2023年6月12日ALPS処理水海洋放出に関する10団体主催・東京電力との交渉報告
東京電力は文書確約を遵守し、真水による試験放出など準備作業を直ちに中止し、「福島県漁連などが反対している限り放出しない」と約束せよ!サブドレン及び地下水ドレン運用方針違反、実施計画違反の責任をとり、「トリチウム汚染水(ALPS処理水)の夏頃海洋放出」を断念せよ!
東京電力への質問書(2023.5.30)
東京電力との交渉報告
東京電力との交渉記録
東京電力との交渉資料
トリチウム汚染水(ALPS処理水)の海洋放出に向けた準備作業が「汚染水を真水に置き換えての海洋放出の試験運転」という最終段階に入った6月12日、早朝から試験放出が始まる緊迫した状況の中、私たち、脱原発福島県民会議をはじめ10団体は午後1時半から4時前まで、海洋放出撤回を求め、福島市内で東京電力との交渉をもちました。市民側参加者約50名(マスコミ5名を含む)で、その大半は福島県内の各地から駆けつけた市民で、「これまで何度も、関係者の理解を得ない限りは放出しないと言っていたのに、真水で試験放出を開始するとは、東電は何を考えているのか!」「約束違反ではないか!」と、強い怒りを持って東電に抗議しました。そして、参加者が一体となって東京電力の無責任な姿勢を追及し、海洋放出の撤回を求めました。
東京電力は当初、「マスコミは最初の挨拶までで退席するように」と求めていましたが、会場の強い抗議の声で「一通りの東電回答終了まで取材可」となりました。ところが、東京電力は今回、文書回答の事前提出に応じず、準備した東電回答を次々と読み上げたのですが、「重要な質問項目を飛ばして回答しない」、「全く異なる質問に同じ回答を延々と続ける」など人を馬鹿にした回答が続いたため、回答のいい加減さをデータで具体的に指摘し、質問の趣旨を正確に説明して具体的に回答するよう求めました。すると、東電側出席者4名全員が回答できずに黙ってうつむく「沈黙の時間」が増え、「(指摘された点について)ここでは肯定も否定もできない」、「社へ持ち帰ってしかるべき部門に伝え、すべての質問項目に対して6月末を目途に文書回答を出す」という結果になったのです。結局、一通りの東電回答だけで2時間を費やしたものの、マスコミは最後まで退席せずに取材できました。
不十分な東電回答でしたが、それでも、質問の趣旨を巡るやりとりや東電の「度重なる長い沈黙」・回答姿勢などを通じて、次のように重要な成果が得られました。
ALPS処理水海洋放出に「理解」は得られず、準備作業強行が逆に「理解」を妨げ、不信感を増している
第1に、「ALPS処理水は関係者の理解なしにはいかなる処分もせず、タンクに貯留し続ける」との福島県漁連への文書確約について、私たちは、福島県漁連が「絶対反対」を貫いており、「国内外の関係者の理解」など得られていないこと、海底トンネル掘削工事や真水による試験放出は文書確約違反であり、関係者の理解を一層困難にしていることを改めて示し、「真水による試験放出を直ちに中止し、福島県漁連などが反対している限り放出しない」と約束するよう強く迫りました。司会や会場からの鋭い追及に、東京電力は長く「沈黙」して答えられず、「予め頂いていない質問だ」とかわそうともしましたが、質問内容そのものだと迫られると、「『理解』については、いろんな立場、考えの方がいて一律には言えない」、「準備作業が『理解』を妨げることにはならない」と開き直りました。すると、司会や会場から一層激しく追及され、東京電力は論点を変えようとしたり、「それぞれの立場を尊重して説明させて頂いている」と逃げようとするなど、しどろもどろの対応に終始したのです。結果として、海洋放出に「理解」は得られておらず、準備作業の強行が逆に「理解」を妨げていることが事実で示されました。
地下水ドレン汲上げ水6 .5万 m 3のALPS処理水への混在は「緊急的な対応」の結果だと口裏合わせ
