならない3つの理由」(①タンクは2023年春頃満水になる(現時点の評価では来年2月~6月頃)、②廃炉作業のために敷地を空ける必要がある、③汚染水は今後も発生し続ける)には根拠がないとする私たちの主張に対し、東京電力は今回もまともに答えず、①は「タンク増設はしない」方針ありき、②は「不要不急の敷地利用」計画ありき、③は「汚染水発生ゼロはめざさない」方針ありき、の回答に終始しました。つまり、3つの理由は、「海洋放出ありきを前提に捻出されたもの」だったことが、前回に続き、今回も明らかになったのです。

一つもタンクが建たないわけではない!ALPS処理水の海洋放出で廃炉に見通しがつく!?

①については、「フランジタンク解体エリアには溶接タンク約9万トンが増設可能で、空けた状態の予備タンクが2.5万トンもあり、計12万トンの余裕がある」との私たちの指摘に、東京電力は今回も正面から答えず、「今後、福島第一原子力発電所において、より本格化する廃炉作業を安全・着実に進めるためには、敷地内に新しい施設を建設する必要があります。敷地内にタンクをこれ以上の増設は、今後の廃炉作業に支障が出る虞があり、ALPS処理水を処分してタンクを減らすことが必要と認識しています。」と前回より抽象的な回答に後退しました。福島第一原発の敷地近くに住んでいた住民が、「線量が高すぎてもう住めないのでタンク増設に使うんだったら手放す意思がある」と言っていると参加者から紹介されても、東京電力は、「非常に有り難いご意見だが、敷地の中で廃炉を完遂したい。一つもタンクが建たないわけではないが、それを続けていると先々行き詰まる。」と弁解し、「増設できるけど、増設しない」との本音を吐露したのです。

②の敷地利用計画についても、「廃炉の一環であるALPS処理水の処分についても見通しを付けることは、廃炉作業の見通しを付けることになると考えております。」と、「ALPS処理水を海洋放出すれば廃炉の見通しがつく」かのような非科学的虚言をつくほどに後退しました。

③については、「配管貫通部以外からも建屋内へ流入する可能性は否定できないことから、建屋内滞留水の水位よりも周辺の地下水位を高い水位で管理することにより、建屋外へ汚染水が流出しないよう管理しております。」と周知の水位管理法を抽象的に回答するだけでした。他方では、「地下水位低下による汚染水発生量ゼロ」を「床面露出」と短絡させ、「α核種がダスト化するのでのよくない」と主張するなど、思い込みによる反論ばかりでした。1・4号機はすでに地下水流入がほぼゼロですが、床面露出しているわけではありません。2・3号機も建屋内水深2mのまま、サブドレン水位を下げることで地下水流入ゼロになると主張しているのに、東京電力には「理解」できないのでしょうか。

この交渉でも明らかなったように、ALPS処理水を海洋放出しなければならない理由など存在せず、正当化することなどできないのです。こんな理不尽なトリチウム汚染水(ALPS処理水)の海洋放出は何としても阻止しましょう。

呼びかけ10団体:脱原発福島県民会議、双葉地方原発反対同盟、福島原発事故被害から健康と暮しを守る会、フクシマ原発労働者相談センター、原水爆禁止日本国民会議、原子力資料情報室、全国被爆2世団体連絡協議会、原発はごめんだ!ヒロシマ市民の会、チェルノブイリ・ヒバクシャ救援関西、ヒバク反対キャンペーン

連絡先:原子力資料情報室(担当:高野聡)Tel:03-6821-3211<takano@cnic.jp>
チェルノブイリ・ヒバクシャ救援関西(担当:振津かつみ)Tel:090-3941-6612<cherno-kansai@titan.ocn.ne.jp>

 

福井県知事に「約束通り、高浜1・2号機、美浜3号機の運転を止めるよう関電に求めてください!」の申し入れと質問書を提出しました!

サヨナラ原発福井ネットと若狭ネットの共同で、杉本福井県知事へ申し入れ(6月15日)と質問書の提出(7月28日)を行いました。
7月28日の質問書提出には、福井県原子力安全対策課の吉田参事が受け取り、質問書については持ち帰って検討し、回答するとの約束をとりつけました。
関西電力は、使用済MOX燃料の仏への搬出・再処理研究が「2023年末までに中間貯蔵施設立地点を公表できなければ高浜1・2号と美浜3号の運転を止める」との約束の前提が果たせたと主張していますが、私たちは、これは欺瞞であり、県民を馬鹿にした態度だと厳しく追及し、福井県としてこれを受入れず、厳正に対処するよう求めました。
吉田参事は、県としては6月23日に政府への再回答を求めていて、その回答待ちだと繰り返すだけでした。

関西電力は6月12日の仏搬出・再処理研究を記者発表した際、県内原発の使用済燃料の満杯時期について「美浜3号6.6年、高浜1~4号4.6年、大飯3・4号5.8年」と答えています。しかし、これは「管理容量の定義が異なり、使用済燃料プールに1炉心分の空きのない状態での違法運転を想定している」ことを私たちは資料で具体的に指摘しました。
また、以前は「美浜3号は9年運転できる」と豪語していましたが、今回の記者発表では6.6年へ大幅に短くなっていると指摘し、これは「美浜3号では廃炉になった美浜1・2号の貯蔵プールの空きを3号用に使うことを想定していた」ものを今回は想定から外したためだと指摘しました。
いずれも、福井県原安課は、かつて関西電力から説明を受けた際に、これらの違法運転やプール容量の不正利用が想定されていることに気付かず、満杯年の説明に「納得」していたのです。私たちの従来からの指摘を真摯に検討していれば、自分たちでもそれを見抜けたはずですが、その反省もない様子でした。
福井県原安課として、かつての姿勢を深く反省し、今回の質問書には真摯に向き合うよう期待したいと思います。

約束通り、高浜1・2号機、美浜3号機の運転を止めるよう関電に求めてください!

杉本達治福井県知事への申し入れ書(2023年6月15日)
杉本達治福井県知事への質問書(2023年7月28日)
質問書に関する詳細資料はこちら
7月28日の動画はこちら

サヨナラ原発福井ネットワーク(連絡先:若泉政人)
若狭連帯行動ネットワーク(連絡先:山崎隆敏)

若狭ネット第194号を発行:トリチウム汚染水(ALPS処理水)海洋放出絶対反対! 関電は約束違反を認め、高浜・美浜原発の運転を止めよ!

若狭ネット第194号を発行しました。

第194号(2023/7/20)(一括ダウンロード3.7Mb)
巻頭言–トリチウム汚染水(ALPS処理水)海洋放出絶対反対!
関電は約束違反を認め、高浜・美浜原発の運転を止めよ!
1. 使用済MOX燃料等の仏搬出・再処理は関西電力の「約束」とは無関係!
関西電力は約束違反を認め、高浜1・2号と美浜3号の運転を停止せよ! 山崎隆敏(越前市)
2. IAEA報告は、ALPS処理水の海洋放出を「正当化」できず、ロンドン条約・国内法令違反を無視し、「害の受忍」を世界に迫るもの
3. 原子力規制委員会は、実施計画の違反容認・不記載の責任をとり、「実施計画違反のALPS処理水海洋放出」を即刻中止せよ!

2023年6月12日ALPS処理水海洋放出に関する10団体主催・東京電力との交渉報告:東京電力は文書確約を遵守し、真水による試験放出など準備作業を直ちに中止し、「福島県漁連などが反対している限り放出しない」と約束せよ!サブドレン及び地下水ドレン運用方針違反、実施計画違反の責任をとり、「トリチウム汚染水(ALPS処理水)の夏頃海洋放出」を断念せよ!

2023年6月12日ALPS処理水海洋放出に関する10団体主催・東京電力との交渉報告

東京電力は文書確約を遵守し、真水による試験放出など準備作業を直ちに中止し、「福島県漁連などが反対している限り放出しない」と約束せよ!サブドレン及び地下水ドレン運用方針違反、実施計画違反の責任をとり、「トリチウム汚染水(ALPS処理水)の夏頃海洋放出」を断念せよ!

東京電力への質問書(2023.5.30)
東京電力との交渉報告
東京電力との交渉記録
東京電力との交渉資料

トリチウム汚染水(ALPS処理水)の海洋放出に向けた準備作業が「汚染水を真水に置き換えての海洋放出の試験運転」という最終段階に入った6月12日、早朝から試験放出が始まる緊迫した状況の中、私たち、脱原発福島県民会議をはじめ10団体は午後1時半から4時前まで、海洋放出撤回を求め、福島市内で東京電力との交渉をもちました。市民側参加者約50名(マスコミ5名を含む)で、その大半は福島県内の各地から駆けつけた市民で、「これまで何度も、関係者の理解を得ない限りは放出しないと言っていたのに、真水で試験放出を開始するとは、東電は何を考えているのか!」「約束違反ではないか!」と、強い怒りを持って東電に抗議しました。そして、参加者が一体となって東京電力の無責任な姿勢を追及し、海洋放出の撤回を求めました。
東京電力は当初、「マスコミは最初の挨拶までで退席するように」と求めていましたが、会場の強い抗議の声で「一通りの東電回答終了まで取材可」となりました。ところが、東京電力は今回、文書回答の事前提出に応じず、準備した東電回答を次々と読み上げたのですが、「重要な質問項目を飛ばして回答しない」、「全く異なる質問に同じ回答を延々と続ける」など人を馬鹿にした回答が続いたため、回答のいい加減さをデータで具体的に指摘し、質問の趣旨を正確に説明して具体的に回答するよう求めました。すると、東電側出席者4名全員が回答できずに黙ってうつむく「沈黙の時間」が増え、「(指摘された点について)ここでは肯定も否定もできない」、「社へ持ち帰ってしかるべき部門に伝え、すべての質問項目に対して6月末を目途に文書回答を出す」という結果になったのです。結局、一通りの東電回答だけで2時間を費やしたものの、マスコミは最後まで退席せずに取材できました。
不十分な東電回答でしたが、それでも、質問の趣旨を巡るやりとりや東電の「度重なる長い沈黙」・回答姿勢などを通じて、次のように重要な成果が得られました。

ALPS処理水海洋放出に「理解」は得られず、準備作業強行が逆に「理解」を妨げ、不信感を増している

第1に、「ALPS処理水は関係者の理解なしにはいかなる処分もせず、タンクに貯留し続ける」との福島県漁連への文書確約について、私たちは、福島県漁連が「絶対反対」を貫いており、「国内外の関係者の理解」など得られていないこと、海底トンネル掘削工事や真水による試験放出は文書確約違反であり、関係者の理解を一層困難にしていることを改めて示し、「真水による試験放出を直ちに中止し、福島県漁連などが反対している限り放出しない」と約束するよう強く迫りました。司会や会場からの鋭い追及に、東京電力は長く「沈黙」して答えられず、「予め頂いていない質問だ」とかわそうともしましたが、質問内容そのものだと迫られると、「『理解』については、いろんな立場、考えの方がいて一律には言えない」、「準備作業が『理解』を妨げることにはならない」と開き直りました。すると、司会や会場から一層激しく追及され、東京電力は論点を変えようとしたり、「それぞれの立場を尊重して説明させて頂いている」と逃げようとするなど、しどろもどろの対応に終始したのです。結果として、海洋放出に「理解」は得られておらず、準備作業の強行が逆に「理解」を妨げていることが事実で示されました。

地下水ドレン汲上げ水6 .5万 m 3のALPS処理水への混在は「緊急的な対応」の結果だと口裏合わせ

第2に、「サブドレンおよび地下水ドレン汲上げ水の混在するALPS処理水は海洋放出できない」との原子力規制庁担当者の断言(2023.2.9対政府交渉)に基づき、私たちは、ALPS処理水には地下水ドレン6.5万 m 3が混在しており、ALPS処理水は海洋放出できないはずだと迫りました。すると、東京電力は、「地下水ドレン汲上げ水のタービン建屋への移送」は、海側遮水壁閉合に伴う地下水上昇に対処するための「緊急的な対応のもの」で、集水タンク満水時に「トリチウム濃度が運用目標の 1 ,500Bq/Lを超えないようにタービン建屋へ移送したものではない」と主張し、「タービン建屋へ移送した地下水ドレン汲上げ水6 .5万トンは、混在してはならない地下水ドレン汲上げ水」とは異なるかのように言い繕おうとしました。これに対し、トリチウム濃度が高い場合はタービン建屋へ、低い場合は集水タンクへ移送していることを示すデータを突きつけたところ、「ここでは否定も肯定もできない」と逃げ、「社へ持ち帰り、改めて回答する」ことになったのです。この背景には、東京電力の運用方針違反(「 1 ,500Bq/Lを超える地下水ドレン汲上げ水は希釈しない、排水しない」に違反)・実施計画違反(「地下水ドレン汲上げ水はすべて集水タンクへ移送し、満水時に 1 ,500Bq/Lを超えたらタンクへ移送する」に違反)を覆い隠し、原子力規制委員会・規制庁の実施計画不備の瑕疵を隠蔽しようという目論見があるのです。原子力規制委員会・規制庁については、実施計画では地下水ドレン汲上げ水はすべて集水タンクへ移送することになっていて、タービン建屋への移送は実施計画違反なのにそれを黙認したこと、集水タンク満水時に 1 ,500Bq/Lを超えた場合に移送先となるタンクや移送配管・移送ラインが実施計画に記載されていないことなどが重大な瑕疵となります。これらの責任を追及されないよう、「地下水ドレン汲上げ水のタービン建屋への移送」について、原子力規制庁は「緊急対応の一環」だと言い、東京電力は「緊急的対応」だと主張するなど、事前に口裏合わせをして逃げようとしていることも明らかになりました。ちなみに、東京電力回答で「緊急対応」とせず「緊急的対応」としたのは、「緊急」とは言えない後ろめたさからからだと思われます。
いずれにせよ、海側遮水壁閉合に伴う地下水上昇は計画段階から予想され、トリチウム濃度の高い地下水が多く含まれることもわかっていましたので、集水タンクへ全量移送すれば、満水時に 1 ,500Bq/Lを超えることは「事前に十分想定」された事態だったのです。実施計画未記載の瑕疵や実施計画違反の責任を「緊急対応」や「緊急的対応」で正当化することなど許されません。

タービン建屋への移送先を2号機と3号機に分けたのは「平準化」のためというが、事実無根である

第3に、「(2015年11月からの)地下水ドレン汲上げ水のタービン建屋への移送先は2号機タービン建屋(実施計画未記載の既設ライン)」である一方、「(2017年2月からの)地下水ドレン汲上げ水の前処理後の濃縮塩水移送先は3号機タービン建屋(実施計画記載の新設ライン)」と異なっている理由について、東京電力は「タービン建屋からの移送ポンプの移送量を平準化すること」が目的だと主張しました。しかし、2号機と3号機の建屋内の滞留水量は2016年平均で16 ,217 m 3と16,558 m 3、2017年平均でも13 ,317 m 3と13 ,255m3でほぼ同程度であり、タービン建屋からの移送ポンプの移送量を平準化しなければならないほどの不均衡はありません。また、地下水ドレン汲上げ水とウェルポイント汲上げ水の2号機タービン建屋への合計移送量は2016年の78 ,029 m 3から2017年に8 ,820m3へ一桁下がり、2018年には地下水ドレン汲上げ水の2号機タービンへの移送がゼロになってウェルポイント汲上げ水の移送量3 ,768 m 3だけになる一方、3号機タービン建屋への濃縮塩水の移送量は2017年に805m3で2号機への移送量の1割弱にすぎず、201 8年には46 m3へさらに減っています。これでは、とても「平準化」などと言えるものではありません。つまり、2号機と3号機の「タービン建屋からの移送ポンプの移送量を平準化」する目的だとは到底言えないのです。
要するに、地下水ドレン汲上げ水前処理後の濃縮塩水移送先を3号機とした本当の理由は、「ウェルポイント汲上げ水と地下水ドレン汲上げ水のウェルタンクを介した2号機タービンへの移送ラインがすでにあり、それが実施計画に未記載の違反状態にあったため、今さら濃縮塩水の2号機タービン建屋への移送を『新設』ラインとして申請できない」という事情があったのではないかと思われます。これも、実施計画違反や実施計画未記載の瑕疵などを隠蔽する行為の一環だと思われます。