第2に、「サブドレンおよび地下水ドレン汲上げ水の混在するALPS処理水は海洋放出できない」との原子力規制庁担当者の断言(2023.2.9対政府交渉)に基づき、私たちは、ALPS処理水には地下水ドレン6.5万 m 3が混在しており、ALPS処理水は海洋放出できないはずだと迫りました。すると、東京電力は、「地下水ドレン汲上げ水のタービン建屋への移送」は、海側遮水壁閉合に伴う地下水上昇に対処するための「緊急的な対応のもの」で、集水タンク満水時に「トリチウム濃度が運用目標の 1 ,500Bq/Lを超えないようにタービン建屋へ移送したものではない」と主張し、「タービン建屋へ移送した地下水ドレン汲上げ水6 .5万トンは、混在してはならない地下水ドレン汲上げ水」とは異なるかのように言い繕おうとしました。これに対し、トリチウム濃度が高い場合はタービン建屋へ、低い場合は集水タンクへ移送していることを示すデータを突きつけたところ、「ここでは否定も肯定もできない」と逃げ、「社へ持ち帰り、改めて回答する」ことになったのです。この背景には、東京電力の運用方針違反(「 1 ,500Bq/Lを超える地下水ドレン汲上げ水は希釈しない、排水しない」に違反)・実施計画違反(「地下水ドレン汲上げ水はすべて集水タンクへ移送し、満水時に 1 ,500Bq/Lを超えたらタンクへ移送する」に違反)を覆い隠し、原子力規制委員会・規制庁の実施計画不備の瑕疵を隠蔽しようという目論見があるのです。原子力規制委員会・規制庁については、実施計画では地下水ドレン汲上げ水はすべて集水タンクへ移送することになっていて、タービン建屋への移送は実施計画違反なのにそれを黙認したこと、集水タンク満水時に 1 ,500Bq/Lを超えた場合に移送先となるタンクや移送配管・移送ラインが実施計画に記載されていないことなどが重大な瑕疵となります。これらの責任を追及されないよう、「地下水ドレン汲上げ水のタービン建屋への移送」について、原子力規制庁は「緊急対応の一環」だと言い、東京電力は「緊急的対応」だと主張するなど、事前に口裏合わせをして逃げようとしていることも明らかになりました。ちなみに、東京電力回答で「緊急対応」とせず「緊急的対応」としたのは、「緊急」とは言えない後ろめたさからからだと思われます。
いずれにせよ、海側遮水壁閉合に伴う地下水上昇は計画段階から予想され、トリチウム濃度の高い地下水が多く含まれることもわかっていましたので、集水タンクへ全量移送すれば、満水時に 1 ,500Bq/Lを超えることは「事前に十分想定」された事態だったのです。実施計画未記載の瑕疵や実施計画違反の責任を「緊急対応」や「緊急的対応」で正当化することなど許されません。
タービン建屋への移送先を2号機と3号機に分けたのは「平準化」のためというが、事実無根である
第3に、「(2015年11月からの)地下水ドレン汲上げ水のタービン建屋への移送先は2号機タービン建屋(実施計画未記載の既設ライン)」である一方、「(2017年2月からの)地下水ドレン汲上げ水の前処理後の濃縮塩水移送先は3号機タービン建屋(実施計画記載の新設ライン)」と異なっている理由について、東京電力は「タービン建屋からの移送ポンプの移送量を平準化すること」が目的だと主張しました。しかし、2号機と3号機の建屋内の滞留水量は2016年平均で16 ,217 m 3と16,558 m 3、2017年平均でも13 ,317 m 3と13 ,255m3でほぼ同程度であり、タービン建屋からの移送ポンプの移送量を平準化しなければならないほどの不均衡はありません。また、地下水ドレン汲上げ水とウェルポイント汲上げ水の2号機タービン建屋への合計移送量は2016年の78 ,029 m 3から2017年に8 ,820m3へ一桁下がり、2018年には地下水ドレン汲上げ水の2号機タービンへの移送がゼロになってウェルポイント汲上げ水の移送量3 ,768 m 3だけになる一方、3号機タービン建屋への濃縮塩水の移送量は2017年に805m3で2号機への移送量の1割弱にすぎず、201 8年には46 m3へさらに減っています。これでは、とても「平準化」などと言えるものではありません。つまり、2号機と3号機の「タービン建屋からの移送ポンプの移送量を平準化」する目的だとは到底言えないのです。
要するに、地下水ドレン汲上げ水前処理後の濃縮塩水移送先を3号機とした本当の理由は、「ウェルポイント汲上げ水と地下水ドレン汲上げ水のウェルタンクを介した2号機タービンへの移送ラインがすでにあり、それが実施計画に未記載の違反状態にあったため、今さら濃縮塩水の2号機タービン建屋への移送を『新設』ラインとして申請できない」という事情があったのではないかと思われます。これも、実施計画違反や実施計画未記載の瑕疵などを隠蔽する行為の一環だと思われます。
ALPS処理水海洋放出は、公衆の被ばく線量限度1 mSv/年を担保するための「線量告示」に違反する