ALPS処理水海洋放出は、公衆の被ばく線量限度1 mSv/年を担保するための「線量告示」に違反する

第4に、私たちは、福島第一原発では、2023年6月1日現在なお敷地境界モニタリングポストで空間線量が2.9~8 .9 mSv/年と高く、公衆の被ばく線量限度1mSv/年を担保するための「線量告示」を満たせない違法状態にあり、ALPS処理水の海洋放出など新たな放射能放出は許されないと主張しました。これに対し、東京電力は、原子力規制委員会から措置を講ずべき事項で「追加的な放出等による敷地境界での実効線量を年間 1mSvとすることが求められている」と主張して原子力規制委員会に下駄を預け、この「追加的な実効線量(追加線量)が 1mSv/年以下なら線量告示違反にならない」という法的根拠を示すことはできませんでした。そうである以上、法令違反(線量告示違反)のALPS処理水は海洋放出できないはずです。
かつては、「 ①事故直後には、その前の1年間と比べると1 mSvを超えていて違法状態だったが、 ②次年度からは、敷地外(周辺監視区域外)に存在する放射性物質による放射線量は、「元々あったもの」であり、「自然放射線」と同じとみなされる、 ③事業所内の作業で前年度と比べてどれだけ放射線量が上乗せされたかが法令での規制対象になる。したがって、敷地境界での空間線量のモニタリングの実測値とは関係なく、前年度に比べて、上乗せされる計算上の線量が年 1mSv以内であれば法令遵守である。」(脱原発福島県民会議との 2022.4.12意見交換後のアドバイザーへの東電担当者の説明)という極論を述べていましたが、この点に関する脱原発福島県民会議による2022年5月26日付け質問書への2022年6月17日付け東電回答では、「十分なご説明が出来ず、誤解を与えてしまったと考えております。今後は、資料に基づき、事前に準備のうえ、対応させていただきます。」と前言を撤回し、今回と同じ内容を回答していたのです。線量告示には、現存被ばく状況や計画被ばく状況の区別はなく、実効線量から除外できるのは自然放射線と医療被ばくだけです。「追加線量が 1mSv/年を超えなければ違法ではない」とする根拠法令など存在しないことが改めて明らかにされたと言えます。

ALPS処理水を海洋放出しなければならない3つの理由は、「海洋放出ありき」が前提で捻出されたもの

第5に、東京電力や政府が挙げる「ALPS処理水を海洋放出しなければならない3つの理由」(①タンクは2023年春頃満水になる、②廃炉作業のために敷地を空ける必要がある、 ③汚染水は今後も発生し続ける)には根拠がないとする私たちの主張に対し、東京電力はまともに答えず、 ①は「タンク増設はしない」方針ありき、②は「不要不急の敷地利用」計画ありき、 ③は「汚染水発生ゼロはめざさない」方針ありき、の回答に終始しました。つまり、3つの理由は、「海洋放出ありきを前提に捻出されたもの」だったのです。

<敷地に余裕があっても、タンク増設せず、不要不急の5・6号機使用済燃料乾式貯蔵施設建設を急ぐ>

①については、「フランジタンク解体エリアには溶接タンク約9万トンが増設可能で、空けた状態の予備タンクが2.5万トンもあり、計12万トンの余裕がある」との私たちの指摘に、東京電力は正面から答えませんでした。その代わりに、 ②との関連で、「燃料デブリ取出しに関連するメンテナンス施設・保管施設や、1~6号機の使用済燃料プールを空にするために必要な乾式キャスク仮保管設備などを2020年代前半頃に着工する」ため、「フランジタンク解体跡地を含め敷地を有効活用する計画」を対置したのです。つまり、「タンクが満杯になる」との主張は、「溶接タンクをこれ以上増設しないという方針ありきの人為的な理由」にすぎなかったことが明らかになったのです。
また、②の敷地利用計画については、事故を起こした1~4号機の使用済燃料の保管だけなら十分すぎる容量(共用プールと乾式キャスク仮保管設備の容量10 ,699体に対し9 ,507体貯蔵中で1 ,192体の余裕あり)がすでにあるのですが、事故を起こしていない5・6号機の使用済燃料2,830体の貯蔵プールからの搬出・保管が必要だとし、共用プール6,595体(容量6,734体)の乾式貯蔵化も進めるという新たな敷地利用計画を持ち出し、敷地が足りない状況を人為的に作り出そうとしたのです。東京電力は、プール貯蔵より乾式貯蔵の方がリスクが小さいと主張していますが、間違いです。使用済燃料をプール貯蔵から乾式貯蔵へ移すには、5~10年以上プールで冷やし、人の発熱量(2~3kW/tU)程度にまで崩壊熱を下げ、空気中でも自然空冷可能な状態にする必要があります。この状態に至ればプール貯蔵と乾式貯蔵のリスクに差はありません。乾式キャスクの表面線量は強い中性子線やガンマ線のため10 μSv/h(年換算88 mSv)程度と高く、コンクリート貯蔵施設で遮蔽しないと85m圏内(伊方原発の場合)を管理区域(3ヶ月当り1.3 mSv)に指定しなければならないほどです。この意味では、共用プールのほうが、放射線を遮蔽できるため、労働者被曝を減らせますし、崩壊熱の高い使用済燃料が今後持ち込まれることもなく、東日本大震災の地震・津波に耐えた共用プールをわざわざ解体して乾式貯蔵へ移行させる必要など全くないのです。
デブリ取出し関連施設もデブリ取り出し作業そのものが止まっていて見通しが全く立たないのが現状です。東京電力は、2号機デブリは横から取出すから原子炉上部のシールドプラグでの高汚染状態は直接影響ないと回答しましたが、これは「極めて能天気な思考」であり、原子炉内に残存するデブリ取出しの困難さを軽視し、当面の場当たり的な取り出し作業しか見ようとしない安直な発想であり、東京電力の「廃炉作業全体を俯瞰しながら作業を進める能力のなさ」を改めて示したものと言えます。

<「地下水の建屋流入」はサブドレン水位を T.P.-2.0mへ下げれば、すぐにもゼロにできる>

③については、「2028年度に汚染水発生量を1日当り50~70m3まで低減することをめざし取り組んでおり、現状において十分管理されていることから、この措置を継続していきます。従って、地下水の流入を完全にゼロとすることはできません。」という回答でした。これも「汚染水発生ゼロはめざさない」方針ありきの回答です。そこで、私たちは、「1号機の建屋貫通部はT.P.2.0m以上と高く、少雨期の地下水の建屋流入量はすでにゼロ、4号機でもサブドレン水位以下の貫通部は2箇所程度で、少雨期の地下水の建屋流入量はほぼゼロ、1号機屋根完成とフェーシングで雨水の地中浸透を防げば、1・4号機では2023年度末頃にかなりゼロへ近づく。2・3号機でも、T.P.-2.0m以下に貫通部はなく、サブドレン水位をそこまで下げれば少雨期の地下水の建屋流入量をゼロにできる。原子炉建屋内滞留水の水位は、2023年3月末に、1号機でT.P.-2.2m程度、2・3号機でT.P.-2.8m程度へ下がっており、サブドレン水位をT.P.-2.0mまで下げれば、貫通部からの地下水流入量はゼロにできる。」と具体的に指摘しました。すると、東京電力は、止水施工をしているとか、原子炉建屋を床面露出させると建屋内の放射性ダスト濃度が上がるとか、サブドレン水位は毎日変化しており建屋内滞留水の水位より低くなると汚染水が漏れ出すとか、汚染水発生量ゼロをめざさない理由を探そうとしました。私たちは、止水施工は雨水対策であり、進めてもらえばいいが、汚染水発生の最大要因である地下水の建屋流入抑制とは関係ないこと、床面露出によるダスト問題は水を低水位で残せばすむこと、建屋内水位と地下水位の逆転防止のために80cmの水位差が設定してあり、これを維持すれば逆転は起こらないこと、などを具体的に示して反論した結果、東京電力は長い沈黙の末に、「ご意見を社へ持ち帰って、しかるべき部門へ伝え、6月末を目途に全質問に対して改めて回答する」ことを約束せざるを得なかったのです。
いずれにせよ、ALPS処理水を海洋放出しなければならない理由など存在せず、東京電力や政府の主張するいずれの理由も、「海洋放出方針ありきの取って付けた理由」に過ぎないことが改めて明らかにされたと言えます。こんな理不尽なトリチウム汚染水(ALPS処理水)の海洋放出は断じて許せません。

東京電力の不誠実な回答を広く伝え、国内外のすべての反対勢力の総力を結集して、福島県漁連との文書確約違反、運用方針違反、実施計画違反、線量告示等法令違反、ロンドン条約違反の責任を追及し、トリチウム汚染水(ALPS処理水)の海洋放出をなんとしても止めましょう!

呼びかけ10団体:脱原発福島県民会議、双葉地方原発反対同盟、福島原発事故被害から健康と暮しを守る会、フクシマ原発労働者相談センター、原水爆禁止日本国民会議、原子力資料情報室、全国被爆2世団体連絡協議会、原発はごめんだ!ヒロシマ市民の会、チェルノブイリ・ヒバクシャ救援関西、ヒバク反対キャンペーン
連絡先:原子力資料情報室(担当:高野聡)< takano@cnic.jp>
チェルノブイリ・ヒバクシャ救援関西(担当:振津かつみ) <cherno-kansai@titan.ocn.ne.jp>

 

若狭ネット第193号を発行:トリチウム汚染水(ALPS処理水)海洋放出絶対反対! — 地下水ドレン汲上げ水が混在していればALPS処理水は放出できない — 原子力規制委員会・規制庁は、汲上げ水6.5万トンの混在を認め、海洋放出を中止させよ! 実施計画違反・法令違反の放出認可を撤回せよ!

若狭ネット第193号を発行しました。

下記からご覧ください。

第193号(2023/5/22)(一括ダウンロード5.8Mb
巻頭言–トリチウム汚染水(ALPS処理水)海洋放出絶対反対!
— 地下水ドレン汲上げ水が混在していればALPS処理水は放出できない —
原子力規制委員会・規制庁は、汲上げ水6.5万トンの混在を認め、海洋放出を中止させよ! 実施計画違反・法令違反の放出認可を撤回せよ!
1. 原子力規制委は実施計画違反・法令違反の「実施計画変更申請(ALPS処理水海洋放出)」認可を取消し、海洋放出を中止させよ!
2. 送配電会社の「所有権分離」で再エネ優先接続・優先給電の実現を! 発販分離(所有権分離)で、新電力に公平な競争条件の整備を!

チェルノブイリ事故37年、福島事故12年を迎え、公開説明会の開催と脱原発・再エネ優先への転換を求めます・・・関電本社へ申し入れました

チェルノブイリ事故37年、福島事故12年を迎えた2023年4月26日、チェルノブイリ・ヒバクシャ救援関西主催の「チェルノブイリ原発事故37年の集い~チェルノフイリとフクシマを経てまだ原発?!~」で採択された集会決議の関電本社提出行動に合わせて、若狭ネットも申し入れ(pdfはこちら)を行いました。

2023年4月26日
関西電力株式会社取締役 代表執行役社長 森 望 様

チェルノブイリ事故37年、福島事故12年を迎え
公開説明会の開催と脱原発・再エネ優先への転換を求めます

若狭連帯行動ネットワーク

本日4月26日は、旧ソ連のチェルノブイリ原発重大事故から37年に当たり、福島第一原発炉心溶融事故発生から12年になります。私たちは貴社に対し、カルテル・顧客情報不正閲覧問題に関する公開説明会の開催を求め、また、老朽原発延命・新型炉共同開発の原発依存経営から転換するよう強く申し入れます。
貴社が原発依存経営を始めてから、もう半世紀になります。この間、貴社による原発推進の利権構造が暴かれ、電力市場独占を維持するためのカルテル締結で公正取引委員会から独占禁止法違反に認定され、顧客情報不正閲覧問題で経済産業省から業務改善命令が出されるなど、腐朽・腐敗が極限に達しています。貴社は、金品受領の「森山案件」で、3年前にも業務改善命令を受けています。当時、「約3.6億円の不正還流はあったが、不正発注、高値発注は絶対になかった。」と弁明した矢先に、原発推進派の高浜町議の事業失敗を救済するための土砂処分・土地賃借等での高値発注が暴かれてもいます。これらに関与していないと思われた森本孝副社長が2020年春に新社長へ抜擢され、どん底に落ちたコンプライアンス(法令遵守)の立て直しを託されましたが、森本氏は2018年10月~2020年10月のカルテル事件の中心人物でした。森本氏は副社長時代に他電力管内での営業縮小を決めた首脳会議に名を連ね、自ら他電力に伝え、社長就任後もカルテルを継続していたのです。他方では、新電力から顧客を取り戻すため、子会社の関西電力送配電のもつ顧客データを不正閲覧し、営業に活かしていました。しかも、カルテルがばれそうになると、自ら主導した不正を公正取引委員会へ密告(自主申告)し、自社だけは巨額の課徴金を免れたのです。世間で、貴社は「不祥事の総合商社」と呼ばれています。私たちは、カルテル・顧客データ不正閲覧問題について、貴社が率先して公開説明会を開き、膿を出し尽くすよう強く求めます。
岸田政権はGX基本方針で原発回帰へ踏み出し、40年で原則廃炉の40年ルール撤廃法案を成立させようとしています。しかし、原発再稼働・40年超運転による利潤追求を続けていては、老劣化による故障・事故を頻発させる一方、事故原因の究明を切り上げての運転再開、次の定検までのひび割れ放置の強硬運転、異常発見時の無理な運転継続や異常対策等が不完全なままでの運転再開前倒しなどで、予想外の危険な事態を招き、福島事故を繰り返すことになりかねません。
原発依存経営から脱却し、原発利権構造を一掃し、再エネ推進のクリーンな経営に転換すべきです。
以上を踏まえ、次のことを強く申し入れます。公益事業者として真摯に対応してください。

1.カルテル問題と顧客情報不正閲覧問題について、公開説明会を開いてください。「送配電会社の所有権分離」と「発電会社の所有権分離」を断行し、新電力との公平な競争環境を保障してください。

2.国内最古かつ原子炉圧力容器の中性子脆化が最も進んで危険な高浜1・2号の6・7月再稼働(並列)計画を断念し、美浜3号と共に40年超運転を中止し、廃炉にしてください。

3.配管のひび割れや蒸気発生器細管の減肉など老劣化の進む高浜3・4号と大飯3・4号を廃炉にしてください。

4.むつ市への使用済燃料中間貯蔵押しつけを断念し、使用済燃料をこれ以上生み出さないでください。 「2023年末に中間貯蔵地を公表できない場合には高浜1・2号と美浜3号の運転を中止する」との貴社の4度目の約束を守ってください。大飯3・4号再稼働の条件であった「2020年末の期限」など、これまで3回も期限を守れなかった責任をとり、大飯3・4号と高浜3・4号も運転しないでください。

5.高浜3・4号でのプルサーマルを即刻中止し、大飯原発にプルサーマルを広げないでください。
プルトニウム利用を断念し、これ以上、MOX燃料の発注・輸送・輸入をしないでください。
3,100ページに及ぶ申請書の落丁・記載漏れや核物質防護監視妨害など技術的能力のない日本原燃への出資をやめ、六ヶ所再処理工場の閉鎖を求めてください。

6.敦賀2号直下断層のデータ無断書換えや1,000箇所以上の審査資料記載ミスなど技術的能力のない日本原子力発電への出資をやめ、約180億円の基本料金契約を破棄し、敦賀2号の廃炉を求めてください。

7.「福島賠償費・原発関連費の今年度分約288億円(一般負担金「過去分」156億円/年と廃炉円滑化負担金132億円/年)」を託送料金に加算して回収するのをやめ、電気料金を下げてください。

8.取替や廃炉による美浜・大飯・高浜原発の蒸気発生器33基をはじめ給水加熱器や核燃料輸送・貯蔵用キャスクなど大型放射性廃棄物の輸出、海外での溶解・再利用の計画を断念し、密閉管理し続けてください。

9.老朽原発の延命や革新軽水炉SRZ-1200の共同開発を断念し、原発依存の経営方針を「脱原発・脱石炭」、「再エネ拡大・優先接続・優先給電」へ大転換してください。

以上

原子力規制委員会の「ALPS処理水の海洋放出時の運用等に係る実施計画認可審査書案」へのパブコメに意見を二つ提出しました

「東京電力ホールディングス株式会社福島第一原子力発電所特定原子力施設に係る実施計画の変更認可申請(ALPS処理水の海洋放出時の運用等)に係る審査書案」に対する意見募集が行われています。(URLはこちら
受付開始日時 2023年2月23日0時0分
受付締切日時 2023年3月25日0時0分

岸田首相は3月11日、福島市で開かれた東日本大震災追悼復興祈念式に出席した後、報道陣の取材に応じ、ALPS処理水の海洋放出は「決して先送りができない課題だ」と根拠もなく断言し、「今年春から夏ごろ」の実施を目論んでいます。「漁業者をはじめ、地元の方々の懸念に耳を傾け、政府を挙げて丁寧な説明と意見交換を重ねていく」と述べてはいますが、「理解」が得られなくても強行する姿勢です。何としてもこれを阻止すべく、力を合わせましょう。
上記の審査書案のパブコメに意見を出しましょう。以下に若狭ネット資料室長の提出意見二つを公開しますので、参考にしてください。(pdfはこちら

「実施計画変更認可申請(ALPS処理水の海洋放出時の運用等)に係る審査書案」への意見募集に対する意見(その1)

該当箇所:3ページ(5~12行目)(第1章 原子炉等規制法に基づく審査の前文)

意見「設計、設備について措置を講ずべき事項の適切かつ確実な実施を確保」することが求められていますが、地下水ドレン汲上げ水に関する実施計画には欠陥があって「確実な実施を確保」できない状態であり、かつ、実施計画通りには実施されていません。その結果、地下水ドレン汲上げ水約6.5万トンがALPS処理されて約65万トンのタンク貯留水に混在しています。その海洋放出は実施計画違反であり、審査書は撤回し、審査をやり直すべきです。