第4に、私たちは、福島第一原発では、2023年6月1日現在なお敷地境界モニタリングポストで空間線量が2.9~8 .9 mSv/年と高く、公衆の被ばく線量限度1mSv/年を担保するための「線量告示」を満たせない違法状態にあり、ALPS処理水の海洋放出など新たな放射能放出は許されないと主張しました。これに対し、東京電力は、原子力規制委員会から措置を講ずべき事項で「追加的な放出等による敷地境界での実効線量を年間 1mSvとすることが求められている」と主張して原子力規制委員会に下駄を預け、この「追加的な実効線量(追加線量)が 1mSv/年以下なら線量告示違反にならない」という法的根拠を示すことはできませんでした。そうである以上、法令違反(線量告示違反)のALPS処理水は海洋放出できないはずです。
かつては、「 ①事故直後には、その前の1年間と比べると1 mSvを超えていて違法状態だったが、 ②次年度からは、敷地外(周辺監視区域外)に存在する放射性物質による放射線量は、「元々あったもの」であり、「自然放射線」と同じとみなされる、 ③事業所内の作業で前年度と比べてどれだけ放射線量が上乗せされたかが法令での規制対象になる。したがって、敷地境界での空間線量のモニタリングの実測値とは関係なく、前年度に比べて、上乗せされる計算上の線量が年 1mSv以内であれば法令遵守である。」(脱原発福島県民会議との 2022.4.12意見交換後のアドバイザーへの東電担当者の説明)という極論を述べていましたが、この点に関する脱原発福島県民会議による2022年5月26日付け質問書への2022年6月17日付け東電回答では、「十分なご説明が出来ず、誤解を与えてしまったと考えております。今後は、資料に基づき、事前に準備のうえ、対応させていただきます。」と前言を撤回し、今回と同じ内容を回答していたのです。線量告示には、現存被ばく状況や計画被ばく状況の区別はなく、実効線量から除外できるのは自然放射線と医療被ばくだけです。「追加線量が 1mSv/年を超えなければ違法ではない」とする根拠法令など存在しないことが改めて明らかにされたと言えます。
ALPS処理水を海洋放出しなければならない3つの理由は、「海洋放出ありき」が前提で捻出されたもの
第5に、東京電力や政府が挙げる「ALPS処理水を海洋放出しなければならない3つの理由」(①タンクは2023年春頃満水になる、②廃炉作業のために敷地を空ける必要がある、 ③汚染水は今後も発生し続ける)には根拠がないとする私たちの主張に対し、東京電力はまともに答えず、 ①は「タンク増設はしない」方針ありき、②は「不要不急の敷地利用」計画ありき、 ③は「汚染水発生ゼロはめざさない」方針ありき、の回答に終始しました。つまり、3つの理由は、「海洋放出ありきを前提に捻出されたもの」だったのです。
<敷地に余裕があっても、タンク増設せず、不要不急の5・6号機使用済燃料乾式貯蔵施設建設を急ぐ>
①については、「フランジタンク解体エリアには溶接タンク約9万トンが増設可能で、空けた状態の予備タンクが2.5万トンもあり、計12万トンの余裕がある」との私たちの指摘に、東京電力は正面から答えませんでした。その代わりに、 ②との関連で、「燃料デブリ取出しに関連するメンテナンス施設・保管施設や、1~6号機の使用済燃料プールを空にするために必要な乾式キャスク仮保管設備などを2020年代前半頃に着工する」ため、「フランジタンク解体跡地を含め敷地を有効活用する計画」を対置したのです。つまり、「タンクが満杯になる」との主張は、「溶接タンクをこれ以上増設しないという方針ありきの人為的な理由」にすぎなかったことが明らかになったのです。
また、②の敷地利用計画については、事故を起こした1~4号機の使用済燃料の保管だけなら十分すぎる容量(共用プールと乾式キャスク仮保管設備の容量10 ,699体に対し9 ,507体貯蔵中で1 ,192体の余裕あり)がすでにあるのですが、事故を起こしていない5・6号機の使用済燃料2,830体の貯蔵プールからの搬出・保管が必要だとし、共用プール6,595体(容量6,734体)の乾式貯蔵化も進めるという新たな敷地利用計画を持ち出し、敷地が足りない状況を人為的に作り出そうとしたのです。東京電力は、プール貯蔵より乾式貯蔵の方がリスクが小さいと主張していますが、間違いです。使用済燃料をプール貯蔵から乾式貯蔵へ移すには、5~10年以上プールで冷やし、人の発熱量(2~3kW/tU)程度にまで崩壊熱を下げ、空気中でも自然空冷可能な状態にする必要があります。この状態に至ればプール貯蔵と乾式貯蔵のリスクに差はありません。乾式キャスクの表面線量は強い中性子線やガンマ線のため10 μSv/h(年換算88 mSv)程度と高く、コンクリート貯蔵施設で遮蔽しないと85m圏内(伊方原発の場合)を管理区域(3ヶ月当り1.3 mSv)に指定しなければならないほどです。この意味では、共用プールのほうが、放射線を遮蔽できるため、労働者被曝を減らせますし、崩壊熱の高い使用済燃料が今後持ち込まれることもなく、東日本大震災の地震・津波に耐えた共用プールをわざわざ解体して乾式貯蔵へ移行させる必要など全くないのです。