理由:措置を講ずべき事項Ⅲでは、「『Ⅱ.設計、設備について措置を講ずべき事項』の適切かつ確実な実施を確保」することが求められていますが、「確実な実施」は「確保」されていません。措置を講ずべき事項は「福島第一原子力発電所 特定原子力施設に係る実施計画」に反映されており、2015年1月21日に認可(2014年12月25日変更申請(サブドレン他水処理施設の本格運転)の認可)された実施計画には、「Ⅱ-2.35.1.5.4 地下水ドレン集水設備」の項で「地下水ドレン集水設備は,地下水ドレンポンド揚水ポンプ,地下水ドレン中継タンク,地下水ドレン中継タンク移送ポンプ,及び移送配管で構成する。地下水ドレン集水設備により汲み上げた地下水は集水タンクへ移送する。」とされ、そのフローチャート「サブドレン他水処理施設の排水管理に関する運用について」(Ⅲ-3-2-1-2-添1-1)には、「H-3が1,500Bq/Lを下回らない」場合は「タンク等へ移送及び原因調査」となっています。ところが、この実施計画の「確実な実施」は確保されていません。
第1に、汲上げ水のうち約6.5万トンは、地下水ドレン中継タンクから集水タンクへは移送されず、ウェルタンクを介して2号機タービン建屋へ移送されています。
第2に、「H-3が1,500Bq/Lを下回らない」場合の移送先となる「タンク等」や移送配管等の仕様および移送ラインは実施計画のどこにも記載されておらず、そもそも存在せず、「確実な実施」は不可能です。
第3に、汲上げ水を中継タンクから集水タンクまたは2号機タービン建屋のどちらへ移送するかは、「それを集水タンクへ移送した場合にH-3が1,500Bq/Lを超える可能性がない」場合には集水タンクへ、「可能性がある」場合には2号機タービン建屋へと仕分けて移送していましたが、このような管理は実施計画には一切記載されていません。
その結果、第4に、集水タンクで、H-3が1,500Bq/L以上になって「タンク等へ移送及び原因調査」となった汲上げ水は発生しませんでしたが、「仮に集水タンクへ移送していたらH-3が1,500Bq/Lを超えていたであろう汲上げ水6.5万トン」が2号機タービン建屋へ移送され、大量の建屋滞留水と混在してALPS処理され、少なくとも65万トンの処理水となってタンクに貯留されています。つまり、現時点で132万トンのALPS処理水の大半に「H-3が1,500Bq/Lを超えるサブドレン及び地下水ドレン」の汲上げ水が混在しています。
脱原発福島県民会議等10団体との2月9日の意見交換の場で、原子力規制庁担当者は、次のように回答しています。
(1)トリチウム濃度が1500Bq/Lを超えるサブドレン及び地下水ドレンの水は、実施計画のフローチャートでは「タンク等に移送して原因精査」となっていて、そこで作業の手続きは止まらねばならない。
(2)仮に(1)のサブドレン及び地下水ドレンの水が、建屋滞留水等と混在してALPS で処理され、ALPS処理水として混在したままタンクに貯蔵されているとすれば、サブドレン及び地下水ドレンの水が混在しているALPS処理水は海洋放出できない。原子力規制庁としては「混在」していないと考えている。
(3)(1)に該当するサブドレン及び地下水ドレンの水は6.5 万トン程度になると指摘されているが、それが「タンク等に移送して原因精査」された後、実際に、どこにどのような状態で存在しているか、ちゃんと調べて福島みずほ事務所に回答する。
2月17日付けで原子力規制庁原子力規制部東京電力福島第一原子力発電所事故対策室から福島みずほ参議院議員事務所へ届いた文書回答は「原子力規制庁としては、御指摘の『トリチウム濃度が1500Bq/Lを超えるサブドレン及び地下水ドレンの水』はこれまで発生していないことを東京電力ホールディングス株式会社に確認しています。また、『トリチウム濃度が1500Bq/Lを超えるサブドレン及び地下水ドレンの水』が発生した際には、実施計画のとおり、タンク等へ移送し敷地内で貯留されるものと認識しています。」というものでした。
これは、上記の第1から第4に記載した通りの経緯を経た結果、集水タンクでは「H-3が1500Bq/Lを超えなかった」ものの、それを回避するためにトリチウム濃度の高い約6.5万トンの汲上げ水が2号機タービン建屋へ移送され、ALPS処理水と混在するに至ったものであり、海洋放出することはできないはずです。ましてや、このような事態は、実施計画そのものが「確実な実施を確保」できない欠陥を含んだものであり、実際にも「確実な実施」がなされなかったことによる直接的な結果です。
これは原子力規制委員会・原子力規制庁による実施計画認可・検査における重大な瑕疵の可能性を示唆するものであり、審査書そのものを撤回し、根本的に審査をやり直すべきです。
ちなみに、2016年12月8日に認可(2016年11月2日変更申請(地下水ドレン前処理設備の設置及びサブドレン集水設備移送配管の仕様変更)の認可)された実施計画の「Ⅱ-2.35.1.5.4 地下水ドレン集水設備」の項には、「地下水ドレン集水設備」に「地下水ドレン前処理装置」が追加され、「地下水ドレン集水設備により汲み上げた地下水は集水タンクまたはタービン建屋へ移送する。」とされていますが、ここでタービン建屋へ移送されるのは前処理装置出口濃縮水(塩水)であり、移送先も2号機タービン建屋ではなく3号機タービン建屋であり、今までの移送量も約0.2万トンにすぎません。

「実施計画変更認可申請(ALPS処理水の海洋放出時の運用等)に係る審査書案」への意見募集に対する意見(その2)

該当箇所:1ページ12~22行目(2.変更認可申請の内容)および7ページ3~5行目

意見法令では「敷地境界での実効線量が、放出放射能の濃度限度比総和を含めて、1mSv/年であること」が求められていますが、敷地境界線量は今も3~9mSv/年と高く、違法状態が続いています。現状では、ALPS処理水の「故意の海洋処分」による新たな放射能放出は法令違反であり、できないはずです。にもかかわらず、敷地境界の実効線量から「事故由来の放射性物質からの寄与」を除外することで、それを認可しようとしていますが、それを正当化できる法的根拠はありません。「そうしなければ、放射能災害のリスクが高まるため、やむを得ない」という緊急避難的理由もありません。また、ALPS処理水放出に伴う被爆線量「評価の目安」として用いられている「50μSv/年」は線量拘束値ですが、これは計画被ばく状況で用いられる概念であり、現存被ばく状況において適用するのは場違いであり、これをトリチウムの年放出管理値22兆Bqを緩和する根拠とすることもできません。審査書は撤回し、審査をやり直すべきです。

理由:「東京電力株式会社福島第一原子力発電所原子炉施設の保安及び特定核燃料物質の防護に関して必要な事項を定める告示」(以下「告示」)の「(周辺監視区域外等の濃度限度)第八条」第六項には、次のように記されています。
「外部放射線に被ばくするおそれがあり、かつ、空気中又は水中の放射性物質を吸入摂取又は経口摂取するおそれがある場合にあっては、外部被ばくによる一年間の実効線量の一ミリシーベルトに対する割合と空気中又は水中の放射性物質の濃度のその放射性物質についての空気中又は水中の放射性物質の前各号の濃度に対する割合との和が一となるようなそれらの放射性物質の濃度」。
これは、核原料物質又は核燃料物質の製錬の事業に関する規則等の規定に基づく線量限度等を定める告示(以下「線量告示」)の「(周辺監視区域外の濃度限度等)第八条」第六項の条文と一言一句同じです。つまり、いずれの告示においても、「外部被ばくによる一年間の実効線量」は「周辺監視区域」との境界における外部被爆線量で線量限度「一ミリシーベルト」を超えないことが求められています。
この外部被爆線量から「事故由来の放射性物質からの寄与」、いわゆる「現存被ばく状況に伴う線量」を除外できるという規定は、炉規法および関連する政令、規則、告示のどこにもありません。にもかかわらず、措置を講ずべき事項では、「II.設計、設備について措置を講ずべき事項」の「11. 放射性物質の放出抑制等による敷地周辺の放射線防護等」において、放出放射能抑制と敷地周辺線量低減を求め、「特に施設内に保管されている事故後に発生した瓦礫や汚染水等による敷地境界における実効線量(発電所全体からの放射性物質の追加的放出を含む実効線量の評価値)を、平成25年3月までに1mSv/年未満とすること。」と指示しています。これを原子力規制委員会は「追加1mSv/年」と称していますが、これは「告示」や「線量告示」の「1mSv/年」に置き換えられるものではありません。
また、この「追加1mSv/年」の措置要求は、達成期限が変更されたり、「追加2mSv/年」へ変更されたり、追加線量からタンク貯留水寄与分が除外されるなど、場当たり的に変更されていて、とても法令と言えるような代物ではありません。具体的には以下に示す通りです。
当初の措置要求は、汚染水の地下貯水槽への移送で実現されたものの、1週間も経たないうちに、地下貯水槽から汚染水の漏洩が発覚し、汚染水をタンクへ移送したところ、2013年4月には追加線量でも7.8mSv/年へ急騰しています。これを受けて、当初の「2013年3月までに追加1mSv/年」が「2015年3月末までに追加2mSv/年、2016年3月末までに追加1mSv/年」へ変更されています。同時に、「2015年3月末までに、タンクに貯蔵された汚染水以外に起因する敷地境界における実効線量(評価値)を1mSv/年未満にすること」が加えられ、「事故後に発生した瓦礫や汚染水等」から最大寄与分の「タンク貯留水」が除外されるなど、「追加線量」の定義さえも変更されています。このように状況次第でコロコロ変わる「追加1mSv/年」が、「告示」や「線量告示」等の法令における「1mSv/年」に置き換わるものだとは到底言えません。
さらに、この「告示」や「線量告示」等の法令において「実効線量の算定から除外できるものは診療及び自然放射線による被ばくのみとなっている」ことは、第37回原子力規制委員会(2020.11.11)での原子力規制庁報告「放射線を放出する同位元素の数量等を定める件(数量告示)第24条の改正方針についての検討結果」で具体的に記されています。すなわち、福島第一原発は線量告示等の「1mSv/年」を満たせない違法状態にあるため、線量低減のために「追加1mSv/年」が措置要求されたのです。これは、あくまで「線量低減のために導入された、暫定的で、期限のある」措置要求にすぎず、「追加1mSv/年」さえ満たしていれば、法令違反にはならず、故意に放射能を放出しても良いというものではありません。ALPS処理水のように、海洋放出しなければならない緊急避難的な理由がなく、海洋放出以外にも代替手段がある場合に、また、関係者等がその放出に「絶対反対」している中で、それを無視して、故意に海洋放出を強行することは、違法行為を積み重ねるものと言えます。
海洋放出に係る放射線影響評価では、「代表的個人に対する被ばく線量は・・・となり、評価の目安である50μSv/年と比較すると極めて小さい」としていますが、この「50μSv/年」は「線量拘束値」であり、第65回原子力規制委員会(2022.2.16)で了承された「放射線影響評価の確認における考え方および評価の目安」に基づいています。実施計画変更申請の審査では、これが、年間トリチウム放出量を年放出管理値22兆Bqから緩和する際の目安として使われていますが、線量拘束値は、計画被ばくにおける事業所毎に割り振る最適化の目標となる制限値であって、現存被ばく状況にある福島第一原発には適用できないはずです。また、国内法令に導入されてもいません。国内法令に導入されていないICRP勧告やIAEAの基準を都合良くつまみ食いして、あたかも国内法令に則ったかのような審査や認可は行うべきではありません。
以上より、審査書の撤回と審査のやり直しを強く求めます。

若狭ネット第192号を発行:ALPS処理水の「春から夏の海洋放出」絶対反対! 文書確約違反、運用方針違反、実施計画違反を許すな! 「40年ルール」撤廃のGX脱炭素電源法案を廃案に!

第192号(2023/3/11)(一括ダウンロード5.0Mb
巻頭言–ALPS処理水の「春から夏の海洋放出」絶対反対!
文書確約違反、運用方針違反、実施計画違反を許すな!
「40年ルール」撤廃のGX脱炭素電源法案を廃案に!
1. 「あらゆる選択肢」を軽く求めるGX基本方針は、国民を奈落の底へ突き落とす
2. 原子力規制委員会は三条委員会の責務を放棄し、「規制の虜」へ戻るのか
3. トリチウム汚染水(ALPS処理水)は海洋放出できない!— 「サブドレン及び地下水ドレン」にまつわる3つの理由

政府がALPS処理水と称しているトリチウム汚染水は海洋放出できません。それには、「サブドレン及び地下水ドレン」にまつわる次の3つの理由があります。

第1に、原発事故後、大量に発生する汚染水を抑制するための「サブドレン及び地下水ドレン」の運用開始に向けて、政府は福島県漁連に対し、ALPS処理水は「関係者の理解なしには、いかなる処分も行いません」と文書で確約し、東京電力も「多核種除去設備で処理した水は発電所敷地内のタンクに貯留いたします。」と文書で確約しています。その最大の関係者である福島県漁連は「絶対反対」を堅持し続けていて、「理解」などしていません。海洋放出を強行すれば、政府と東京電力の文書確約は白紙と化し、今後、彼らが廃炉・汚染水対策で行おうとするいかなる「確約」も全く信用されず、協力は一切得られなくなるでしょう。

第2に、政府と東京電力の文書確約があったからこそ、福島県漁連は、苦渋の判断で、「サブドレン及び地下水ドレンの運用方針」に同意したのですが、そこには、「トリチウム濃度が1,500Bq/Lを超える場合には、排出しない、希釈しない、タンクへ移送する」と明記されています。排水されなかった「サブドレン及び地下水ドレン」の汲上げ水は、実は、地下水ドレン中継タンクからウェルタンクを介して2号機タービン建屋へ移送されていて、計約6.5万トンになります。これは、1~4号機建屋滞留水と混ざりあって、多核種除去設備ALPSで処理され、タンクに貯留されています。132万トン(2021/4/1時点では125万トン)のうちの約6.5万トンが「サブドレン及び地下水ドレン」汲上げ水なのです。そのようなALPS処理水を海洋放出すれば、「希釈しない、排水しない」と定めた運用方針に反するのです。サブドレンおよび地下水ドレンによる地下水くみ上げ・浄化処理後の排水は、建屋周辺地下水の水位制御の生命線として今も続けられていますが、トリチウム汚染水(ALPS処理水)海洋放出を強行すれば、運用方針そのものを破棄するに等しく、「サブドレン及び地下水ドレン」への福島県漁連の同意が根本から揺らぐことになります。

第3に、原子力規制委員会・規制庁は、脱原発福島県民会議など10団体との2月9日の交渉で、「『サブドレン及び地下水ドレン』の水が、建屋滞留水等と混在してALPSで処理され、ALPS処理水として混在したままタンクに貯留されているとすれば、『サブドレン及び地下水ドレン』の水が混在しているALPS処理水は海洋放出できない。」と断言しました。ところが、その後、「原子力規制庁としては、御指摘の『トリチウム濃度が1,500Bq/Lを超えるサブドレン及び地下水ドレンの水』はこれまで発生していないことを東京電力ホールディングス株式会社に確認しています。」との文書回答が届きました。実は、原子力規制委員会が認可し、東電が遵守すべき「実施計画」では、地下水ドレン汲上げ水は中継タンクから「集水タンクへ移送する」ことになっているのですが、東京電力は中継タンクでトリチウム濃度を測り、1,500Bq/Lをはるかに超える場合は「集水タンクへ移送せず、2号機タービン建屋へ直接移送」していたのです。原子力規制庁は、このタービン建屋へ移送された約6.5万トンを無視しようとしていますが、これは「実施計画」違反です。仮に、実施計画通り、汲上げ水を集水タンクへ移送していたら、6.5万トンをはるかに超える水が集水タンクやサンプルタンクから「タンク等へ移送」されていたことでしょう。しかし、実施計画のどこにも、移送先の「タンク等」や移送配管の仕様および移送ラインは全く記載されていないのです。他方、中継タンクからウェルタンクを介した2号機タービン建屋への移送ラインは実在し、実際に約6.5万トンが移送されたのです。ALPS処理水を海洋放出すれば、実施計画に違反してタービン建屋へ移送された約6.5万トンの「サブドレン及び地下水ドレン」汲上げ水の混在したALPS処理水を海洋放出することになり、実施計画違反を重ねることになるのです。

このような文書確約違反、運用方針違反、実施計画違反をさらに重ねるALPS処理水の海洋放出は断じて許せません。何としても阻止しましょう。

2023年2月9日ALPS処理水海洋放出方針決定に関する10団体主催・対政府交渉報告
交渉報告のpdfはこちら交渉議事録はこちら

2023年2月9日ALPS処理水海洋放出方針決定に関する10団体主催・対政府交渉報告・・・原子力規制庁は、「ALPS処理水に『サブドレン及び地下水ドレン』の水が混在していれば、ALPS処理水は海洋放出できない」と認め、6.5万トンの所在調査・回答を確約! 経産省は文書回答のみで、意見交換を拒否! 外務省は、ALPS処理水放出用海底トンネルが「人工海洋構築物」ではないとする根拠を明示できず!

2023年2月9日ALPS処理水海洋放出方針決定に関する10団体主催・対政府交渉報告

交渉報告のpdfはこちら交渉議事録はこちら

原子力規制庁は、「ALPS処理水に『サブドレン及び地下水ドレン』の水が混在していれば、ALPS処理水は海洋放出できない」と認め、6.5万トンの所在調査・回答を確約! 経産省は文書回答のみで、意見交換を拒否! 外務省は、ALPS処理水放出用海底トンネルが「人工海洋構築物」ではないとする根拠を明示できず!