デブリ取出し関連施設もデブリ取り出し作業そのものが止まっていて見通しが全く立たないのが現状です。東京電力は、2号機デブリは横から取出すから原子炉上部のシールドプラグでの高汚染状態は直接影響ないと回答しましたが、これは「極めて能天気な思考」であり、原子炉内に残存するデブリ取出しの困難さを軽視し、当面の場当たり的な取り出し作業しか見ようとしない安直な発想であり、東京電力の「廃炉作業全体を俯瞰しながら作業を進める能力のなさ」を改めて示したものと言えます。
<「地下水の建屋流入」はサブドレン水位を T.P.-2.0mへ下げれば、すぐにもゼロにできる>
③については、「2028年度に汚染水発生量を1日当り50~70m3まで低減することをめざし取り組んでおり、現状において十分管理されていることから、この措置を継続していきます。従って、地下水の流入を完全にゼロとすることはできません。」という回答でした。これも「汚染水発生ゼロはめざさない」方針ありきの回答です。そこで、私たちは、「1号機の建屋貫通部はT.P.2.0m以上と高く、少雨期の地下水の建屋流入量はすでにゼロ、4号機でもサブドレン水位以下の貫通部は2箇所程度で、少雨期の地下水の建屋流入量はほぼゼロ、1号機屋根完成とフェーシングで雨水の地中浸透を防げば、1・4号機では2023年度末頃にかなりゼロへ近づく。2・3号機でも、T.P.-2.0m以下に貫通部はなく、サブドレン水位をそこまで下げれば少雨期の地下水の建屋流入量をゼロにできる。原子炉建屋内滞留水の水位は、2023年3月末に、1号機でT.P.-2.2m程度、2・3号機でT.P.-2.8m程度へ下がっており、サブドレン水位をT.P.-2.0mまで下げれば、貫通部からの地下水流入量はゼロにできる。」と具体的に指摘しました。すると、東京電力は、止水施工をしているとか、原子炉建屋を床面露出させると建屋内の放射性ダスト濃度が上がるとか、サブドレン水位は毎日変化しており建屋内滞留水の水位より低くなると汚染水が漏れ出すとか、汚染水発生量ゼロをめざさない理由を探そうとしました。私たちは、止水施工は雨水対策であり、進めてもらえばいいが、汚染水発生の最大要因である地下水の建屋流入抑制とは関係ないこと、床面露出によるダスト問題は水を低水位で残せばすむこと、建屋内水位と地下水位の逆転防止のために80cmの水位差が設定してあり、これを維持すれば逆転は起こらないこと、などを具体的に示して反論した結果、東京電力は長い沈黙の末に、「ご意見を社へ持ち帰って、しかるべき部門へ伝え、6月末を目途に全質問に対して改めて回答する」ことを約束せざるを得なかったのです。
いずれにせよ、ALPS処理水を海洋放出しなければならない理由など存在せず、東京電力や政府の主張するいずれの理由も、「海洋放出方針ありきの取って付けた理由」に過ぎないことが改めて明らかにされたと言えます。こんな理不尽なトリチウム汚染水(ALPS処理水)の海洋放出は断じて許せません。
東京電力の不誠実な回答を広く伝え、国内外のすべての反対勢力の総力を結集して、福島県漁連との文書確約違反、運用方針違反、実施計画違反、線量告示等法令違反、ロンドン条約違反の責任を追及し、トリチウム汚染水(ALPS処理水)の海洋放出をなんとしても止めましょう!
呼びかけ10団体:脱原発福島県民会議、双葉地方原発反対同盟、福島原発事故被害から健康と暮しを守る会、フクシマ原発労働者相談センター、原水爆禁止日本国民会議、原子力資料情報室、全国被爆2世団体連絡協議会、原発はごめんだ!ヒロシマ市民の会、チェルノブイリ・ヒバクシャ救援関西、ヒバク反対キャンペーン
連絡先:原子力資料情報室(担当:高野聡)< takano@cnic.jp>
チェルノブイリ・ヒバクシャ救援関西(担当:振津かつみ) <cherno-kansai@titan.ocn.ne.jp>