私たち、脱原発福島県民会議をはじめ10団体は2月9日午前と午後に分けて、「医療・介護保険等の保険料・窓口負担の減免措置見直し」の撤回および「トリチウム汚染水(ALPS処理水)の海洋放出方針」の撤回を求め、対政府交渉をもちました。ここでは、午後に行われた二つ目の交渉の結果を報告します。
年初の1月13日に開かれた「ALPS処理水の処分に関する基本方針の着実な実行に向けた関係閣僚等会議」(議長は松野官房長官)が、「ALPS処理水の放出開始は今年春から夏ごろを見込む」と打ち出したことから、交渉は緊迫したものとなりました。2021年4月の海洋放出方針決定から2年経っても「関係者の理解」が得られるどころか、福島県漁連・全漁連など福島県内外で「断固反対」の声は揺るがず、太平洋諸国フォーラム等が放出中止を求める中、私たちは昨年4月19日の対政府交渉で暴き出した成果の上に、新たな主張と根拠を積み上げて追い詰め、放出撤回を求めました。恐れをなした経産省は出席を拒否し、ありきたりの文書回答のみに留まりましたが、原子力規制庁からはALPS処理水の放出を阻止できる重大な言質を引き出しました。今回の成果をさらに踏み固め、ALPS処理水の海洋放出を断固阻止しましょう。

1.ALPS処理水に『サブドレン及び地下水ドレン』の水が混在していれば、海洋放出できない

ALPS処理水は「関係者の理解なしには、いかなる処分も行いません」との経産大臣の文書確約と「多核種除去設備ALPSで処理した水は発電所敷地内タンクに貯蔵いたします」との東京電力社長の文書確約を受けて、福島県漁連は2015年8月末に苦渋の判断で、「サブドレン及び地下水ドレンの運用方針」に同意したわけですが、この運用方針の内容は、原子力規制委員会の認可を受けた東京電力の実施計画にも記載されています。私たちは、ALPS処理水の海洋放出は、文書確約に反し、運用方針にも反すると主張したところ、原子力規制庁は初めて、「ALPS処理水にサブドレン及び地下水ドレンの水が混在していたら、ALPS処理水は放出できない」と、次のように認めました。
(1) トリチウム濃度が1,500Bq/Lを超える「サブドレン及び地下水ドレン」の水は、実施計画のフローチャートでは「タンク等に移送して原因精査」となっていて、そこで作業の手続きは止まらねばならない。
(2) 仮に、(1)の「サブドレン及び地下水ドレン」の水が、建屋滞留水等と混在してALPSで処理され、ALPS処理水として混在したままタンクに貯留されているとすれば、「サブドレン及び地下水ドレン」の水が混在しているALPS処理水は海洋放出できない。原子力規制庁としては、このような「混在」はないと考えている。
(3) (1)に該当する「サブドレン及び地下水ドレン」の水は6.5万トン程度になると指摘されているが、それが「タンク等に移送して原因精査」された後、実際に、どこに、どのような状態で存在しているのか、ちゃんと調べて、福島みずほ議員事務所を経由して文書で回答する。
原子力規制庁からの文書回答は2月17日付けで届きましたが(文書回答はこちら)、「原子力規制庁としては、御指摘の『トリチウム濃度が1,500Bq/Lを超えるサブドレン及び地下水ドレンの水』はこれまで発生していないことを東京電力ホールディングス株式会社に確認しています。」というものでした。実は、「サブドレン及び地下水ドレン」の水には、(a)「集水タンク」へ移送され1,500Ba/L未満で浄化処理・排水されるものと、(b)それ以外の1,500Bq/L以上で「希釈しない、排水しない」の運用方針に従って「タービン建屋」へ移送されるものの2種類があります。原子力規制庁は、(a)の「集水タンクへ移送された水で1500Bq/Lを超えたものはなかった」と当然のことを述べただけで、(b)の水を無視したのです。東京電力が実施計画に記載されたとおり、(b)も含めて汲上げ水をすべて集水タンクへ移送していたら、「タンク等に移送」された水は(b)と同等以上の量になっていたことでしょう。その意味でも、(a)と(b)は一体のものであり、切り離せないのです。したがって、タービン建屋へ移送された(b)の水は、集水タンクへ移送された場合に「1,500Bq/Lを超えてタンク等に移送」される水に相当するものであり、ALPS処理水と混合・希釈・排水することは認められません。
東京電力の公表データによれば、2015年9月3日の「サブドレン及び地下水ドレン」汲上げ開始以降、「地下水ドレン中継タンクA~C」から「タービン建屋への移送量」は2020年10月までの累計で約6.5万トンになり、これらはタービン建屋滞留水と混じり合って一緒にALPS処理され、ALPS処理水タンクに混在して貯留されています。というのも、東京電力は、実施計画では「集水タンクへ移送する」となっているのに、中継タンクでのトリチウム濃度等を事前に分析し、集水タンクとタービン建屋のどちらへ移送するかを振り分け、中継タンクからウェルタンクを介して2号機タービン建屋へ移送していたのです(東京電力「サブドレン他水処理施設の状況について」,第24~57回 廃炉・汚染水対策チーム会合/事務局会議)。タービン建屋の床面が露出する2020年10月までは建屋滞留水と「混在」した汚染水がALPS処理され続けたのは確実です。ALPS処理水は2015年9月10日の52.8万トンから2020年10月8日には117.5万トンへ増えていますので、少なくとも増分の64.7万トンが「混在」したALPS処理水だと言えます。ALPS処理までのタイムラグを考慮すれば、もう少し多いかも知れませんが、2021年4月時点で125万トンのALPS処理水の大半に「サブドレン及び地下水ドレン」の水約6.5万トンが混在していることになります。実際には、ALSP処理水を混在水と非混在水に分けるのは困難でしょう。サブドレン汲上げ水については、一部で1,500Bq/Lを超えていましたが、これらの井戸からの汲み上げは中止されたため、地下水ドレンと一緒にタービン建屋へ移送されたサブドレン水はありません。いずれにせよ、「サブドレン及び地下水ドレンの水が混在したALPS処理水は海洋放出できない」との原子力規制庁担当者の断言は極めて重大であり、その確実な履行を原子力規制委員会に強く求め、ALPS処理水の海洋放出を中止に追い込みましょう。

2.規制庁はALPS処理水の年間放出量は、政府方針の22兆ベクレルを超える見直しが必要と主張

廃炉・汚染水・処理水対策関係閣僚等会議(議長は菅義偉首相:当時)の「東京電力ホールディングス株式会社福島第一原子力発電所における多核種除去設備等処理水の処分に関する基本方針」(2021年4月13日)では、「放出するトリチウムの年間の総量は、事故前の福島第一原発の放出管理値(年間22兆ベクレル)を下回る水準になるよう放出を実施し、定期的に見直すこととする。」と明記していますが、原子力規制庁は、実施計画の審査で、線量拘束値(50μSv/年)までなら引上げられると主張し、放出管理値22兆ベクレルを上回る年間総放出量の見直しを東京電力に強要していたことが改めて明確になりました。線量拘束値上限まで引上げるとすれば3.7京ベクレル、22兆ベクレルの1,700倍にもなる、とんでもない量です。福島第一原発1~3号炉のタンク貯留量と建屋内汚染水やデブリの中に存在するトリチウム総量は、2,069兆ベクレル(2020年1月1日時点)と評価されていますので、その全量を1年間で放出してもよいことになります。実際には、海水で希釈しなければならないため、ポンプの能力を100倍に増やさねばならず、非現実的ではありますが、これでは「規制」委員会ではなく「放出」委員会です。しかも、線量拘束値は計画被ばく時に各事業所へ割り当てられる制限値であり、原発事故で放射能汚染された事業所に適用すること自体が間違っています。原子力規制委員会が行政から独立した三条委員会であることの意義は、政府や電力会社の原発施策による放射能災害や放射線被ばくから国民を守ることにあります。政府方針や電力会社の意図すら超えて、国民により多くの放射線被ばくを強要する方向へ「規制」を大幅に緩和することではありません。原子力規制委員会の根本姿勢に異議を唱え、その責任を徹底的に追及していかねばなりません。

3.規制庁は「追加1mSv/年」を満たしていれば、線量告示違反ではないと強弁

福島第一原発は、事故直後、公衆の被爆線量限度1mSv/年を担保するための「線量告示」を満たせない違法状態でした。そのため、原子力規制委員会は、線量引き下げのため、「措置を講ずべき事項」で「発災以降発生した瓦礫や汚染水等による敷地境界における実効線量を2013年3月末までに1mSv/年未満とすること」を東京電力に求めたのです。福島第一原発は今でも敷地境界の空間線量が2.8~9.2mSv/年と高線量で、線量告示を満たせない違法状態にあります。しかし、原子力規制庁は、前回認めたこの明確な事実認定を否定し、「原子炉等規制法関係の法令では事故由来の放射性物質を含んだ基準にはなっていない」と開き直りました。しかし、法令の線量限度から除外できるのは「自然由来と医療被ばくの線量」だけであり、事故由来の放射性物質や放射線量は除外できません。これは法曹界の常識です。そのため、原子力規制委員会は、2年前の放射能分析施設設置審査に際し、特例で事故由来の線量を除外する法令改定(科技庁時代の「数量告示」の改定)を行おうとしましたが、放射線審議会に拒否された経緯があります。原子力規制庁担当者はその経緯も法令の常識も全く知らず、「法令では事故由来の線量は除外できる」と主張したのです。その認識は誤っていると、時間をかけて詳しく説明しても、本人は全く理解できなかったため、「そんな状態でここへ来られては困ります。勉強してきて下さい。」と訓示して議論を打ち切らざるを得ませんでした。事故由来の線量は、事故2年目以降は「元々あったもの」で「自然放射線と同じ」と理解していた東京電力(今は批判されて「理解」を変更している)と同様の認識が、原子力規制委員会・原子力規制庁の中に蔓延しているという、恐るべき実態が暴かれたとも言えます。ALPS処理水海洋放出の審査でも、「措置を講ずべき事項」への適合性しか審査されておらず、線量告示を遵守できていない状態は完全に棚上げ状態です。これは、「核原料物質、核燃料物質及び原子炉の規制に関する法律等の法令の遵守」が大前提であると明記された政府基本方針にも反しています。こんな原子力規制委員会・原子力規制庁には、ALPS処理水の海洋放出の安全性を審査し、認可する資格などありません。

4.ALPS処理水を海洋放出しなければならない「3つの理由」は依然として根拠なしの大ウソである

ALPS処理水を海洋放出しなければならない「3つの理由」、すなわち、①タンクは満水になる、②廃炉作業のために敷地を空ける必要がある、③汚染水は今後も発生し続ける、のいずれも大ウソだったことは、2021年4月19日の対政府交渉で明らかになっています。①は、満水になるタンク以外に、フランジタンク解体によるタンク増設可能エリアや空き状態の予備タンク等で計12万トンの余裕があり、これらを転用すれば数年は大丈夫。②は、2030年度頃までの敷地利用計画は5・6号機の使用済燃料を共用プールへ搬入するための乾式キャスク仮保管施設だけで、将来的に燃料デブリ一時保管施設等という、緊急性のないもの。③は、現在進めている水位低下作業を続ければ、1~3号原子炉建屋の床面露出は2年以内に可能、というものでした。ただし、経産省は、③については、建屋内滞留水の流出防止のためサブドレン水位と建屋内水位との水位差を80cm空けなければならないという制約がある、また、1号機の屋根からの降水流入(2~4号機には屋根あり)や1~4号機の地中浸透雨水の建屋流入などがあると主張していました。
そこで、今回は、③に関する私たちの主張を補強し、経産省の反論を完全に論破するつもりでしたが、経産省は文書回答のみで出席を拒んだため、かないませんでした。公開質問状に示したその内容は、極めて明快であり、「サブドレン水位は今、年平均T.P. 0.6mだが(T.P.は東京湾平均海面を基準とする標高)、1号機の建屋貫通部はT.P. 2.0m以上と高く、少雨期の地下水の建屋流入量はすでにゼロ、屋根の設置も2023年度完成が目標となっている。4号機でも、T.P. 0.6m以下の貫通部は2箇所程度で、少雨期の地下水の建屋流入量はほぼゼロ、フェーシングで雨水の地中浸透を防げば、1・4号機では2023年度末頃、かなりゼロに近づく。2・3号機でも、T.P.-2.0m以下に貫通部はなく、サブドレン水位をそこまで下げれば少雨期の地下水の建屋流入量をゼロにできる。現に、2022年度末には、原子炉建屋内滞留水の水位は、1号機でT.P.-2.2m程度、2・3号機でT.P.-2.8m程度へ下がるので、サブドレン水位をT.P.-2.0mまで下げれば、貫通部からの地下水流入量はゼロにできる。1号機の建屋内水位との水位差が20cmしかなくなるが、1号機ではすでにサブドレンの水位以下に貫通部はなく、基盤からの地下水流入も見られないことから、仮に水位が逆転しても、流出口がないため、建屋内汚染水が流出する恐れはない。フェーシングを優先的に行えば、汚染水発生量はゼロにできる。」――経産省がこの私たちの主張に反論するのは難しく、今回の文書回答でも、「廃炉作業を安全に進めるための必要な施設を建設できるよう、貯蔵タンクを減らしていく必要があります。建屋内滞留水を建屋の外に流出させないために地下水位を建屋内水位よりも高く維持し続ける必要があります。建屋内滞留水位及びサブドレン水位については、計画的に低下させていくこととしています。1-4号機建屋周辺のフェーシングについては、2028年度に8割程度まで完了できるよう、廃炉作業等と調整を図ることとしています。引き続き、汚染水発生量を減少させる取組を継続し、2028年度に汚染水の発生量を1日当たり約50-70立方メートルまで低減することを目指します。」というもので、具体的ではありませんでした。経産省にとっては、汚染水が発生し続けないとALPS処理水を海洋放出する理由の一つがなくなるため、汚染水対策をサボタージュしようとしているのかもしれません。そんなことは断じて許せません。ALPS処理水の海洋放出を中止し、汚染水発生ゼロを目指すべきです。

5.海底トンネルを人工海洋構築物と見なしロンドン条約に基づきALPS処理水の海洋放出を禁止すべき

ALPS処理水の海洋放出については、福島県内外から反対の声が強く出ているだけでなく、国際的にも、19の太平洋島嶼国・地域からなる太平洋諸島フォーラムPIFが、事務局長声明をホームページで公開し、「日本政府が行ったことは、ごくわずかな限られたデータと情報の提供のみでした。」と経緯を説明し、「すべての関係者が科学的手法を通して汚染水の海洋放出の安全性を立証するまで、それは実施されるべきではない――我々の地域のこの断固たる立場は変わることはありません。」と、海洋放出の中止を求めています。ところが、外務省は、2月2日のミクロネシア大統領と岸田首相の会談や2月7日のPIF代表団と岸田首相の会談での外交辞令的発言で理解が得られたかのような説明を繰り返し、PIFが「緊密なコミュニケーション」を希望したのは、ALPS処理水の海洋放出に納得しておらず、中止を求めているからであることを無視し、「引き続き対話を行っていくことで一致した」と、うそぶき続けました。太平洋島嶼国の主張を踏みにじる、このような対応は、断じて許されません。福島からの参加者は、原発事故被害者として、マーシャル諸島等の核実験被害者と連帯する立場から、外務省の姿勢を厳しく批判しましたが、外務省は全く意に介しませんでした。
ALPS処理水は、放出立坑と海底トンネルを介して海洋放出されようとしています。これは、ロンドン条約/議定書で禁止された「その他の人工海洋構築物からの故意の海洋処分」に該当するとの観点から、私たちは、ロンドン条約締約国である日本の国民として、自国の裁量として禁止するよう求めてきました。しかし、外務省は、「何が人工海洋構築物に該当するのか、ロンドン条約締約国の間で共通認識がない。締約国の裁量で決めることはできるが、義務ではない」と屁理屈をこね、「海底トンネルは人工海洋構築物ではない」と主張しましたが、その根拠については全く説明できませんでした。国民への説明も全くできていないのです。こんな状況で、この春から夏にかけてALPS処理水の海洋放出を開始することなど断じて許されません。
対政府交渉の成果を広く伝え、福島との連帯、太平洋島嶼国・地域との連帯を強め、すべての反対勢力の総力を結集して、福島県漁連との文書確約違反、線量告示等法令違反、ロンドン条約違反で、関係者の理解も得られていない、ALPS処理水の海洋放出をなんとしても止めましょう!

(前半の「医療・介護保険等の保険料・窓口負担の減免措置見直し」の撤回の交渉内容は別紙)

呼びかけ10団体:脱原発福島県民会議、双葉地方原発反対同盟、福島原発事故被害から健康と暮しを守る会、フクシマ原発労働者相談センター、原水爆禁止日本国民会議、原子力資料情報室、全国被爆2世団体連絡協議会、原発はごめんだ!ヒロシマ市民の会、チェルノブイリ・ヒバクシャ救援関西、ヒバク反対キャンペーン